今日12日に配信されたスポーツ紙の電子版では、湘南の曺貴裁監督のパワハラ疑惑により電撃退任の可能性を示唆した。曺監督は2018年2月から今年7月にかけて、神奈川県平塚市内のクラブハウスや試合会場などで、選手やチームスタッフらに対して高圧的な態度や暴言を繰り返したことがパワハラ行為につながるのではないかとの指摘を受けた。

アマゾンでは2018−2019シーズン、マンチェスター・Cを密着取材した番組「オール・オア・ナッシング 〜マンチェスター・シティの進化〜」が話題を呼んだ。グァルディオラ監督がいかにして試合前のドレッシングルームで選手のモチベーションを上げるかを描いたドキュメンタリーである。試合前は選手を鼓舞し、自信を植え付け、勝利後のドレッシングルームでは選手とともに喜びを爆発させるチベーターとしてのグァルディオラ監督を知ることができる。

一方、湘南も昨シーズンの戦いを追い、試合後のドレッシングルームなどで選手が怒鳴り合うDVD「湘南ベルマーレイヤー NONSTOP FOOTBALLの真実 第5章-2018覚悟-」
を制作し、異例の大ヒットとなった。

ただしこちらのDVDは、曺監督にパワハラ行為があるかどうかを確認する意味で試合後のドレッシングルームを撮影したとの噂もあった。曺氏は2012年に湘南の監督に就任すると7年の長期に渡ってチームを指導。昇格と降格を繰り返しながらも昨シーズンはルヴァン杯を獲得。豊富な運動量と攻守にハードワークする「湘南スタイル」を確立した功労者でもある。

ただ、その一方で長期政権は曺監督を“アンタッチャブル”な存在にする危険性もはらんでいて、フロントの人事にも口をはさむようになったと聞く。さらにコーチ陣は2年以上在籍したスタッフはいないというのも尋常ではない。

DVDでは試合後にGK秋元陽太とMF梅崎司が試合のある場面で怒鳴り合うシーンがあるが、これは試合後に曺監督のパワハラ行為を少しでも緩和させようと、選手たちが“自衛”のため先に怒鳴り合いを始めたとも言われている。

敗戦後は監督が選手に怒りの矛先を向けることもあるだろうし、次の試合に向けて鼓舞しようと、あえて暴言を吐いたのかもしれない。

かつてJSL(日本サッカーリーグ)時代に、丸の内御三家のチームの監督が選手をなじったことで、元日本代表DFが自殺した。関西の有名高校では、30代の監督が前任者のように私生活を犠牲にしてまで指導することはできないと自殺した不幸な出来事もあった。Jリーグがスタートしてからも、関東のクラブのコーチが育成年代のコーチを叱り続けたことでユースの責任者が自殺したこともある。

いずれも許される行為ではないが、昨今はコンプライス違反に対する世間の視線が厳しくなっているだけに、曺監督のパワハラが事実と認定されればJリーグを揺るがしかねない社会的な問題ともなる。

湘南はクラブのホームページに12日、「一部報道について」と題して次のようなコメントを発表した。

「8月12日(月)発行のスポーツ報知と日刊スポーツにおきまして、湘南ベルマーレの監督である曺貴裁がパワーハラスメント行為を行った疑惑があるという内容の記事が掲載されております。クラブとしましては、記事内容の詳細を確認し、Jリーグと協議の上で、報道された内容に関する事実関係の調査を速やかに行ってまいります」と、即座に疑惑を否定せず、「Jリーグと協議の上」で事実関係の調査を行うことを表明した。

そして週末の17日、ホームの鳥栖戦の前の14時から平塚総合公園内 総合体育館 A会議室で、年4回開催される「クラブカンファレンス」を開催する。クラブとサポーターの意見交換の場で、カンファレンスには眞壁潔会長と水谷尚人社長が出席する。

当然、サポーターからは曺監督のパワハラ疑惑について質問が出ることが予想される。その場で眞壁会長と水谷社長がどのような見解を示すのか、今後の判断材料になることだろう。この件に関してはJリーグも同監督とクラブ側にヒアリング調査を行うようなので、推移を見守りたい。

【六川亨】1957年9月25日生まれ。当時、月刊だった「サッカーダイジェスト」の編集者としてこの世界に入り、隔週、週刊サッカーダイジェストの編集長や、「CALCIO2002」、「プレミアシップマガジン」、「サッカーズ」の編集長を歴任。現在はフリーランスとして、Jリーグや日本代表をはじめ、W杯やユーロ、コパ・アメリカなど精力的に取材活動を行っている。日本サッカー暗黒の時代からJリーグ誕生、日本代表のW杯初出場などを見続けた、博識ジャーナリストである。