就活情報サイト「リクナビ」が、学生の個人データから内定辞退率を予想し企業に売っていた。データは本人同意が不十分なまま流れていた。販売した側、購入した企業双方が猛省すべき問題だ。
リクルートキャリアが運営する「リクナビ」には就活生の大半が登録している。
同社は学生が就職先として興味を持っている企業の閲覧履歴や、企業から集めた前年の就活動向などを人工知能(AI)で解析。そこから就活生が内定を辞退する確率を割り出し、企業に販売していた。
リクナビ側は、企業への情報提供があり得ることなどを利用規約に示し、就活生から同意を得ていたという。だが内定辞退の予測値を細かくはじき出し個人が特定できる形で売り渡しているとは、どの就活生も思っていなかっただろう。さらに約八千人については、同意自体得ていなかった。
選考にデータを利用しないとの約束は販売先企業と交わしていたという。しかし利用したか否かを証明するのは難しいと言わざるを得ない。もし企業がデータを使っていれば、学生の未来が変わってしまった可能性が生じる。
就活生には不安が広がっているはずだ。リクナビ側はもちろん購入した企業も、自分たちの行為がどれだけ学生たちに不信感を植え付けたのかよく考えてほしい。
個人情報保護法では、個人情報の第三者への提供について、本人の同意が必要と定めている。だが実際の運用ではその同意手続きは形だけとなってはいないだろうか。ましてやAIを駆使した個人情報の受け渡しについて、現行の同法がどれだけ規制の網をかけられるのか疑問もある。
今回の問題は法律面も含めた個人情報の扱いの問題点も浮き彫りにした。AI技術の急速な進歩も見据えながら官民一体となったルールの見直しが急務だろう。
企業側にとって採用は自社の将来を担う人材を発掘するという意味で、重要な活動であることは理解できる。しかし、学生にとっても就活は社会への第一歩に向けた極めて大切な行為であり、大きな精神的負担も強いる。
その就活を通じて得た若者たちの個人情報をビジネス化して売買したことは、企業倫理の劣化と批判されても仕方がないだろう。今回を契機にして、大小を問わず、すべての企業経営者が人材活用のあり方を見つめ直すよう強く期待したい。
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