アルベドさん大勝利ぃ!   作:神谷涼

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やっとガゼフ登場!


11:事件は風呂場で起きてるんだ

 村人は弔いをし、セバスは会話をしている。

 家族や隣人の死に涙する村人は、見て気持ちのいいものでない。

 接近中の戦士団、潜伏する魔法詠唱者集団などを眺め、モモンガは状況を考える。

 

「ん? そういえば、この体はふやけたり、のぼせたりしないのだな」

 

 ふと、村の殺戮から、相当の時間が過ぎたな、と気づいた。

 ソリュシャンの中から突き出て、アルベドと触れ合う手を見る。

 だが、モモンガもアルベドも、肌や体調に変化はない。

 

「私たち女淫魔(サキュバス)は悪魔の一種として、火属性に抵抗を持っております。また、姿においても、環境影響からの問題が生じたりはいたしません」

 

「ほう! そういえば私もお前も化粧品もろくに使っていないな。シャルティアとソリュシャンは大丈夫なのか? 長風呂がつらければ言うのだぞ」

 

 このまま風呂で観戦していられると知り、上機嫌になるモモンガだが。

 心配そうに、他の二人に目を向ける。

 

「御身に心配いただけるなど光栄……問題ありんせん。もとより、自室でも一日中風呂に入っておりんすし……アンデッドの身なれば、御身の心配する状況とはなりんせん」

 

「はい。私も粘体(スライム)系として、体内水分と温度は任意調整できますので」

 

 心配されて嬉しそうに、しかし問題ないと答える二人。

 

「ならば処理が終わるまでここにいて問題ないか……なあ、アルベド」

 

 手を握る指が少しだけ艶っぽく絡み、目が熱っぽく見つめて来る。

 

「どうしました……モモンガ」

 

 アルベドは軽く深呼吸し、覚悟して呼び捨てた。

 

「っ……んっ♡」

 

 名前を呼び捨てられるだけで、モモンガは身を震わせて軽く絶頂する。

 アルベドに詰問するような目を向けた二人が、その反応に息を飲む。

 シャルティアが目くばせするが、ソリュシャンは首を横に振る。

 何も、していないのだ。

 モモンガは本当にただ、アルベドの言葉だけで達していた。

 

「さ、さっきはベッドを……シーツどころか、マットまで……な? だから今度から、できればここで……ここなら汚しても……」

 

 潤みきった目でアルベドを見つめて、モモンガが言う。

 ベッドではなく、風呂場でかわいがって欲しいとねだっているのだ。

 実際、今まさに私室の方はメイドたちによるマット交換が行われている。

 というか、床まで汁が垂れんばかりの惨状だった。

 そんなシーツが一般メイドに持ち帰られ、御方の香りと言われたりもするのだが。

 

「夫婦の営みや睡眠は、ベッドでするのものです……モモンガ」

 

「は、はい……」

 

 冷たく言うアルベドに、震えた声で返事する。

 アルベドに呆れられたのでは、捨てられるのではと、怯えているのだ。

 にも関わらず、その目、その言葉に、モモンガは感じてしまう。

 

「「…………」」

 

 主のそんな様子に、シャルティアとソリュシャンが剣呑な目をアルベドに向けた。

 アルベドが御方を傀儡にするなら、二人でアルベドを討たねばと。

 

「あくまで入浴を長時間するに留めましょう。この二人もいれば……問題ありませんし」

 

 その言葉に、二人の殺気も消える。

 さらにアルベドはソリュシャンに目を向ける。

 ずるりと、モモンガの体中を、ソリュシャンの粘液が這いうねり舐めまわした。

 

「それはあっ♡ あっ♡」

 

 言葉で抗おうとしても、粘液の刺激に流される。

 

「かまいませんね? モモンガ」

 

 さらに冷たく畳みかけるアルベド。

 

「私もいっしょにお風呂に入りたいでありんす!」

 

 シャルティアが子供っぽく甘えるように言う。

 

