オーバーロード シャルティアになったモモンガ様の建国記   作:ほとばしるメロン果汁

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うーむ、フールーダ視点でモモンガ様のビクつきっぷりを書くのが難しい。


『フールーダ・パラダイン268歳』

 草花が風になびく音が静寂な世界に響く。

 

 最敬礼のまま固まった大勢の騎士達は、誰一人言葉を発しなかった。

 

 天頂に昇った日が差す帝国首都西門。今は交通を規制し出入りする者はいないが、普段は出入りの商人や冒険者など周辺の都市から集まる者達、大勢の人々で賑わうその場所は、今だけは静まり返っている。

 

 騎士が集まるほぼ中央に止まった馬車。

信じられないものを見る視線の先には、帝国の英雄であり大魔法詠唱者であるフールーダ・パラダインが、純白に身を包んだ一人の少女に跪き――いや、土の地面を体全体で舐める様に平伏しているのだ。

 

 豊かな白髭をたたえた老人が、美しいとは言え年端もいかぬ少女に平伏している姿は、一種の異様な光景だった。

 

「ど、どうしたのでござるか? 姫様の前で丸まってるのは、誰でござる?」

 

 戸惑った声で問い掛ける魔獣に返事ができる騎士はいない。ブレイン・アングラウスもドワーフ達も、そしてドラゴンも驚いたように動きを止めていた。ある意味では、この場で唯一まともに思考していた人間一人を除いて――

 

「はッ!? し、失礼いたしました! あなた様の纏う光があまりに素晴らしくッ! まるで、いや、まさに! 神を目にした感動で我を忘れておりました!! シャルティア・ブラッドフォールン・アインズ・ウール・ゴウン様! 私は帝国で主席魔法使いを務めております、フールーダ・パラダインと申します」

 

 地面を舐めていた頭を僅かに上げ、少女を足元から見上げる様に自己紹介を始めるフールーダ・パラダイン。その表情は歓喜と涙でぐちゃぐちゃになっている。

 

「失礼を承知で、伏してお願いいたします! どうかこの矮小な私にあなた様の魔法の教えをお与えください!! 弟子にしてください!!!」

 

 ――弟子。

 

 再度の懇願、痛みなど意に介さず頭を地面に叩きつける様は、誰がどう見ても本気だった。

そしてそれを受けた少女は、困惑したように眺めていたが――

 

「……」

 

 少女は優雅にゆっくりと、無言のまま背後の馬車に手をかざした。するとバジウッドを含めた騎士達の前で馬車が突然消える。その光景を唖然としたまま見守る中、馬車の代わりに現れた物に言葉にならないどよめきが起こった。

 

 上位道具作成(グレーター・クリエイト・アイテム)

 

 現れたのは黒く、日の光で輝く漆黒の玉座。まるでおとぎ話から出てきた王者が座るような見事なもの。そして少女は平伏したフールーダをそのままに、黒い玉座に羽が舞う様に腰かけた。

 

「……ハァ」

 

 揺れる胸をそのままにドレスの中の足を組み、ひじ掛けに腕を乗せ手の甲に顎を乗せる。慣れた様子で優雅に座るその様は、バジウッドが仕える人物に勝るとも劣らない。そして少女は周囲の視線など気にしないように、冷徹な視線を少し離れたフールーダに向けた。

 

「…だれ……もう一度、名を名乗りなさい」

 

 年相応にやや小さな、それでも静寂な世界に響くには十分な声。

 

「はいッ! フールーダ・パラダインと申します! フールーダとお呼びください!」

 

 対するフールーダは渇望するように、飢えた獣のような声を少女に向けていた。

 

(ま、不味い。フール―ダ殿がまさかここまでされるとは……)

 

 我に返ったバジウッドは、後悔と同時に止めるべきかと逡巡する。

だが相手は既にフールーダと話をするつもりのようだ。帝国にとってもバジウッドにとっても不味すぎる事態が、目の前で起こっている。しかしここでいきなり割り込むのも、話し始めた相手の心象を悪くするかもしれない。

 

 それに少女はなんの問題もなさそうに、冷静にフールーダに問いかけているように見えた。相手が不快に思わないのであればと、いつでも止められる様に身構えつつ、冷や汗をかきながら見守る事にする。

 

「フールーダ……パラダイン……銀糸鳥から帝国一の魔法詠唱者と聞いているわ。そうか、タレントか……」

「はいッ! い、いえ! あなた様に比べれば、私などまさに虫のようなもの! 吹けば飛ぶような力しか持っておりません! 取るに足らない存在とは重々承知しておりますッ! ですがそれを承知でどうか、私を弟子にしてください!」

 

