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【千葉】

弁護側主張 分からない 県弁護士会、裁判員裁判対策を模索

講師や参加者の前で冒頭陳述の実演をする若手弁護士(左)=県弁護士会館で

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 市民が審理に加わる裁判員制度導入から5月で10年を迎えた。従来、書面中心の立証で専門用語が飛び交っていた刑事裁判は、「見て聞いて分かりやすい」審理に変化。検察、弁護側にプレゼンテーション能力が求められるようになったが、裁判員経験者からは弁護士に対し「主張が分かりにくい」との厳しい声が多い。どうしたら裁判員に伝わるのか。県弁護士会も、課題に直面している。 (太田理英子)

 「時系列を意識して。証人が動いた経路に従い、追体験するように質問して」「答えを示唆したら誘導になる。語尾に工夫を」

 七月に県弁護士会が開いた「裁判員裁判法廷技術研修会」。弁護士登録一年目の十八人が参加し、模擬の冒頭陳述や被告人質問に挑んだ。

 研修では、知人宅に侵入して家人に刃物でけがを負わせ、現金を奪ったとして、強盗致傷罪に問われた被告の弁護を想定。被告は「犯人は別人」と無罪を主張している。

 証人尋問で、若手弁護士は、平易な言葉選び、間や抑揚の取り方を工夫しながら言葉を重ねた。一人一人、法廷で訴えたいテーマを練り、冒頭陳述や最終弁論も行ったが、講師役の弁護士らは、若手弁護士に次々と課題を指摘した。

 研修に参加した男性弁護士(32)は「いかに印象的に伝えられるかを念頭に、表現の仕方や一言ずつ区切る話法を意識した」と話す。だが、弁護側の主張を初めに説明する冒頭陳述で「どこまでストーリーを語るべきなのか」と悩む。

 最高裁が裁判員経験者に実施したアンケートでは、制度導入翌年の二〇一〇年以降、法廷での検察官の主張が「分かりやすかった」と答える人は毎年全体の60~70%を占めるのに対し、弁護士については40%弱にとどまる。弁護士の主張が「分かりにくい」との回答は、毎年20%弱から改善していない。

 分かりにくさで、特に指摘されるのは、被告人質問や証人尋問。「質問の意図や内容が分かりにくい」と挙げた人は、一三年以降は毎年約30%に上る。

 研修会で講師役を務めた中井淳一弁護士は「組織的に法廷技術を学ぶ検察と違い、弁護士は人によって熱意や技術がばらつきがあるのが実情」と言う。毎年開く若手対象の研修はプレゼン技術の習得が目的で、それ以外では二年に一回、座学の講習があるだけ。あとは自身で経験を積み、技術を磨くしかない。

 千葉地裁は全国でも裁判員裁判の件数が多く、経験の場が多い。中井弁護士は「本来はどんな証拠を出してどう尋問するかなど、戦略の組み立て方が大切。見せ方だけではなく中身の研修も必要だが、講師が限られる中でできるかどうか…」。模索が続いている。

 

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