残っている中から最上位を指名したのではない。最上位の投手がまだ残っていた。昨秋のドラフト会議。中日が最も高く評価していた投手が梅津だった。「根尾を外したら梅津でいく」。そう確認されたのは、会議当日の朝だった。一部には異論もあっただろう。何せ大学通算でたった1勝しかしていないのだから。
東洋大同期の甲斐野はソフトバンク、上茶谷はDeNAなど、すでに6人の投手が指名されていた。つまり、他球団と中日の評価は違っていたということだ。実績で見劣りする梅津をなぜ…。「梅津で行かせてください」と推した男は、夏の甲子園で汗だくになりながら、昨春の出会いを教えてくれた。
「例年のように、ドラゴンズの沖縄キャンプを見てから、中旬くらいに東洋大に向かったんです。雨の室内練習場で(甲斐野、上茶谷と)3人が並んで投げていました。強烈というか、衝撃的というか…。手元でグッと伸びる球の勢い、迫力。他の2人もよかったですが、僕は梅津が一番だと思ったんです」
担当の正津英志スカウトが振り返る。ドラフトとは恋である。恋は出会いのタイミング。梅津覚醒の瞬間を、正津スカウトは見てしまった。直前まで沖縄で見ていたプロの球と、遜色のない完成度。昨春のリーグ戦での好投を、スカウト部首脳も見たことが決め手になった。その後故障。秋もいまひとつ。それが他球団への隠れみのになった。正津スカウトはこう言った。「僕は春の梅津を信じました」。そして、スカウト会議をこんな言葉で、押し切った。
「将来、うちの柱になる投手です」。実績のある方を選ぶのは失敗したときの保険になるが、ない方を選ぶのは勇気が求められる。ある意味、真のスカウト力が問われた決断だ。上茶谷は現在6勝、甲斐野は48試合に投げ、18ホールド、8セーブを挙げている。だが、この世界の評価は頭角を現す早さでは決まらない。最終的な頭角のでかさで決まるのだ。