- 大島和人
- 2019年8月16日(金) 12:50
野球の人材は社会から「いらない」と言われてきている
――馬見塚さんは「自己決定」の重要性を以前から強調されています。
関係する5つの要素を考えて投球障害を予防しようとしたら、投球強度や投球フォーム、コンディショニングなど自分の感覚を指導者に伝え、必要な知識を学び、議論することが大切になる。となると、自身の評価を指導者が尊重する文化じゃないとダメなんです。
投球数制限をルール化しないといけない理由のひとつは、「指導者が選手の未来より目の前の勝利を優先してしまい、選手交代できないでしょう?」と皆さんが思っているからです。もちろんこれには指導者の思考だけではなく、保護者や外部からのプレッシャー、自身の雇用なども影響しているので、「指導者の勝利至上主義」だけの単純な話ではありませんが……。本質は投球数制限ではなく「指導者や大人たちが、選手の未来より勝利を優先しているでしょう?」という部分なんです。
原因がそこなら、そこを改善することが大切ですね。投球数制限は対症療法で、「今のチームと選手の未来を両方考えて、選手の未来を潰す対応をしない関係者の認識を成長させる」ことが根本治療です。
「対処療法で仕方ないだろう?」と皆さんが考えている現状を憂うべきで、それは野球人口の減少、選手のケガにもつながっています。
――「指導者にやらされるのではなく、選手が自発的にやる文化」に変わらないとダメというお考えですね。
現在の日本高校野球連盟(高野連)は中央集権型の組織です。一方で、投球障害を予防するために、ペンタゴン(五角形)の考えを利用するためには、選手の感覚を練習に反映させる文化にしないといけません。指導者と相談しながら、自分の意見をしっかり言える文化にすることが必要です。野球が選ばれる存在となるための変化でもあります。
中央集権型の組織に対するものが「自律分散型組織」です。野球はサッカーやラグビーと違って、一般的に1球1球監督がサインを出すという中央集権型の要素が強い競技です。野球の人材は社会から「いらないよ」と言われてきている。主体的に行動できず、命令を出さないと動けないわけですから。
――自律分散型のカルチャーが野球界に定着する方法はありますか?
それを取り入れた人が成功すればガラッと変わります。
――投球数を高野連が一律で規制する手法は、自律分散型の文化へ移行するためにマイナスというお考えですか?
その通りです。逆なんです。「まず投球数制限から」と言っている方はたくさんいますが、まず「野球の理念は何なのか」です。過去を振り返れば野球を通じて、良き人材を育成することが日本野球の理念で、他競技より他者を助ける姿勢を求めてきました。「お前ら全員こっちを向け」と、中央集権的な手法でそういう人材を作ってきました。
手法だけ変えれば「他者を助ける人材」という方向は悪くありません。令和の時代に合わせた方向、そのためのコーチング手法をみんなが学んでやっていくべきです。
例えば194球を2日連続で投げたら確かにリスクですよね。それを選手に伝えるべきですが、最終的には選手の人生です。ルール化は自己決定を許容しないことを意味します。
自律分散型の理念がもしあるならば、対症療法の投球数制限は違いますね。必要な情報を与えて、選手に決めさせればいいんです。取り返しのつく失敗の範囲なら、やらせたらいいと思うんです。「昨日は194球投げて投げられないんだよね」「じゃあ俺が投げるよ」と、お互いに決めるチームを作ることが、令和の時代に求められる人材育成ではないでしょうか?
(企画構成:株式会社スリーライト)
馬見塚尚孝(まみづか・なおたか)
1968年生まれ。大分県出身。大分舞鶴高から琉球大医学部を経て、筑波大大学院を卒業。専門は野球医学。2006年から筑波大硬式野球部チームドクター、10年に同校野球部部長、同校水戸地域医療センター整形外科講師を務めた。12年に日本スポーツ協会公認スポーツドクターとなり、現在も野球障害の診断・治療を日々行いながら、高分解能MRI診断研究、コーチング学、スポーツ工学など幅広い分野を研究。19年、川崎市中原区に「ベースボール&スポーツクリニック」を開業した。