アルベドさん大勝利ぃ!   作:神谷涼

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モモンガ「真実を語るとしよう」
 (そして私に幻滅して支配者の地位から引きずり下ろすのだ。アルベドに跪いて情けを乞う日々を手に入れるぞ。見下されながら足を舐めて、無様に尻を振って見せたりして……ああ、シャルティアやメイドの性欲処理に使われ、蔑みの目でアルベドに……ハァハァ)

 かっこよさげな展開ですが、モモンガさんの頭の中はこんな感じです。



14:気分は最終兵器彼女

 

「――といったところか。長話になってしまったな」

 

 『ユグドラシル』についてゲームという言葉だけは避けたが。

 モモンガはほぼ全てを話した。

 リアルという世界の過酷な環境と社会構造。

 その中で生きて来た鈴木悟という人間。

 彼の知る限りのリアルにおけるギルドメンバー。

 そして『ユグドラシル』という逃避先の存在。

 異形種の扱いと、このギルドの発端。

 リアルとの因果関係ゆえ生じていた、ギルド内の人間関係。

 荒廃の過程と、最後に残った孤独の日々。

 アルベドとの婚礼に至った思い。

 

「即答が難しければ各自、持ち帰って考えよ。この場におらぬユリとペストーニャには、他の者から伝えてやるがよい」

 

 モモンガは深々と玉座に腰を下ろし。

 アルベドの手だけを握る。

 そのアルベドの手も、震えていた。

 モモンガにはわかる。

 その怒りは恐怖や絶望ではなく……怒りだ。

 

「お前たちに、もっと早く話さず。すまなかったな」

 

 溜息をついて、モモンガは目を閉じ。

 軽く上を向いて喉を晒す。

 ここまで矮小な己を示したのだ。

 望んだ通り、彼らは己を見限るはずだ。

 

(何せ、人間嫌いの連中が、元人間に仕えてられないだろし。でも思った以上にショック受けてるな……殺されちゃったりするのかな。何人かは味方してくれるといいんだが)

 

 NPCたちを見回す。相当な衝撃だったらしい。

 今にも暴走して暴れ出しそうだ。

 

(まあ、どうせリアルに未練もないし。アルベドに殺されるならいいか)

 

「全員が私を――」

 

 葬りたいならば、せめてアルベドの手で……とは、続かなかった。

 

「無論! モモンガ様こそ我が主です!」

 

 デミウルゴスが絶叫するように吠えた。

 彼は宝石の眼球から大量の涙を流し、感情のままにその形態を目まぐるしく変える。

 見えぬ敵を必死に探そうとする如く眼球を巡らせている。

 第三形態すら見せ、内なる怒りを必死に抑えんとする姿に、モモンガは困惑した。

 何に対して怒っているのか、わからなかったのだ。

 

(え、ええー? なにそれ)

 

 そしてその有様は、最も理性的な守護者ゆえに過ぎず。

 全員が怒っていた。

 怒りながら、泣いていた。

 憤怒と――なにより、己の不甲斐なさに狂わんばかりだった。

 シャルティアも、血の狂乱状態の姿を見せている。

 ここが尊ぶべき玉座の間でなければ、暴走したNPCらによって崩壊していただろう。

 全員が必死に理性で己を抑え、言葉に変えて少しでも感情を吐き出そうとする。

 

「し、至高の御方らが、人間に嬲り者にされていた、とは、本当でありんすか……」

 

「り、りあるで、つらい目に合ってたのに、ぶくぶく茶釜様は……あんな、やさしく」

 

「モモンガ様ガ一人、維持費ヲ稼ガレル折、前衛職デアリナガラ護衛スラ……」

 

「執事でありながら、ただ立って見送るばかりだったなど……」

 

「ヘロヘロ様が……搾取され……瀕死の状態……」

 

 モモンガとしては、細かく説明しなおしづらい。

 実際、間違っていない案件も多いのだ。

 

(確かにそうだけど! そうなんだけど! もっと私の不甲斐なさを攻めろよ!)

 

 誰もが慟哭し、絶望と悔恨と憤怒で魂を燃やす中。

 ぺたぺたと小さな足音がただ一つ、モモンガの前へと進み出た。

 それは小さな、イワトビペンギンに似た生き物である。

 

「……ん? どうした、エクレア。私を見限り、ナザリックの新たな主となるか?」

 

 多くのNPCを忘れていたモモンガだが。

 やたら濃い設定を付けられた彼のファーストネームは覚えていた。

 

「私、執事助手エクレア・エクレール・エクレイアー。餡ころもっちもち様により、ナザリック簒奪を目指すよう創られておりました。ですが、それも今日限りとさせていただきます」

 

 フッ、と不敵な笑いを見せるエクレア。

 階層守護者全ての目が。否、全NPCの目が、小さなペンギンに注がれる。

 やり場のない怒りをぶつける獲物を、見つけたと言いたげに。

 

「――やめよ。エクレアを害したい者は、先に私を討て。抵抗はせん」

 

 留められた殺気が、玉座の周りの空気を焼く。

 

「不肖エクレア。ろくに戦力ともなれぬ身ですが、一個人としてどうか、モモンガ様にお仕えさせてください。たとえモモンガ様がナザリックを去られようと、御身の住まいを必ずや完璧に掃除し続けてお見せいたします! 在るべき姿を捨てても、御身にお仕えしたいのです!」

 

 ぺちょ、と転んだようにしか見えない土下座を見せてエクレアが叫ぶ。

 

「……み、見事だ! エクレア君!」

 

 デミウルゴスが興奮と共に彼を讃える。

 次々と他の守護者、メイドらも彼を讃える。

 

(ちょ、そうじゃないでしょ!)