「わ、わかった……なら、二人もっ……四人で入るっ、入るぅっ♡」

 

 ずるずると体中這いまわり続ける粘液、愛する妻の目に。

 モモンガはまた、軽く達するのだった。

 

 鏡の中では、ようやく訪れた戦士長とやらがセバスと何か話していたが。

 モモンガは蕩かされ。

 他三人は今後の素晴らしい性生活への期待で、まったく見ていなかった。

 

 モモンガが状況変化に気づいたのは、パンドラズ・アクターから魔法詠唱者らが行動を開始したと〈伝言(メッセージ)〉が届いてからである。

 

 

 

「はぁ……っ、はぁっ♡ 〈伝言(メッセージ)〉ユリ。お前から見て戦士長とやらはどんな人物だった? 答えろ」

 

 何やら緊迫した空気が漂いだした頃、ようやく正気に戻ったモモンガが連絡をつける。

 

『は。善良な方……でしょうか。私やセバス様とは相性よく感じます』

 

「冷酷でも合理的な判断より、情に厚い己に納得いく判断を下す、ということか?」

 

『そうですね。確かにそう思えます。それと、権威を好んでいないようです』

 

「武人肌……コキュートスに近いのか?」

 

 言ってから、コキュートスにも活躍の機会を与えねばと、心に留める。

 

『確かに、コキュートス様とも相性は悪くないかと。ただ、主君以外にも情を向けがちですが』

 

「なるほど……もう一つの集団と戦士団がぶつかる時、お前とルプスレギナは村にいろ。村人らも不安だろうからな。別途の襲撃部隊が来る可能性もある。セバスには一人で戦士長に同行するよう言っておけ」

 

『ありがとうございます』

 

「ん? 何か礼を言われる点があったか?」

 

『いえ、村の子供になつかれましたし……ルプスレギナは、人間を見下しがちですから心配で』

 

 そんな彼女の言葉に、その創造主やまいこ……リアルでは教師だったギルメンを思い出す。

 彼女の意志が、ユリに宿っているのなら。

 モモンガはギルドマスターとして、叶えてやるべきだろうと思った。

 

「……今回の件で孤児も少なからずできたろう。他の村でも、な。それについて私はお前に謝罪できん。だが、お前をこれからも村に残し、交流拠点の責任者にはできる」

 

『それは……』

 

 彼女の言葉に明らかな喜びと期待が満ちる。

 

「期待を持たせてすまないが、まだ確約はできん。状況次第だ。だが、私の心には留めている。今は、その民衆を守るべく専念してくれ」

 

『承知いたしました! 必ずや御身の期待に添わせていただきます!』

 

 弾んだやる気に満ちた声に、モモンガはもう一度励まし、通信を切った。

 そして考える。

 NPCにはNPCの、それぞれが持つ価値観がある。

 彼らはそれに基づき、明確なモチベーションを持つのだ。

 ただ命令に従うばかりの存在ではない。

 セバスやユリは明確な判断基準、個人の価値観を持っていた。

 デミウルゴスも、まだ明確ではないが、いくつかの状況に喜びを示している。

 パンドラズ・アクターは、モモンガと接するだけでテンションを高くしていた。

 シャルティアも熱心に己を求めてくれる。

 ソリュシャンも……おそらくモモンガに執着してくれているのだろう。

 では、アルベドは?

 

