正しいストライキのやり方について
国鉄時代毎年のように行われていたストライキ。電車には決まってこのような落書きが。
高速道路のサービスエリアの売店や食堂が従業員のストライキで営業休止というニュースが入ってきました。
お盆の帰省ラッシュのさなか、たくさんのお客様で賑わうはずのサービスエリアが営業できないということは、会社にとって大きな損害になるのはもちろんですが、利用者にとっても大きな迷惑です。
昭和の時代、国鉄や大手私鉄などの交通機関は、利用者に迷惑をかけることで会社にダメージを与えようと毎年のようにストライキを行ってきました。
今回のサービスエリアの従業員も、おそらく一番混雑するときにストライキを行うことで、大きな成果を上げようとたくらんでいたものと思われますが、やり方を見ていると彼らの行為はストライキではなく、単なる職場放棄、業務のボイコットであると考えられます。
では、いったいストライキと職場放棄とはどこがどう違うのか、考えてみたいと思います。
まずやることは話し合い
今回の騒動の発端は会社の社長のやり方に反対した職員を解雇したことにあるようで、もしかしたら責められるべきは経営側(以下、会社側)にあるのかもしれません。その点では会社側に非があるかもしれませんし、本来労働者は守られるべき存在ですから、自分たちが正しいという主張を通すためには何らかの実力行使をしなければならないという気持ちは理解できます。でも、だからといって、いきなり職場を放棄することは認められることではありません。
まず最初は会社側と従業員側とで話し合いをしなければなりません。
では、どうしたら会社側と従業員側で話し合いができるのか。
話し合いというのはいわゆる自分たちの要求(この場合は不当解雇の撤回)を会社側に申し出て、それを了承してもらうことになりますが、ふつうのサラリーマンであれば、いきなり社長や取締役に直談判をすることはできません。
一般のサラリーマンは会社との交渉の窓口がありませんから、一人では聞き入れてもらうことができません。
まして、会社に対して意見を言うということは、サラリーマンにとっては首を覚悟で臨まなければなりませんからある意味自殺行為です。
通常会社側が意見を聞くのは従業員の代表からというのが一般的です。
そこで必要になるのが労働組合ということになります。
会社の中に労働組合があって、適正な選考方法(選挙や推薦、委任など)で選ばれた代表、たいていは委員長という呼び方ですが、会社が話し合いをするのはこの労働組合の委員長、あるいは委員長、副委員長、書記長などの三役とになります。
この労働者の代表と会社側との話し合いを「団体交渉」と言います。
サラリーマンが会社に対して自分たちの意見を言うためには、まずは労働組合があることが前提になるのです。
そして、通常、団体交渉に於いて自分たちの要求は「要求書」にまとめられていますが、その要求書を作るためには各職場で「職場集会」というものを何度か繰り返しながら、内容を練り上げていきます。
そして、最終的に要求書が出来上がると、その要求書に対して「スト権投票」を行います。
これはその組合の内部規定に基づき、例えば全組合員の3分の2以上の賛成等により可決されるもので、要求書に対してスト権投票が可決されることを「スト権の確立」と言います。
組合の代表者である委員長以下三役は、団体交渉で要求を提出するときに「スト権が確立している」旨を会社側に伝えます。この要求書の内容が認められなければ自分たちはストライキも辞さないという決意を団体交渉の席上で会社側に伝えるのです。
この要求書の提出により、会社側に従業員が考えていることが伝わります。そして、その内容が個人的な要求ではなく、労働者の総意であることも理解することになります。
要求書をもらった会社側は、通常、その場で返答をすることはありません。
団体交渉の席上では組合の代表者から、要求書の内容事項、そこに至った経緯、現場の状況などの説明を受け、「要求書の内容をよく読んで検討いたします。」というような返事をするのが通常です。
毎年行われる春闘の場合は、組合側から「では〇月〇日に回答をお願いします。」という申し出をします。
これを「回答指定日」といいます。
回答指定日は通常、10日から2週間程度先の日付を指定します。
会社側に十分な検討時間を与えるとともに、この要求書提出から回答指定日までのインターバルの間にストライキに向けた準備をするためです。
ストライキに向けた準備
職場からの意見をまとめ要求書を作成し、スト権投票の後にスト権が確立しました。
その要求書を団体交渉の席上で会社側に提出しました。
次に労働組合が行なうことは、その要求書と確立したスト権を届け出ることになります。
まず厚生労働省へ行き、スト権が確立している要求書を提出します。
これを「スト権ファイル」と言います。
スト権がファイルされると官報に掲載されます。
「〇〇株式会社は現在労働争議が発生していて、交渉の如何によってはストライキが予定されています。」
ということが公になるのです。
ここで定められているのは告知したストライキが実際に社会に周知徹底するまでの期間。
「今日スト権をファイルしましたので今からストライキに入ります。」では社会に告知をする時間としては不十分です。