 顎を乗せていた手で瑞々しい唇を撫で、納得の声を出す少女。

フールーダの言葉が届いていないのか、何かを考え込むように少しの間顔を伏せ黙り込む。そして顔を上げると何処からか取り出した指輪を、フールーダに向け掲げた。

 

「これが何かわかる?」

「それは……見事な指輪ですが……マジックアイテムですかな?」

 

 大きな宝石の付いた見事な指輪。バジウッドは己の主と違って芸術的価値を見る目はない。ただマジックアイテムであれば、その効果によって相当な価値が付くのはわかる。

 

 少女は既に付けていた指輪を外し、その新しい指輪を嵌める。

その効果はバジウッドや他の騎士達の目にもすぐに表れて見えた。

 

(銀髪に……そういえば報告された容姿は……)

 

 玉座に腰掛けたその姿のまま、蜜のようにつやのかかった金髪が日の光を反射しながら銀に変わる。少女が馬車から出てきた途端のトラブルで忘れていたが、確かに報告されていた容姿は『銀髪』だった。

 

「どうかしら? タレントで見る光は?」

「お…おぉ、光が……オーラが全く見えなくなりました……」

 

 髪を撫でながら問いかける少女に、フールーダが目を擦り、凝視しながら答える。

 

(……探知防御というやつか?)

 

 フールーダのタレントはこの国で広く知られている。

『魔法詠唱者が使用できる位階に応じて発するオーラが見えるタレント』それは探知防御を使われると見えなくなるらしい。だがそこまで力を割くのは非効率なので、通常であれば誰も使わない。よほど後ろ暗い事があったり、隠れたい場合は除くが。

 

「す……素晴らしいアイテムですな、全く見えないとは。……あのゴウン様、繰り返しお願いいたします! 私の全てを捧げる代わりに、ゴウン様の叡智、そして神話の魔法を伝授していただければと思います! 何卒、お願い致します」

「ふむ……」

 

 懇願された少女は指輪から目を離し、再び顔を伏したフールーダを見つめる。

何かを考え込むように、だが観察するように紅い瞳でしばらく見降ろした後――

 

 

 

 ――「駄目ね」

 

 素っ気ない、冷ややかな声で答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ♦

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――駄目。

 

 一瞬何を言われたのかがわからなかった。

 

 やっと、……やっと見つけた魔法の深淵を見るという宿願。

 

 目の前に垂らされた白く輝いた糸、それにしがみ付いた。必死に。

 

 決して離してはならない。離すくらいなら死んだほうがマシだ。

 

 例え指が千切れようが腕が無くなろうが、文字通り喰らいついてでも離さないつもりだった。必死にしがみ付き上へ昇って行こうと手を伸ばした――

 

 

 

 

 だが、糸は切られた。

 

 まるで暗い、闇の穴を真っ逆さまに落ちるような。息が止まり、ざらざらの土に触れていた手の感覚が無くなり、頭が消えた様になにも考えられなくなる。そして僅かに残った意識の片隅で理解できたことがあった。

 

 

 ――これが絶望

 

 全身の関節が音もなく壊れたように、顔から地面に突っ伏す。

 

 派手な音がした。脳が激しく揺れる。どこかを切ったのかまだ見える視界に紅い血が映った。そして歩み寄ってきた白い、踵の高い女性の白い靴が傍に――

 

「お……お願いします、どうか……どうか私の全てで……」

 

 地面を這うように、縋るようにその少女に近づく。

全身の力が抜け、手にも力が入らなかったが、それでも必死に近づきその靴にキスをする。切れた糸、それがまだ爪の先に僅かに残っている事を信じて、目の前の純白の靴を舐めまわす――

 

「ㇶッ!」

「アガァッ!」

 

 舐めまわしていた靴が消えた瞬間、激痛が頭を襲った。

頭の天頂部、そこに尖った物で押し込まれるような痛み。誰がしているのかは明白だった。それを理解した瞬間、絶望していたフール―ダに僅かだが『喜びの感情』が生まれた。

 

 帝国随一の魔法詠唱者。それを示す様々な功績を自身は持っている。

帝国全軍に匹敵すると言われる実力。この帝国を支える優秀な弟子たち。帝国魔法学院、帝国魔法省の建設など今の帝国を支える魔法技術への貢献。

 

 そんな英雄と言われる自分を、このように足蹴にできる人物がいるだろうか?