(アルベドは……どうだろう。NPCだから従うのか? 私のように、執着してくれているのか? 私ではなく、ただ女淫魔(サキュバス)として色事を好んでいるだけではないか? だとしたら、私はアルベドにとって面倒なだけの存在では……あああああ……こんな、こんなことなら、転移前にアルベドの設定を見ておけばよかった。いや、設定に私への愛情を書き加えていれば。でもそんなことをしたと知れば、そんな望みを抱いていると知れば、アルベドは私を……いや、そんな都合よく書き換えたアルベドに愛されて満足なのか? 私が愛するアルベドは今いるアルベドじゃないのか? 私はアルベドを都合のいい人形扱い……いや、違う、違うのだ。ただアルベドに愛されたくて……私が今悩み苦しんでいるように、アルベドは苦しんでいるのか? アルベドにも悩んでほしい……でも、アルベドを苦しませたくない……私はアルベドに何を求めているのだ? アルベドに何をされたい? 何をしたい? そしてそれはアルベドがしたいことなのか? 勝手な命令でアルベドを渋々に従わせているのではにないか? 主だから仕方ないと私を抱いているのでは……でも、最初にあんな熱心に私を求めてキスしてくれたはずだ。だからアルベドは私をきっと求めている。求めていると言ってほしい……呼び捨てられるのは嬉しい。アルベドのものになったと自覚できる。NPCと主人の関係じゃない、アルベドという存在の、ただ一つの何かになれたと思えるし……アルベドに捨てる自由があるのに、捨てたくないから抱きしめてくれると信じられる。信じたい。私が命令しているんじゃない、アルベドがアルベドの意志で私を手放さずいてくれると……いてくれるよな? アルベドは私を捨てないよな? 捨てたいのにNPCだから従ってるわけじゃないよな? どうなんだアルベド……こうして悩んでいるのにわからないか? お前が私の心を読んでくれないかと望むのはおかしいか? おかしいだろうな、私はお前の心を読めていないのに。私の心だけ読んで欲しがるなんて。でも、またあの時みたいに熱心に求めて欲しいんだ。今の状況だって、お前が求めてきたら全て放り投げるのに。すまし顔で指示を出している時に、またその指や舌で私を鳴かしてくれてもかまわないんだぞ。望むように、望むままに、求めてほしいんだ。求められていないかもなんて不安に思うよりは……嫌になるくらい求めて求めて、私をずっとドロドロに溶かして壊してほしいんだ。ナザリックの支配者であり続ける以上に、お前のものになりたい。お前のお前だけのものになって………………ダメなのか? それとも、この体がシャルティアやソリュシャンにも反応してしまったから。それで怒っているのか? シャルティアはともかく、ソリュシャンはお前が連れて来ただろう? 私がソリュシャンに狂わされる顔を、嬉しそうに見てたじゃないか。も、もしやアルベドはNTR趣味なのか? わ、私が他の者に抱かれて達する顔を見るのが好きなのか? お前が望むなら、お前がそんな趣味だからと愛想を尽かせたりはしないし、お前の趣味を無理に変えようなんて言わない。求めるなら応じるが……他の者に代わる代わる抱かれて、よがらされてしまうのか。くぅぅ、こんな想像だけで逐一、反応するなんて……やはり、私がいやらしいからと、アルベドが変に気遣っているのでは……なあ、どうなんだアルベド……私が答えろと思っているのがわからないのか? どうなんだ?)

 

 すがりつくような目でアルベドを見てしまう。

 もちろん、そんな胸中がアルベドにわかるはずもない。

 

「心配ありません。セバスなら、一人でも容易に全て打破しうる程度の戦力です。予想外があっても、予備戦力で十二分に殲滅可能かと」

 

 戦況への不安と思ったのか。

 アルベドからは冷静な指揮官としての返答。

 鏡の中では戦士団がセバスと共に村を離れ。

 包囲する魔法詠唱者らと対峙していた。

 

「……そうだな」

 

 短く答え、モモンガはなんとか頭を切り替える。

 対峙する直前、セバスに連絡をとった。

 




モモンガさんの闇思考は流してどうぞ。

ガゼフ登場しましたがセリフありません。
今回でニグン決着までいくつもりでしたが……。
途中でモモンガさんの闇が蠢きだしたので、今回は激突直前まで。
(冒頭でずっとお風呂にいる理由説明したら伸びたせいでもある)
ニグンさんの運命は次回決まる……はず?

とりあえずソリュシャンは、ちゃっかりレギュラー入りしました。

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