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♪~
(坂場)お義兄さんは大丈夫?
(なつ)光子さんがついててくれてるから…。
だから 亜矢美さんも安心して旅立っていったんだと思う。
きっと 新しい自分と出会うために…。
私は そう信じてる。
うん…。
(ブザー)あっ 誰だろ?
は~い。
神っち… 茜さん 下山さん。
(下山)こんばんは。(茜)急に ごめんなさい。
(神地)イッキュウさん いる?うん。 あ… どうぞ 上がって。
お~… いらっしゃい。イッキュウさん 元気そうだね。
お久しぶりです。久しぶり。えっ 何かあったの?
あ… あっ もうあったなんてもんじゃありませんよ!
もう腹が立って 腹が立って!おいおい 神っち君が興奮することじゃないよ。これは うちの問題なんだから。
茜さん 何かあったんですか?
もう… 嫌んなっちゃった。
えっ? どうしたの?
♪~
♪「重い扉を押し開けたら暗い道が続いてて」
♪「めげずに歩いたその先に知らなかった世界」
♪「氷を散らす風すら味方にもできるんだなあ」
♪「切り取られることのない丸い大空の色を」
♪「優しいあの子にも教えたい」
♪「ルルル…」
それは 今日言われたの?
うん… 今日が最後だから明日から産休を取る挨拶に行ったの。
そしたら 山川社長に…。
産休明けからは 契約にしろって?
うん…。
それは… クビってことですか?
(山川)クビなんて 誰が言ったの?
君の働きたいという意思をくんで契約にしたいと言ってるんですよ。
でも 契約というのは…もう社員ではないということですよね?
給料ではなくて 作画1枚につき いくらということになるんですよね?
その方が 出勤時間はフリーになるしあなたは 仕事ができるんだから頑張れば 給料よりかえって高く取れるでしょう。あえて 契約を望むアニメーターも増えているんですよ うちには。
実質 クビでしょ クビ!ちょっ… 神っち 落ち着いて。
落ち着いてられるか これが!おいおい 人んちだよ ここは。
労働組合じゃないんだから。あ… あっ ごめん なっちゃん。
いいけど…。
私 辞めるわ。えっ?
せっかく 原画にもなったしできれば 仕事は続けたかったけどそこまでして働くことはないって思ったの。
僕も そう思う。
私や なっちゃんのあとに入ってきた女子社員なんて入社する時に子どもができたら退職しますって誓約書を書かされたっていうもの。
まあ そうさせるのはうちの会社だけじゃないみたいだけど。しかたないのよ。世の中が まだ そうなんだから。
これじゃ アニメーターの未来は暗いよ。
それも これもアニメーションの地位が低すぎるからだ。
その地位を上げなければしょうがないんだよ。
なっちゃん ごめんねなっちゃんにまで心配かけて。
茜さん こっちこそ何の力にもなれなくて…。
(テレビ)「私 お姉ちゃまにケーキを作ったの」。
「まあ うれしい。 でも どうして?」。
「だって 今日はお姉ちゃまの誕生日じゃないの。 あっ…あ~!」。(泣き声)
「キラキラバンバン キラキラアニー!」。
「うわ~!」。
人間は 魔法を使えないもんね…。
ん?
何でもない…。
♪~
それから 茜さんに替わってなつと同じ班の原画に入ったのは堀内さんでした。
堀内さん。(堀内)うん?
堀内さんの奥さんは仕上課にいたんですよね?
そうだよ。 モモッチの後輩。
あの やっぱり 入社する時に子どもができたら退職するって誓約書を書いたんですか?
そうみたいだね。 でももともと 結婚したら辞めようと思ってたらしいから。
何の問題もなかったわけですか…。うん。
あ… なっちゃんとはうちの奥さんは違うよ。
うちの奥さんは 良妻賢母のタイプだから。
ふ~ん…。うん。私とは違うんですか。
あっ そういう意味じゃなくて…。じゃ どういう意味ですか?
あの だから… ごめんあの そういう… 違う違う ごめん…。
お邪魔しました。あっ 違う違う あれ…。
♪~
かわいい…!
女の子ですか。ハハハ… かわいいでしょう?
(神地)茜ちゃんに似ることを祈りますよ。(下山)それだけが心配。
名前は?あっ…。
あ~。(坂場)アキコか。
違う。 メイコっていうの。
命名 明子。
それが やりたかっただけ?いや 違うよ。
頭脳明せき 風光明美の明。
明ちゃんか…。
茜さんは もう仕事に復帰することは考えてませんか?
うん 今はね。
でも 仕事を辞めて本当によかったと思ってるわ。
この子を置いて会社に行くなんて…今じゃ とても考えられないもの。
そうですか…。
でも 本当にかわいい…。
なっちゃんだよ…。
どうしたの…。
眠たいかな?かわいい…。
そして ひとつきがたち 秋も深まる頃。
(ため息)
ん? どうかした?
あ… ちょっと気持ち悪くて…。
えっ! ちょっと 本当に大丈夫かい?うん。
(荒井)どないしたんや?何でもありません。
気分が悪いって。何や 風邪か?
違います。働き過ぎですよ。
いくら テレビで止め絵が多いっていったって一日に 10カットは描かないと間に合わないんだから。
しゃあないやろが!ちょっと 外の空気 吸ってきます。
うん。
遅れてまうねんで。
おおっ 大丈夫か!?大丈夫か? なっちゃん?
ちゃんと休まなあかんて。
あ… なっちゃん!水 お願いしていい?(荒井)はよ はよ はよ…!
ありがとうございました。お大事に どうぞ。
♪~
ただいま。(坂場)あっ お帰り。
♪~
早かったね。うん…。
また切ったの?大丈夫 もう慣れたから。
指を切ることに慣れないでよ。
そっちは どうしたの?顔色が あんまり よくないみたいだけど。
うん…。
ちょっといい?うん。
今日 仕事中に貧血を起こして倒れてしまったの…。
えっ?あ… それは 大丈夫なんだけど念のため お医者さんに診てもらったら…。
うん。
できてた。えっ?
赤ちゃん。
赤ちゃんが… できてた。
よかったじゃないか。
本当に?
イッキュウさんは うれしいの?
うれしいよ…君は うれしくないのか?
うれしいよ…。
お医者さんに言われた瞬間は信じられないくらいうれしい気持ちになった。
だけど… どうするの?
私は 仕事を辞めるわけにはいかないよ…。
辞めたくないよ…。
できた以上は 産まないという選択肢はないだろ 僕たちに。
だったらそんなことは とても小さなことだ。
君が 母親になるってことに比べたら。
やっぱり… 仕事より大事ってことよね。
そうじゃない…。
産むと覚悟を決めて 仕事のことは考えればいいと言ってるんだ。
一緒に考えよう。
一緒に?うん。
幸い 僕は 今 家で働いてるわけだし君を支えることができると思うんだ。
たとえ 契約になったとしても仕事を続けたいなら好きなだけ続ければいい。
それで もし 会社がその後の君の仕事を認めれば次からは ほかの女性も働きやすくなるだろ?
子どもを育てながらアニメーターを続ければそういう戦いにもなるんだ。
君が その道を作るんだよ。
道を作る…。
そういう開拓精神が君には あるはずだろ。
一緒に頑張ろう。 な。
じゃあ… 喜んでいいのね!
当たり前だ。
ありがとう。
こちらこそ。
おめでとう。
なつよ 笑って母になれ。