村人は弔いをし、セバスは会話をしている。
家族や隣人の死に涙する村人は、見て気持ちのいいものでない。
接近中の戦士団、潜伏する魔法詠唱者集団などを眺め、モモンガは状況を考える。
「ん? そういえば、この体はふやけたり、のぼせたりしないのだな」
ふと、村の殺戮から、相当の時間が過ぎたな、と気づいた。
ソリュシャンの中から突き出て、アルベドと触れ合う手を見る。
だが、モモンガもアルベドも、肌や体調に変化はない。
「私たち
「ほう! そういえば私もお前も化粧品もろくに使っていないな。シャルティアとソリュシャンは大丈夫なのか? 長風呂がつらければ言うのだぞ」
このまま風呂で観戦していられると知り、上機嫌になるモモンガだが。
心配そうに、他の二人に目を向ける。
「御身に心配いただけるなど光栄……問題ありんせん。もとより、自室でも一日中風呂に入っておりんすし……アンデッドの身なれば、御身の心配する状況とはなりんせん」
「はい。私も
心配されて嬉しそうに、しかし問題ないと答える二人。
「ならば処理が終わるまでここにいて問題ないか……なあ、アルベド」
手を握る指が少しだけ艶っぽく絡み、目が熱っぽく見つめて来る。
「どうしました……モモンガ」
アルベドは軽く深呼吸し、覚悟して呼び捨てた。
「っ……んっ♡」
名前を呼び捨てられるだけで、モモンガは身を震わせて軽く絶頂する。
アルベドに詰問するような目を向けた二人が、その反応に息を飲む。
シャルティアが目くばせするが、ソリュシャンは首を横に振る。
何も、していないのだ。
モモンガは本当にただ、アルベドの言葉だけで達していた。
「さ、さっきはベッドを……シーツどころか、マットまで……な? だから今度から、できればここで……ここなら汚しても……」
潤みきった目でアルベドを見つめて、モモンガが言う。
ベッドではなく、風呂場でかわいがって欲しいとねだっているのだ。
実際、今まさに私室の方はメイドたちによるマット交換が行われている。
というか、床まで汁が垂れんばかりの惨状だった。
そんなシーツが一般メイドに持ち帰られ、御方の香りと言われたりもするのだが。
「夫婦の営みや睡眠は、ベッドでするのものです……モモンガ」
「は、はい……」
冷たく言うアルベドに、震えた声で返事する。
アルベドに呆れられたのでは、捨てられるのではと、怯えているのだ。
にも関わらず、その目、その言葉に、モモンガは感じてしまう。
「「…………」」
主のそんな様子に、シャルティアとソリュシャンが剣呑な目をアルベドに向けた。
アルベドが御方を傀儡にするなら、二人でアルベドを討たねばと。
「あくまで入浴を長時間するに留めましょう。この二人もいれば……問題ありませんし」
その言葉に、二人の殺気も消える。
さらにアルベドはソリュシャンに目を向ける。
ずるりと、モモンガの体中を、ソリュシャンの粘液が這いうねり舐めまわした。
「それはあっ♡ あっ♡」
言葉で抗おうとしても、粘液の刺激に流される。
「かまいませんね? モモンガ」
さらに冷たく畳みかけるアルベド。
「私もいっしょにお風呂に入りたいでありんす!」
シャルティアが子供っぽく甘えるように言う。
「わ、わかった……なら、二人もっ……四人で入るっ、入るぅっ♡」
ずるずると体中這いまわり続ける粘液、愛する妻の目に。
モモンガはまた、軽く達するのだった。
鏡の中では、ようやく訪れた戦士長とやらがセバスと何か話していたが。
モモンガは蕩かされ。
他三人は今後の素晴らしい性生活への期待で、まったく見ていなかった。
モモンガが状況変化に気づいたのは、パンドラズ・アクターから魔法詠唱者らが行動を開始したと〈
「はぁ……っ、はぁっ♡ 〈
何やら緊迫した空気が漂いだした頃、ようやく正気に戻ったモモンガが連絡をつける。
『は。善良な方……でしょうか。私やセバス様とは相性よく感じます』
「冷酷でも合理的な判断より、情に厚い己に納得いく判断を下す、ということか?」
『そうですね。確かにそう思えます。それと、権威を好んでいないようです』
「武人肌……コキュートスに近いのか?」
言ってから、コキュートスにも活躍の機会を与えねばと、心に留める。
『確かに、コキュートス様とも相性は悪くないかと。ただ、主君以外にも情を向けがちですが』
「なるほど……もう一つの集団と戦士団がぶつかる時、お前とルプスレギナは村にいろ。村人らも不安だろうからな。別途の襲撃部隊が来る可能性もある。セバスには一人で戦士長に同行するよう言っておけ」
『ありがとうございます』
「ん? 何か礼を言われる点があったか?」
『いえ、村の子供になつかれましたし……ルプスレギナは、人間を見下しがちですから心配で』
そんな彼女の言葉に、その創造主やまいこ……リアルでは教師だったギルメンを思い出す。
彼女の意志が、ユリに宿っているのなら。
モモンガはギルドマスターとして、叶えてやるべきだろうと思った。
「……今回の件で孤児も少なからずできたろう。他の村でも、な。それについて私はお前に謝罪できん。だが、お前をこれからも村に残し、交流拠点の責任者にはできる」
『それは……』
彼女の言葉に明らかな喜びと期待が満ちる。
「期待を持たせてすまないが、まだ確約はできん。状況次第だ。だが、私の心には留めている。今は、その民衆を守るべく専念してくれ」
『承知いたしました! 必ずや御身の期待に添わせていただきます!』
弾んだやる気に満ちた声に、モモンガはもう一度励まし、通信を切った。
そして考える。
NPCにはNPCの、それぞれが持つ価値観がある。
彼らはそれに基づき、明確なモチベーションを持つのだ。
ただ命令に従うばかりの存在ではない。
セバスやユリは明確な判断基準、個人の価値観を持っていた。
デミウルゴスも、まだ明確ではないが、いくつかの状況に喜びを示している。
パンドラズ・アクターは、モモンガと接するだけでテンションを高くしていた。
シャルティアも熱心に己を求めてくれる。
ソリュシャンも……おそらくモモンガに執着してくれているのだろう。
では、アルベドは?
(アルベドは……どうだろう。NPCだから従うのか? 私のように、執着してくれているのか? 私ではなく、ただ
すがりつくような目でアルベドを見てしまう。
もちろん、そんな胸中がアルベドにわかるはずもない。
「心配ありません。セバスなら、一人でも容易に全て打破しうる程度の戦力です。予想外があっても、予備戦力で十二分に殲滅可能かと」
戦況への不安と思ったのか。
アルベドからは冷静な指揮官としての返答。
鏡の中では戦士団がセバスと共に村を離れ。
包囲する魔法詠唱者らと対峙していた。
「……そうだな」
短く答え、モモンガはなんとか頭を切り替える。
対峙する直前、セバスに連絡をとった。
モモンガさんの闇思考は流してどうぞ。
ガゼフ登場しましたがセリフありません。
今回でニグン決着までいくつもりでしたが……。
途中でモモンガさんの闇が蠢きだしたので、今回は激突直前まで。
(冒頭でずっとお風呂にいる理由説明したら伸びたせいでもある)
ニグンさんの運命は次回決まる……はず?
とりあえずソリュシャンは、ちゃっかりレギュラー入りしました。