5回2死からの5連打。山井に何があったのか。誰もが容易に想像するのが勝利投手の権利だろう。球界最年長投手だろうが、18歳のルーキーだろうが先発すれば白星をつかみたい。権利が暫定なのはわかっていても「あと1人」。その心情も理解できる。
小さな傷口が開いたのが代打・木浪の右前打。どうってことはない。1番・近本に中越えの二塁打で1点。内野手がマウンドに集まり、散った。北條にも左越え二塁打で1点差。ここで阿波野投手コーチがマウンドへ向かった。次の福留の打球が内野安打でとどまったのは、神様がくれたラストチャンスだったのかもしれないが続投。さらにマルテに同点の二塁打を浴び、なおも二、三塁でベンチは腰を上げた。
早ければ福留。遅くともマルテからだと僕は思った。「それまでと球が変わったとは思わなかったけど、本人の中で焦りがあったのかもしれません」。打った福留はこう推測した。交代すべきか。でもあと1死を…。ベンチもこう思ったことだろう。その心情も理解できる。それでも交代だった。代えれば山井は勝てない。非情。やむを得ない。だって前日はスコアレスの8回、2死一塁で大野雄に交代を命じた。その瞬間、大野雄に白星は絶対につかないが、あと1死を取れば裏の攻撃に望みがつながる。それでも代えたのは、エースの白星よりチームの勝利がはるかに重い。今はその時期に入ったというベンチの意思表示だと、僕は受け止めた。それなら山井にも非情でいってほしかった。
残り35試合で借金10。僕は優勝できるともしろとも書かないが、今もチームの目標は下方修正されてないと思っている。つまり、ブルペンは総動員、誰に白星がつくかなんて関係ない。「普通」では、借金返済すらおぼつかない試合数なのだ。普通ではない戦いを-。奇跡を起こすとは、そういうことだ。