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【国際】

アイヌ差別 悲劇に重ね シェークスピア「旺征露(オセロ)」 ロンドンで上演

9日、ロンドンで上演された「アイヌオセロ」の冒頭、アイヌ民族の旺征露(オセロ)が和人の貞珠真(デズマ)を妻として迎える婚礼の場面

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 シェークスピアの悲劇「オセロ」の主人公を世界で初めてアイヌ民族として描いた演劇「アイヌオセロ 旺征露(オセロ)」が八月上旬、ロンドンで上演された。四百年前に書かれた黒人と白人の人種差別をアイヌと和人に投影し、古今東西に共通する人間の愚を表現した本作。ロンドンの劇場側は「欧州連合(EU)離脱で分断する英国でこそ見てほしい」と招待した。 (ロンドン・沢田千秋、写真も)

 「生まれてくる子は黒とも白ともつかねえ」「(和人とは)生まれも顔も血も違う」。舞台は幕末で、セリフは日本語。それでも、アイヌへの激しい差別感情や主人公オセロの潜在的な劣等感、嫉妬はシェークスピアの世界観を踏襲する。

 招待された仙台市の劇団シェイクスピア・カンパニー主宰、下館和巳(しもだてかずみ)東北学院大教授は、演出に際し、アイヌ芸術家の秋辺(あきべ)デボさんに協力を仰いだ。助言により「土人アイヌに(嫁を)やるなんて」など、差別語もあえて導入した。秋辺さんが率いる舞踏集団ピリカプは劇中、アイヌの衣装、音楽、言語を披露。下館さんは「アイヌの協力が劇の血肉となった」と振り返る。

 舞台上部の英語字幕で鑑賞した地元の学生アンドレ・バロッカさん(25)は「初めてアイヌを知った。西洋の植民地支配のように、日本でも差別があったのか」と感慨深げに語った。

 上演したタラ・シアターの芸術監督ジャティンダ・バーマさんは下館さんと三十年来の友人で、自身はインド系移民。ロンドンで四十年以上、反差別を訴える演目を手掛けてきた。

 今回、オリジナルにない演出として、オセロを憎む男をアイヌと和人の混血に設定。「混血は現代の移民に多く存在し、差別される自らの半分の血を激しく憎むジレンマを抱えている。アイヌオセロを英国に呼んだのは、アイヌの知識を広めると同時に、今の人種差別の悲劇として見てもらうためだった」という。

 バーマさんは「英国は今、かつてないほど分断している」と嘆く。「昨日もインド系の同僚が、路上で六歳ぐらいの子供から『国へ帰れ』とののしられた。EU離脱の混乱以降、人々の心はどんどん狭量になり、事態は悪化している」

 そんな状況下だからこそ、演劇の力に期待する。「二時間の鑑賞が異世界へいざなってくれる。役者がつむいだ異文化の物語を受け取った時、観客の心のありようは変化する。異なる世界へ心を開けば、多様性への理解につながるはずだ」

「アイヌオセロは日本の多様性と現代の差別を表現している」と話すタラ・シアターのジャティンダ・バーマ芸術監督

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<オセロ> 英国出身の劇作家ウィリアム・シェークスピアの四大悲劇の一つ。1604年に書かれ、同年11月、国王ジェームズ1世を迎えたロンドン・ホワイトホール宮殿での上演が最古の記録。物語はイタリア・ベネチアで北アフリカ出身の武将オセロが白人の妻をもらうが、部下から聞かされた妻の不貞という虚偽の情報を信じ妻を殺害。妻の無実を知ると自らも命を絶つ。人種差別がもたらす憎悪、不信感、劣等感を描いている。

 

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