ストライキというのは社会に大きな影響を与える可能性があることですから、社会一般に十分に浸透する期間が必要です。
この期間というのは通常「中10日」。
例えば本日18日にスト権ファイルをすると、19日~28日までの猶予期間があって、29日に初めてストライキに入ることができます。
これが団体交渉で回答指定日を10日以上先に設定する理由です。
次に組合代表は労働委員会に赴きます。
労働委員会というのは国が所管する中央労働委員会〈中労委)と各都道府県の労働委員会というのがありますが、会社の規模によって、例えば事業所が2か所以上の都道府県に存在する場合は国が所管する中労委へ出向くことになります。
労働委員会では、組合代表は要求書の内容、要求書作成の経緯、会社の状況などを説明します。
そして、その説明と要求書の内容を見て、要求が妥当なものかを判断します。
労働組合が団体交渉を通じて会社に要求できることは、労働条件の改正(賃金アップ、休暇を増やすなど)、労働環境の改善、不当労働行為の是正、不当処分の撤回など限られています。会社の経営権に関することや人事権に関することに対して、例えば「社長を首にしろ」などということを要求することはできません。あるいは労働条件の改善といっても「給料を倍にしろ」とか「週休3日にしろ」などということは社会の動向から見て適当ではありません。
労働委員会は要求書を読んで、組合代表者から意見を聞いて、その要求が妥当なものかを判断し、例えば「これでストライキをやるのは無理ですよ。」とか、「この要求書の内容なら、社会の同意も得られますよ。」などというアドバイスをしていただくことで、組合側も自分たちが置かれている状況や要求している内容が、社会的に見て受け入れられることなのかを判断することができるのです。
今回のサービスエリアの従業員の対応は
合法的なストライキというのは、このように各種手続きを経て行われるものです。
ストライキというと通常は鉄道会社やバス会社、航空会社などの輸送機関が大きなニュースになります。それは社会に与える影響が大きいからですが、高速道路のサービスエリアもまったく同じで、社会に与える影響は大変大きなものがあります。
このように社会に公的なサービスを提供する会社というのはそれなりの使命があるわけで、そこで働く従業員というのはその使命をきちんと理解している必要があります。
今回のサービスエリアで行われたストライキは、社長が寝耳に水だというようなコメントをしているところを見ると、きちんとした手順を踏んでいないようです。
高速道路会社の方も事前にサービスエリアの運営会社と従業員の代表がスト権を立てて団体交渉をしているという話を聞いていれば、何らかの手を打てたはずです。
朝、職場に誰も出勤せず、営業を開始することができない状態を作り出すことを予告なく行うことで会社に対して実力行使に出たわけですから、労働争議の方法としては認められるべきことではありません。
これはストライキではなく「職場放棄」「サボタージュ」と呼べるものです。
したがって、今回の行為は社会的に認められるものではないということになります。
会社側は2日後に別の従業員を投入して一部業務を再開したようですが、それに対して一部マスコミが「スト破りだ」という報道をしていたようですが、こういうやり方は本来ストライキではなく「職場放棄」「サボタージュ」ですからスト破りでもなんでもありません。
最近のマスコミはこういうことも分からない人が記事を書いている状況のようですが、無断で職場を放棄したり、あるいは職務をボイコットしたことになりますから、サボタージュに参加した従業員は保護されるどころか、逆に解雇を含む処罰の対象になるということです。
まして、お盆の帰省ラッシュのピークを狙って会社に損害を与えることを前提に、たくさんの利用者に迷惑をかけたのですから、その行為はある意味悪質で、社会的承認も得られないのではないかと筆者は考えます。
あくまでも会社側が「何も聞いていなかった。」「何も知らされていなかぅた。」という話をもとにすると、このようなことになります。
なぜ、こういうことが起こるのか
では、なぜ、こういう職場放棄が起きるのかという問題ですが、ひと言でいうと労働者が法律を知らないことが原因です。
ストライキを実施する場合の手順がわからないのです。
では、なぜ労働者が法律を知らないかというと、その理由は「世の中が豊かになったから」だと考えます。
戦後の高度経済成長期、地方から集団就職で都会にやってきた若者たちは厳しい労働条件や労働環境の中で一生懸命働いてきました。安い賃金で、中には使い捨てのように働かされていました。
ちょうど今、NHKの朝のドラマで「妊娠出産したら正社員から契約社員になる。」という話が出てきていますが、産後復帰もままならなかったのが昭和の高度経済成長期です。つまり労働者はある意味で使い捨てにされていたのです。
そういう時代に、労働者たちは団結して、法律を勉強して、会社と対等に意見を言える知識を身に付けて、組合活動を行い、団体交渉で一つ一つ要求を勝ち取り、労働条件や労働環境を改善していきました。