 

 期待と違う展開に、モモンガはさらに困惑する。

 

「あ、ありがとう、エクレア。だが私こそ、お前の忠誠に応えられる器と言えるかどうか」

 

「いいえッ! 誓って、モモンガ様以上の主はおりません!」

 

 腹ばいで顔だけ上げた姿勢から、ペンギンらしく床を滑って足元に来る。

 そしてもう一度、礼――土下座というか、うつ伏せになって見せた。

 

「どうか私の忠誠の誓い、お受けくださいッ!」

 

(わあ、かわいい)

 

 少し、現実逃避気味になったモモンガは、ぼんやりとそんな姿を見て。

 握り返しても来ないアルベドの手を離し、エクレアに両手を伸ばした。

 

「「えっ、も、モモンガ様!?」」

 

 アルベドとエクレアが共に、取り乱す。

 エクレアが抱き上げられ、ぬいぐるみのようにモモンガの膝上に収まる。

 彼の頭にはまだ三人しか触れていない、豊満な乳房が乗せられ。

 その手は優しく、エクレアを撫でる。

 

(手触りもいい……ナザリックの主を辞めて、アルベドはペットを認めてくれるかな)

 

 ぼんやりとそんな、現実から外れた妄想に耽るがゆえに。

 無心かつ無上の愛を、このペンギンに注いでいるように見える。

 そしてNPCたちが、あまりの感情の嵐により、ついに。

 ぷつんと糸が切れる時が来た。

 

「モモンガ様! 私ッ、私が先に忠誠を誓いましたッ!」

「母上ッ! わ、私は誓うまでもなく母上に付いていきます!」

「コノ身ハ既ニ御身ノ刀デゴザイマス!」

「外でも既に執事として名乗って参りました!」

「さんざん体で付き合った仲でありんせんか!」

「私もずっとお風呂で世話をいたします!」

 

 NPCたちが一斉にモモンガに押し寄せる。

 その様子は、姿が異形であれ、能力が超級であれ、子供にしか見えない。

 

「こ、こらっ、お前たちっ。エクレアが潰れてしまうだろうっ」

 

 あるいはこれが彼らの“素”なのか。

 ぐいぐいと我先にと押し寄せて来る。

 コキュートスやセバスも混じっているのだ。

 100レベルキャラクターも混じった筋力では、モモンガ自身危険である。

 

「ッ! 至高の御方を害するつもりですかっ! 落ち着きなさいっ!」

 

 危険を察知したアルベドが割って入る。

 比較的理性的なデミウルゴス、パンドラズ・アクター、セバス、ソリュシャンらが、はっと冷静に戻り、他のNPCらを留めた。

 

「そしてモモンガさ――いえ、モモンガッ!」

 

 アルベドが、他のNPCの前で呼び捨てる。

 

「私はあなたの伴侶でしょう! そのペンギンより先に私を抱き寄せなさいっ!」

 

 モモンガが、アルベドを見つめ返す。

 その目は再び暗く病み、業火の如き光を渦巻かせていたが。

 アルベドは踏みとどまる。

 

「アルベド……」

 

 片手を伸ばし、彼女の白いドレスに触れると。

 モモンガは玉座を立ち、アルベドの胸に飛び込んだ。

 アルベドが抱き留めると。

 モモンガは涙を流し、泣きじゃくり始めていた。

 

「ちょっ、ちょ、モモンガ様ーっ!?」

 

 そしてエクレアは、上に放り投げられていた。

 

「きゃっち」

 

「あ、ありがとうございま――ふぎゃぶっ」

 

 そして、彼はシズに抱き留められ、腕の中で潰されんとしていたが。

 平時と変わらぬそんな光景には誰も目を向けず。

 

 今度は汚くない、感動的な二人の姿に、NPC一同が貰い泣きしていたのだった。

 涙を流す主は、どのような思いであの秘密を一人抱えておられたのか。

 敢えて主を呼び捨てたアルベドは、どれほどの覚悟を以て対等の立場を名乗ったか。

 心打たれぬNPCが、いるはずもない。

 

(やった……過程はともかく、アルベドが私をリードしてくれてる! 対等……むしろ私の方が格下になったと言っていいよな、これは! 今日からいっぱい甘えるぞ!)

 

 無論、モモンガの真の胸中を察する者はいない。

 

(シャルティアとソリュシャンは、私に合わせてはくれないみたいね。いっそ、外から使えそうな人間の女でも、引き込むべきなのかしら……)

 

 アルベドの胸中を真に理解する者も、また……。

 




 設定された通りやってれば間違いないぞーと思ってたNPC陣。
 真実を知って足元崩壊。
 神と思ってた至高の御方は、泣きゲーヒロインだった案件。
 あるいは何でもできると思ってた最高の母親が実は(各自で任意の内容を入れてください)。
 つまりタイトルのようになった件。

 NPCが感じ入ったり、忠誠心を強くした理由は、各人で微妙に異なるんですが。
 とても書ききれないので省略。個人的に書きたいキャラも多いんですけどね……。
 主旨たるエロから外れますが、希望あれば閑話として挟んでいきます。

 と、昨日初めて誤字報告という機能に気づきました……指摘くださってた皆様ありがとうございます。
 反映させていただいたり、わかりづらい箇所を前後修正したりしました。

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