アルベドさん大勝利ぃ!   作:神谷涼

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闇が引っ込み、お風呂で観戦モード持続中。



12:計画通り……!

 戦いは一方的だった。

 戦士の集団は、魔法詠唱者たちに手傷すら与えられていない。

 セバスに、ひとまず介入せず待機させたのだ。

 

「……『ユグドラシル』では見たことのないスキルだな」

 

 ガゼフという男が使う技は、さしたる脅威ではないが。

 明らかに異質なスキルだ。

 

「魔法詠唱者側は、なかなか現実的な運用だ。召喚したシモベに戦わせ、自らは一切前に出ず戦う……それを集団で実践するとはな」

 

「モモンガ様、戦士側が崩れつつあります」

 

 アルベドが言う。さすがに仕事では呼び捨ててくれないかと小さくため息をついた。

 

「……〈魔法持続時間延長化(エクステンドマジック)〉〈伝言(メッセージ)〉再々すまんな。介入せよ。この通話は維持する」

 

 戦いがまた一方的となった。

 事実上、セバスが無双している。

 魔法詠唱者らの取り乱す様子も明らかだ。

 天使は次々と消滅し、魔法詠唱者らも吹き飛ばされる。

 そんな中で、指揮官らしき男が何かを取り出し叫んでいる。

 

「魔封じの水晶か……!? セバス、使わせるな」

 

 鏡の中、男の片腕が落ちた。

 手には水晶を握ったままである。

 一瞬で踏み込んだセバスの手刀が、男の腕を切り落としたのだ。

 

「見事だ。私の指示より早かったな。我が意を汲んでくれて嬉しく思うぞ」

 

 褒める言葉を送る。

 

「退くよう言え。ユリにも言ったが、両軍とも犠牲は最低限にな」

 

 もう、問題はあるまい。

 鏡の中、セバスが水晶を拾い上げ。

 精鋭部隊とやらは、撤退を開始している。

 通信を切った。

 

「さて……〈伝言(メッセージ)〉我が子よ。戦士長とその副官あたりにも影の悪魔(シャドウデーモン)を最低2匹ずつ付けておけ。逃げ出した連中は、相当の時間をおいて捕らえよ。即座に合流する対象がなくば、奴らの国へと相当に近づいてからでもよい。複数の魔獣に襲わせ、数人は敢えて逃がしてやれ」

 

 後に控えるパンドラズ・アクターに指示を出す。

 

『承知いたしましたッ……母上。うまく情報を流させてご覧に入れましょう』

 

 珍しく口ごもり、真面目な口調だ。

 母上と呼んでよいか迷いつつ、口に出してみたのだろう。

 先刻、己を呼び捨ててくれたアルベドを思い出し、モモンガの顔がにやける。

 

「ふふ、いい子だ。それと……お前ならわかっているだろうが、逃がす連中に影の悪魔(シャドウデーモン)は付けるなよ」

 

『ハイッ! 彼らは魔法に長けていると、少なくとも自認しているから、ですねッ!』

 

 勢いよく嬉しそうに答える口調に、慈愛に満ちた笑みが浮かんだ。

 

「その通りだ。戦士(ファイター)修行僧(モンク)相手に逃げ出して、使い魔を付けられるなど不自然だからな。私の名を教えはしたが……力を高く見積もられたくない」

 

『母上の御力と威光は神すら滅ぼすものッ! 宝物殿の品々が、数多の神々を討った母上の証! それを敢えて隠されるとは……その慎ましさ、慈悲深さ、まさに母上こそ至高の女神でありましょうッ!』

 

 母上と口に出すごと、彼のテンションが際限なく上がるようだ。

 

「ああ、それともう一点――」

 

 続く指示に、パンドラズ・アクターは酷く狼狽した。

 モモンガは、聡明な我が子ですらこうならば……なおさら意識を改めさせねばと感じるのだった。

 

 通信を切り。

 深々と溜息をつくと。

 

「ソリュシャン、このままではお前しか相手にできん。一度出してくれ」

 

「は、はい!」

 

 期待の満ちた返事と共に、ソリュシャンの中から出される。

 彼女の粘液に馴れた体は、普通の湯が少しピリピリと肌に刺すように感じられた。

 

