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転生王子は錬金術師となり興国する 作者:月夜 涙(るい)

第三章:転生王子は強国する

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第十九話:転生王子は宣戦布告を受ける

 民たちの城への受け入れが始まった。

 居住が始まったのは八日前から、大まかに領地を四分割して、各グループごとに二日かけて引っ越しをする。一気に全国民が引っ越しをすると効率が悪くなるためだ。


 そして、今日が引っ越しの最終日。

 引っ越しをする民の様子をヒバナと共に城の自室から見ていた。

 城門から民たちが次々に中へと入っていき、兵たちが案内や指導をしている。最終日だけあって、彼らもだいぶ手慣れていた。


「本当に国民全部がこの城に住めるのね。ちょっと驚いたわ。城の食堂で軍人も一般民も一緒に食事をしているのが未だに信じられないもの」

「もともと、この城は魔物から自国を守るための砦として作られたんだ。カルタロッサの民千人ぐらいなら余裕で収容できる」


 そして、そんなものをかつて作れた事実が、今のカルタロッサ王国の衰退を思わせる。

 領地を切り取られる前は、辺境に兵千人が滞在可能な砦を魔物被害を押さえるためだけに用意できるだけの国力があった。

 それが今や全国民が千人。

 ここから全てを取り戻していくのは骨が折れそうだ。


「でも、無事に引っ越しが終わりそうで何よりね。……もっと、いろいろと問題が起こると思っていたわ。いきなり引っ越せなんて言っても、みんなついてこないのが普通よ」

「領地を奪われて、逃げ延びてこの地にやってきた世代の人たちがまだ生きてるからね。……彼らにとって、隣国が攻めてくるっていうのは紛れもないリアルなんだ。そんな彼らに説得を頼んだからこそ、みんな納得してくれた。第一、アガタ兄さんが仕切っているんだから間違いはないさ。本当にアガタ兄さんはそつがない」


 千人が移住するというのは大仕事だ。

 さまざまな問題が噴出する。部屋の割当てや食料配分、私物の持ち込み制限etc。そういう細々なことを蔑ろにすれば後でツケを払わされる。


「ええ、スムーズすぎて怖いぐらいね。だってもう、民が中庭で訓練を始めているもの」

「だな」


 部屋を出て、廊下側の窓を見ると、中庭で民たちが訓練をしていた。

 訓練内容は、クロスボウを使った射撃訓練。

 大人も子供も関係なく、クロスボウの使い方を叩き込んでいる。


 手回し滑車を使っているため、子供でも強力なクロスボウの弦を引くことができる。

 カルタロッサの民はすべてで千人しかいない。

 正規軍人が百人もおらず、半農半兵の民まで含めても二百人程度。一般民、子供や女性、老人まで動員しないと最初から勝ち目がない。


 その点、クロスボウのような誰でも使える武器はありがたい。子供だろうと兵を殺せる。

 実際、たった一日、二日でみんなクロスボウの扱いになれ、人を殺せる武力を手に入れていた。

 百発百中とは到底言えない。

 だが、十二分に戦力となっている。クロスボウは弾幕を張るために用いるものなので、ある程度おおまかな狙いをつけられればそれでいい。


「地下のほうでも、仕事の割り振りを始めたし、順調だ」

「すごいのはそこよ。徹底して、アガタ王子は民に仕事を与えようとしているの。話を聞いたときはびっくりしたわ」

「ああ、あれには驚いたよ」


 アガタ兄さんは、民に仕事を与えることを第一に考えている。

 クロスボウの訓練、地下農場での農業や家畜の世話、その他内職などいろいろだ。

 それは労働力を無駄にしないということ以上に、民の心を守るため。

 アガタ兄さんいわく、籠城戦でももっとも危険なのは退屈らしい。

 人にとって最大の苦痛は何も出来ないこと。

 手も頭も動かすことなく、じっと閉じ込められるとおかしくなっていくし、ちょっとしたストレスにも絶えられなくなる。


 だから、なんでもいいから籠城している間に仕事を与えるのを第一、それこそが民にとっての最大の薬になると言い切った。

 ……そういう気遣いは俺にはできなかった。


 つくづく自分の浅はかさに気付かされる。常々アガタ兄さんは、俺に対して発想は面白いし、視野も広いが、詰めが甘いと言う。

 たぶん、こういうところだ。

 いくら、鉄壁の守りを敷いても内側から崩れればなんの意味もない。


「引っ越しと訓練、間に合うかしら」

「なんとかなるだろう。まだ宣戦布告も届いてないしな。相手がルールを守るなら、今から十日は時間がある。それに、斥候はやたら放たれているが、まだ軍は動いてない。攻城兵器を抱えている連中を、タクム兄さんの部下たちが見落とすはずがない」


