野球を科学する早大・小宮山悟監督の考え
小中学生に「正しい投げ方」は教えられない

野球というものを科学的に突き詰めたい

現在は母校である早稲田大の監督として、熱心に指揮を執る
現在は母校である早稲田大の監督として、熱心に指揮を執る【写真は共同】

――今は早稲田大の監督として、「根性野球に科学的要素を上積みする」とおっしゃっていますが、その意味は?


 うまくなりたいという思いを持った選手がうまくなろうとしている姿は、まさに根性野球。ただ、やみくもにやって得られることもあるだろうけど、無駄をなくしてほしいんですよね。スポーツ科学部で野球の研究をしている先生も、学生もいる早稲田大に在籍しながら、なぜもっとその利点を生かす科学的なアプローチをしてみないのか。今、先生方の協力のもと、いろいろ取り組み始めています。無限の可能性があるので、楽しみですよ。


――大学ではピッチャーのコンディションの整え方、休養と練習のバランスなど、どんなふうにマネージメントしておいでですか?


 基本的には、その選手の持つ能力を最大限に生かしてあげたい、という思いですね。まず「ああしろ、こうしろ」と細かくは言いません。自分たちで考え、こうしたいと思うところにたどり着けるかどうか。カベに当たったときには、アシストします。ピッチャーについても、学生コーチに土台となる考え方を伝え、「体はこういう仕組みになっているから、それをどう使うか考えながら、やらせなさい。ただ自分自身の体を理解しないうちは何をやってもダメだから、実際投げ終わった後、自分がどうだったか考えさせ、意見交換をしなさい」と言ってあります。練習で放る球数なども、本人たちに任せていますよ。リーグ戦も、こちらから各選手のレベルに相応しいものをリクエストし、「それを達成するための練習をしろ」「試合で結果を出しなさい」と伝えています。

少年野球にはびこる指導者の「無理強い」に、小宮山監督は警鐘を鳴らす
少年野球にはびこる指導者の「無理強い」に、小宮山監督は警鐘を鳴らす【撮影:熊谷仁男】

――六大学の主戦投手は同カードの1日目と3日目に先発。2日目もリリーフでマウンドに上がることがあります。すなわち、そういう球数を投げても問題のないピッチャーが主戦を務めるということですか?


 例えば春のリーグ戦、主戦で投げた早川隆久には、私が去年の秋就任した時点で「土曜と月曜の先発」に加えて、「ひょっとしたら日曜もリリーフするかもしれない。そういうピッチャーになってくれ」とリクエストを出しています。ほかのピッチャーには「競争だ」というリクエスト。競争させて、勝ち残ったピッチャーを使う。皆がその競争を意識することで、どんどん個々のレベルが上がっていく。その相乗効果でどの程度までチーム力が引き上げられるか、楽しみな素材がたくさんいます。


――その中で、指導者としてすべきこと、してはいけないことはなんでしょう?


 指導者としてしなければいけないのは、その選手をつぶさに観察して、何か異常を察したらきちんと確認すること。私は自分の目に自信があるので、投げている姿を見て「おかしいな」と思ったときは、止めますよ。もし指導者が「自分はその能力がない」と自認しているのなら、各自の状態や放った球数などすべてを克明にメモさせ、提出させて体調チェックを怠らないようにすればいい。すべきではないことは、“無理強い”。これは間違いないです。


(企画構成:株式会社スリーライト)

小宮山悟 (こみやま・さとる)

【撮影:熊谷仁男】

1965年生まれ。千葉県出身。芝浦工大柏高から2浪を経て早稲田大に入学。4年次には主将を務め、六大学リーグ戦での通算成績は20勝10敗。卒業後はドラフト1位でロッテオリオンズ(現・千葉ロッテマリーンズ)に入団。プロ1年目から先発ローテーションに入り、エースとして活躍。97年には最優秀防御率のタイトルを獲得した。2000年に横浜ベイスターズ、02年にメジャーリーグへ移籍し、ボビー・バレンタイン監督率いるメッツで1シーズンプレーした。04年に再び千葉ロッテマリーンズへ復帰し、09年に現役引退。引退後は、野球評論家や(一般社団法人)スポッツ・プロジェクト理事、日本プロサッカーリーグ理事など、さまざまな分野で活躍し、日本スポーツ界の発展に寄与。19年1月から母校の早稲田大野球部監督を務める。

前田恵

1963年、兵庫県神戸市生まれ。上智大学在学中の85、86年、川崎球場でグラウンドガールを務める。卒業後、ベースボール・マガジン社で野球誌編集記者。91年シーズン限りで退社し、フリーライターに。野球、サッカーなど各種スポーツのほか、旅行、教育、犬関係も執筆。著書に『母たちのプロ野球』(中央公論新社)、『野球酒場』(ベースボール・マガジン社)ほか。編集協力に野村克也著『野村克也からの手紙』(ベースボール・マガジン社)ほか。豪州プロ野球リーグABLの取材歴は20年を超え、昨季よりABL公認でABL Japan公式サイト(http://abl-japan.com)を運営中。

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