「待たせたな、シャルティア、ソリュシャン。後始末が終わるまで、私を好きに――」

 

 最後まで言わせてもらえるはずもない。

 飛びつき、絡みつく二人に囚われながら。

 モモンガはアルベドに視線を向け、混ざって、せめて一緒に、とねだる。

 

「ええ、もちろん私も……モモンガ」

 

 アルベドがそう言って手を絡め、身を寄せて来るだけで。

 モモンガは激しく気を遣った。

 ただ、ソリュシャンとシャルティアに激しくかき混ぜられ、しゃぶり付かれて。

 本当にアルベドで気を遣ったのか……モモンガにはもう、わからなかった。

 

 パンドラズ・アクターが陽光聖典捕獲を成し遂げて帰って来るのは40時間後。

 法国の勢力内に入り、風花聖典に作戦失敗と簡単な事情を報告した後のことであった。

 捕獲達成の連絡が入るまで、モモンガは浴室から出ず。

 延々と三人に鳴かされ続けたのだった。

 

 

 

 ナザリック地下大墳墓。

 第十階層、玉座の間。

 モモンガとアルベドの婚礼、そして終焉からの転移以来初めて。

 この広間に各守護者その他NPCが集められていた。

 

「セバス、パンドラズ・アクター、デミウルゴス、ルプスレギナ、アウラ、マーレ。よくぞ我が大任を果たし、我が元へ戻った。また情報収集にあたっていた恐怖公にも、無理を言って帰還させて、すまない」

 

 玉座に座るモモンガが最初に詫びれば、ざわめきが走る。

 功を挙げた面々が前に出たのはわかる。

 だが、御方は第一に恐怖公――多くの女性守護者に忌避される存在に謝ったのだ。

 

「我輩如きになんと過分な言葉、もったいなく……」

 

 進み出た恐怖公――マントを羽織って直立したゴキブリに、モモンガの両脇に侍るアルベドとシャルティアが少し顔をひきつらせる。

 元より前で報告せんとしていたアウラも同様だ。

 

「うむ。お前の活躍はデミウルゴスの報告からも得ている。これからも頼むぞ」

 

「ははーっ!」

 

 恐怖公が平伏して見せる。その姿はまさに床を這うゴキブリそのものだ。

 女性陣の顔がさらにひきつる。

 

「そして、ニューロニストよ」

 

「はぁいッ」

 

 甲高い声と共に、くねくねと妙な動きで、水死体じみた怪物が進み出る。

 

「お前にも、これから多く働いてもらう。そして先日引き出した情報も、大いに役立っている。今後も……いや、情報が確かなら、今後はさらに働いてもらわねばならん。よろしく頼むぞ」

 

「ああんっ、モモンガ様から直接に褒めていただけるなんてッ」

 

 特別情報収集官――ひらたく言えば拷問官たるニューロニストは、先日に村を襲った騎士たちを拷問し、また脳を直接喰らい、多くの情報を引き出していた。

 ぶにょぶにょと異様な音を立てて悶える“彼女”も前に控えさせる。

 NPCの一同にとっては、異様なメンバーが前に立つことに混乱の声すらあった。

 恐怖公もニューロニストも、ナザリックで好かれる存在ではない。

 

「では、今回の論功行賞の前にデミウルゴス。パンドラズ・アクター。恐怖公。ニューロニスト。客人の情報分析と情報補助を頼むぞ」

 

 四人がそれぞれに返答し、(ひざまず)く。

 

「では、待たせたな。ニグン・グリッド・ルーイン殿」

 

 NPCたちの隅で膝をつき、震えていた男を呼ぶ。

 

「ひゃ、ひゃいいいっ! おおおおおお気になさらずっ!」

 

 酷い取り乱しようだ。

 いいところ40レベル程度だろうに、自身を含む100レベル多数で囲む状況では仕方ない。

 圧迫面接も同然だろう。

 とはいえ、抵抗が無意味と教える必要があったのだが。

 

「……ふむ。ペストーニャ、彼に〈正気(サニティ)〉を。それとお前たち、彼は重要な協力者候補だ。多少の無礼も許す。私の許可なく彼に危害を加えること許さん」

 

 ペストーニャは元から男に同情的だったのだろう。

 言われるまま、かつてモモンガにもかけた術を施す。

 

