(cache)都市景観をお金に換えられない残念な国「ニッポン」 | 加谷珪一 | コラム | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト

コラム

都市景観をお金に換えられない残念な国「ニッポン」

2018年11月27日(火)14時35分
都市景観をお金に換えられない残念な国「ニッポン」

京都市の建物の高さ規制緩和の議論は全国的にも話題に(写真はイメージ) electravk-iStock

<文化財の保存と経済的利益の両方を追求できることこそが先進国の特権なのに、日本には、経済的なソフトパワーについて議論する余力などとっくにない...!? >

京都市が、歴史的景観の保全を目的とした建物の高さ規制について、緩和する方針を打ち出している。オフィスや住宅の開発を促進することが目的だが、景観の保全を重視する住民からは反対の声が上がっている。

古都である京都は、多くの人がその文化的価値について認識しているので全国的な話題となっているが、容積率の緩和で都市景観が激変する現象はすでに全国各地で起こっている。

都市景観は長期的に見れば貴重な財産であり、利益を生み出す源泉にもなるので、本来であれば多くの議論を重ね、再開発する場合には高度な戦略性が必要となる。諸外国ではコストをかけることで古い景観を残しつつ、新しい開発を進めるという事例も珍しくないが、経済的に貧しくなった日本ではこうした議論をする余裕がなくなりつつある。

景観の激変はすでに全国各地で進んでいる

京都市は2007年に新景観政策を策定し、建造物に対する、より厳しい規制を導入した。京都では昭和30年代から景観に関する条例を定めており、屋外広告の制限や美化地区の設定、建物の高さ制限などを実施してきた。事業者も京都の景観を保全することが最終的には利益につながるとの意識を持っており、自主的に過度な装飾を控えてきたという側面もある。京都の街が持つ独特の雰囲気は、こうした規制が作り出したものといってよい。

だが、近年は京都も人口減少が進み、他の自治体への転出超過が続くなど、都市の衰退が懸念されるようになってきた。このため市では、オフィスビルやタワマンなどを容易に建設できるよう、景観規制の緩和について検討を開始している。

対象となるエリアでは、沿道の緑化に取り組むなど、一定条件を満たすことで高さ制限を緩和したり、工場の建設についても、保育所を併設することで条件を緩和することなどが検討されている。市では有識者からなる検討部会を設けているが、委員からは「人口が減少したから景観政策を考え直すという都市はない」など、慎重な対応を求める意見が出ているという。

京都は美しい景観を持つ街として知られているので、今回の規制緩和の議論は全国的にも話題となっているが、都市の景観の改変はすでに全国各地で進んでいる。

かつては東京でも、丸の内に代表されるようにビルの高さが揃っており、美しい景観を保持しているエリアはたくさんあった。だが、景気対策から大幅な容積率の緩和が行われ、もともとの地形を生かさず、効率を最優先したビル建設が相次いでいる。また建築物としての価値が高い物件の取り壊しもかなりのペースで進んでいるというのが実状だ。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

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