そして、その結果として会社と従業員の間に労働協約が出来上がりました。
それまで会社から一方的に示される就業規則だけだったものが、組合の要求を入れた労働協約に変わっていくことで労働者の皆さんが豊かになったのです。
その労働組合運動の中心になったのが戦中戦後世代。(具体的には昭和15年頃~昭和25年頃の生まれの方々)
筆者が社会人になった30数年前は、まだ会社の中に戦中戦後世代の人たちがたくさんいて、皆で団結して会社と闘争することが当たり前という雰囲気が流れていました。
そのためには役職のない社員は皆労働組合に入るのが当たり前で、組合の集会に参加しては、意見を交換するというのが当たり前に見られました。
ところで、労働組合活動というのは自主的な活動です。
ということは、勤務が終わってから毎週、あるいは毎月集会を行います。
当然その時間分の賃金は支払われません。
賃金が支払われないどころか、組合員は毎月組合費を納めなければなりません。
今はいくらか知りませんが、筆者が組合員だった30年前で毎月1万円程度でした。
この組合費は飲み食いするための費用ではなくて、ストライキを行った場合はそのストライキ期間中に会社は賃金を支払いませんから、その時のために内部留保として蓄えておく積立のためのもので、その積立金額がいくらあるかによって、実際に何日間ストライキができるかどうかが決まる貴重なお金です。でも、低条件で使われていた食うや食わずの時代ならまだしも、自分たちが豊かになってくると、勤務の余暇やあるいは休日に組合集会に出たり、毎月の給料から組合費が徴収されることに違和感を感じる人たちが出始めます。
まして、当時は「組合イコールストライキ」の時代でしたから、そういう実力行使にも抵抗を感じる人たちが出てきます。
そして、一人抜け、二人抜けと徐々に徐々に組合の組織率が減っていきました。
戦中戦後生まれの活動熱心な組合員が定年を迎えて退職していきます。
それと同時に、職場にはパートや派遣など、いわゆる非正規労働者と呼ばれる人たちが増え始めました。
彼らは既存の組合に入ることができませんでしたから、その結果として職場での組合員の比率が急減します。
例えば100人の職場で80~90人が組合員の時代であれば、ストライキをちらつかせながら会社と団体交渉することが可能でしたが、組合員が100人中20~30人になってくると、ストライキをしたとしても会社は業務を継続することが可能になります。ということはスト権を確立して団体交渉をしても、要求を聞き入れてもらうことができなくなるのです。
このようにして労働組合は弱体化していきました。
折からバブル崩壊、湾岸戦争、リーマンショックなど不景気要素が続き、労働者が置かれている労働環境はどんどん厳しくなっていきました。
賃金が上がらないばかりではなく、過労死や自殺なども社会問題になってきました。
もし、会社の中で労働組合がきちんと機能していたら防げたかもしれないような事象がたくさん見られるようになりました。
でも、労働者は自分たちではどうして良いのかわからない。これが今の時代です。
総理大臣が企業経営者に向かって、「賃金を上げてください。」と言っています。
或いは国会で「休日を増やしましょう。」とか、「労働時間を短くして働き方改革をしましょう。」と言っています。
こういうことは本来労働者が自分たちで発起して、要求を出して、改善していくべき問題です。
それを今、総理大臣が言っているのですから、昭和の労働組合活動経験者の筆者としては、「ずいぶんいい時代になったなあ。」と思うわけですが、逆に言うと現代の労働者にとってみたら、「自分たちではどうしてよいかわからない」状況だということなのでしょう。
憲法28条に労働基本権というのが記されています。
・団結権 ・団体交渉権 ・争議権です。
これを基にいわゆる労働三法というのが定められています。
・労働組合法 ・労働基準法 ・労働関係調整法です。
このように労働者というのはきちんと法律で守られています。
にもかかわらず、労働組合を経験していない労働者、つまりこういう法律もろくに知らない人間が、例えば会社の幹部になって行ったらどういうことが起きるでしょうか。
本来ならあってはならないような不当労働行為が横行するかもしれません。
セクハラ、パワハラは当たり前になるでしょう。
でも、下で働く従業員は同じように知識がありませんから会社が行なうことに対策も対応もできません。
今の時代は、そういう時代であると筆者は感じます。
地方創生が叫ばれる中、世の中がどうも閉塞感に満ちているのも、どうやらそのあたりに原因があるのではないかと、今回のサービスエリアのニュースを見て、元英国航空労働組合書記長経験者の筆者としてはそう考える次第であります。
労働者諸君! 今日もお勤めごくろうさん。日本の未来は君たちにかかっているのだ! 大いに頑張ってくれたまえ!
(最後はちょっと寅さん風に)
※タイトル写真は昭和47年春に筆者が撮影した国鉄青梅線の電車です。毎年春になると電車にこのような落書きがされて、ストライキに突入するのが昭和の恒例行事でした。
※本文中の名称、呼び名等は筆者が労働組合員だった時代のものです。今は一部変更されている場合があるかもしれませんのでご了承ください。