「しかし、モモンガ様。彼の者はセバスの名乗りにおいて、モモンガ様を侮辱なされたとか。まずは相応の罰を与えるべきではありませんか?」

 

「ええッ! 『貴様のような身の程知らずの主は、最も腐敗した貴族以下の屑だ』とォ、確かに、言っておりましたッ! ニューロニスト殿の元で、自身の身の程……思い知らせるべきでは」

 

 デミウルゴスとパンドラズ・アクターが珍しく、感情的に口を出す。

 二人の言葉に、他のNPCが騒然とした。

 ニグンに殺意が降り注ぎ、怒りの声をあげるものもいる。

 

「……騒々しい、静かにせよ」

 

 NPCを威圧はしたくないが、〈絶望のオーラV〉を放出する。

 ぴたりと、静まった。

 

(ニグンには〈正気(サニティ)〉をかけたし、射程外だからな。大丈夫だろ……たぶん)

 

「私を知らぬ者が、私をどう言ったからと逐一騒ぐな。器が知れるぞ。すまぬな、ニグン殿」

 

「いえっ! 知らずとはいえ愚かな言葉を! どうかお許しください!」

 

 その場でひれ伏し、床に頭を擦り付け謝罪してくる。

 

(おお、やはりあの呪文のおかげでかなり落ち着いたな。しかし随分と簡単に屈したものだ。ある程度は抗って見せるかと思ったのだが。気概のない小物だったか?)

 

「気にするな。私とて知らず、お前の気に障る言葉を吐くかもしれん。互いを知らぬ同士では、自ずと事情も異なるであろう」

 

「寛大なお言葉、感謝いたします!」

 

 部下は別途保護しており、拷問は禁じている。その点は、事前に聞いているはずだ。

 また保護時の検査により、かけられていた妙な呪いも解除している。

 

「ところで、先の私に対する侮辱とやらについて問いたい。責める意味ではないぞ。お前はセバスを、何処かの貴族の配下と思ったのか?」

 

「はっ、おっしゃる通りでございます! 執事の姿であったため、愚かな誤解をいたしました! 御身のように偉大な御方の執事とは露知らず失礼を!」

 

 振り絞るような声だ。〈正気(サニティ)〉はかかっているというのに。

 

「では、腐敗した貴族がおり、腐敗しておらぬ貴族があの戦士長を味方するのか?」

 

「その可能性を考えておりました!」

 

 元より、戦士長抹殺の経緯について、モモンガには納得できない点が多い。

 

「ふむ……可能な限り客観的に、ニグン殿の今回の任務について教えてもらえるか? 逐一質問もさせてもらうが、事情を知りたい。どこまで話すかはニグン殿自身の意志にゆだねよう」

 

 艶然と微笑み、モモンガが説明をうながした。

 

「デミウルゴス、パンドラズ・アクター、恐怖公、ニューロニスト。彼の情報に不自然な点、明らかな食い違いがあれば教えてくれ」

 

「「はっ」」

 

「で、では説明させていただきます。根本には我々スレイン法国の――」

 

 精神を安定させられ、なお脂汗を(したた)らせながら。

 陽光聖典隊長ニグンは、釈明すら許されぬ事情説明を開始した。

 目の前の存在が、六大神や八欲王に比肩する“ぷれいやー”だと悟りながら。

 




現場に行かず、客観的に見ながらなので指揮は冴えてるモモンガさん。
そして始まるニグンさんルート(エロ要素はないです)。
さらっと済ましてますが、「特定状況で質問に三回答えたら死ぬ呪い」は解除されてます。

魔封じの水晶は、セバスが回収してパンドラが鑑定しました。
モモンガさんが最中で忙しかったので、中の呪文は報告行ってません。

ここのモモンガさんは、情報収集させてますが、ほとんど報告見てません。
(大半の時間をアルベドらと忙しく過ごしてるので)
情報収集&分析は全部デミウルゴスとパンドラに任せっきり。
恐怖公とニューロニストも、原作より重視してます。
(ベリュース以下、村襲撃騎士はニューロニスト送り)
NPCが自主的にアクションを起こしたい時だけ、決定権を行使。
サキュバス化の影響か、ロジカルな思考よりフィーリング重視になってます。

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