 

 歴代の皇帝だろうが、誰一人できないだろう。

 

(この方でなければならない……)

 

 そこまで考えた時、いつの間にか少女の足は離れその体は玉座に戻っていた。

多少の擦り傷と意識の乱れはあったが、再び少女の前にひれ伏し、何度でも懇願しなければならない。頭の天頂部分の痛みは残っていたが、それはむしろ嬉しかった。神のごとき神話の力を持つ少女が、初めて自分に触れた所であり、その痛みがフールーダを奮い立たせてくれたのだから。

 

「……なぜ靴を舐めた……の?」

「も、申し訳ありません! 私の忠義を示したかったのです……」

「…そ…そう……」

 

 体を起こし、元のように少女の前に平伏する。

見下ろす視線は限りなく冷たいものかと思ったが、玉座に座ったまま目頭を押さえていた。それどころか「あ……頭は大丈夫? いえ痛みのほうの……」と、心配の言葉をかけてもらえた。

 

「大丈夫です! 本当に私の全てを、忠義も魂も捧げさせて頂きますッ! 何でもさせて頂きます! ゴウン様のお仲間を探す手伝いも! この国を差し出す事だろうと、あなた様のこれからなさる事、その全てに私はついて行きますッ!! どうか何卒!!!」

「……その忠義は、わかったけれど。二つほど問題がある」

「ふ、二つ? それを解決すれば宜しいのですか!?」

 

 ここで言質を取らなければならない。自分でも分かるほど上げた首が前に伸び、目をぎらつかせてしまう。言質を取ろうがこの方の力の前では無力だが、弟子になれるアテが何もないよりましだった。

 少女はフールーダの問いに身を引きながら頷くと、座ったまま右手の指を一本立てる。

 

「う、噂で聞くあなたの立場からして、辞める事をこの国のトップが許すの? この国にとっては大きな柱を失うようなものじゃないかしら?」

「構いません! 全てを投げうってでも私はあなた様の弟子に――」

「……そういう考えは好きではないわね。責任者が引継ぎもせず全てを投げだすようでは、次もまたいつ投げ出すか。それに私やドワーフ達が何のためにここに来たか知らないの?」

 

 ため息をつきながら言われたその問いに、思い出す様に周囲を見回す。

信じられないものを見る騎士達や冒険者達に混じり、前後の馬車にドワーフ達がいる。そして少女の乗っていた馬車を引いていたドラゴン。

 

「ドラゴンを使った空輸貿易……」

「あなた自身の意志でも、飛びだす様に辞められれば雇う側は不快に思うでしょう。あなたを奪い取った相手には、特に」

「わ、わかりましたッ! では急ぎ戻りジルに――いえ、皇帝陛下に了解を頂いてまいります!」

 

 問題がわかればそれを解決すればいい。素早く立ち上がり、飛行(フライ)の魔法を唱える。フールーダの知る現皇帝ジルクニフであれば、何かしら条件をつけられるだろう。だが、この神の如き少女の実力とフールーダが本気だとわかれば、真っ向から反対する事は絶対にない。

 

 急ぎ皇城を目指し飛び上がろうとしたとき、少女の声で止められる。

 

「理由はもう一つあるのだけれど?」

「し、失礼しましたッ!」

 

 慌てて飛行魔法を解除し、三度目の平伏をする。

先程より近づき、少女の足が届く位置に体が吸い寄せられた。

 

「もう一つは、私は誰かに魔法を教えたことが一度も無いから……」

「……そ、それは問題ないのでは無いですか? 私も二〇〇年程前になりますが、最初はどう教えた物かと苦労しましたが」

「いえ……私はこの世に生まれた時から今の魔法を使えたから」

 

 その言葉に目を見開く「普通の人がどうやって魔法を使っているのかわからないの。だから辞めておいた方が――」髪を弄りながら少し気落ちするように目を伏せる少女。だがフールーダは戦慄し、そして歓喜していた。生まれた時からフールーダが見た光を纏った存在。

 神話の力を使える者など、神以外のなんだというのか。

 

「構いませんッ! あなた様の一番傍で、その御力を見せて頂くだけでも!」

「えぇ……そうか……」

 

 少女の声に力が無くなっていく。それから考える様に、空を見上げ始めた。

フールーダはじっと待った。一秒が数分のように感じられ、顔は既に涙と血と泥と涎で散々な有様なのはわかっていたが、それを拭いもせず不動のまま待った。

 

 そして空を見上げたまま、神の少女の口が開く。

 

「……ならばフールーダ・パラダイン。お前に魔法を教える代わりに、若さを取り戻して上げましょうか……お試し期間という事で数日だけ」




フールーダファンの方全力でごめんなさい(たぶん次回はさらに酷い)
このネタに走ることは無いので許して

・髪の色が変わる指輪は捏造、アニメも原作であったネックレスをブローチ?にしてたし許してなんでもry

アンケート実施中、例によって一位を選ぶとは限りません。

次話『フールーダ・パラダイン30歳魔法使い』完成度99%(19日投稿予定)

フールーダ30歳の姿について(選択肢こんなんしか思いつかなかった…作品外を出すのもアレだし…)

  • ガゼフ風
  • ニグン風
  • ブレイン風
  • バジウッド風
  • 漆黒の剣のダイン風

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