 城壁の副次効果がそれだ。

 攻城兵器を運ばせることにより、敵の足を遅くし、さらには敵の進軍に気づきやすくする。


「昨日聞いた話だと、数日前から、あれだけ多かった斥候がぴたりと止んだらしいわ」

「もう十分情報は集まったってことだろう。いよいよ戦いが始まるな」

「ええ、そうね」


 そう言うヒバナの指先が震えていた。


「怖いのか」

「そうね、怖いわ。私は人を殺したことがないのよ。留学していたときは、騎士の国に戦争を売る命知らずなんていなかったし、クロハガネでも結局、私は誰も殺さなかった」

「……そうか」

「でも、心配しないで。絶対にやる。じゃないと、大切なものを守れないから」

「ヒバナができると言うなら、できるんだろう」

「ええ、任せて。私、強くなったの。……ついにバルムートから一本とったわ。正真正銘、五分の勝負で。五本に一本は勝てるようになったの」


 冬の間、俺はひたすら武器を揃えた。

 その間、ヒバナたちは腕を磨いていた。

 バルムートも、タクム兄さんやヒバナとの訓練で俺と出会ったときよりさらに強くなっている。

 そんな強くなったバルムート相手に一本取れるなんて、冬が来る前のヒバナじゃ考えられなかった。


「その成長ペースだと、この戦争が終わる頃にはバルムートを超えているかもな」

「ええ、この戦争で一番足りない実戦経験を埋めるわ。……だからお願い、私を気遣ったりしないで。こんなふうに震えていては説得力がないかもしれないけど」


 俺は微笑む。

 一つ、ヒバナは大きな勘違いをしている。


「俺はヒバナを信じているんだ。ヒバナは俺の期待に応え続けてくれた。だから、俺はここまでこれた。そんなヒバナを疑いなどするものか。……頼んだぞ、俺の騎士」

「ええ。任せて、私の王」


 ヒバナと微笑み合う。

 どこかヒバナの目が潤んでいた。

 なぜか、キスを求めている、そんな気がして唇に引き寄せられそうになる。

 駄目だ、色恋は姉さんを救ってからだって決めているのに。


「ヒーロ王、ヒバナ様、アガタ王子から緊急招集がかかりました!」


 そんな俺たちのもとに兵がやってきた。


「そういうことらしい。いこうか、ヒバナ」

「えっ、ええ、急ぎましょう」


 もともと予定になかった会議をアガタ兄さんが開催することを命じた。

 おそらく、その目的は一つしかない。


 ◇


 会議室には、緊急での招集に関わらず、三王子だけでなく主要な軍人と文官が揃っている。

 重要な会議が行われるのは間違いない。


「さて、みんな揃ったね。いよいよグルニッジ王国からの宣戦布告が届いた。二週間後には我が国に、フェイアル公爵率いる正規軍が到着するらしい。ご丁寧に戦力まで伝えてくれているね。その数、二千。あの国の規模からすれば、多くも少なくもない数だけど、我が国の規模を考えればやりすぎだね」


 文官たちの顔が青ざめる。なにせ、こちらの総人口の二倍だ。

 我が国で軍人と呼べるものは半農を含めて二百人。軍人の数だけ比較するなら十倍。

 城攻めには三倍の兵力が必要と一般的には言われるが、十倍とは豪気だ。

 そして、対照的に軍の人間は笑う。

 その筆頭であるタクム兄さんが口を開いた。


「はっ、面白え。それだけ俺らを警戒してんのか。いいぜ。始めから想定していた数だ。だろう、ヒーロ」

「ああ、そうだ。十分対応できる。こちらの兵力は七百。余裕だな」


 俺の言った数は兵士の数じゃない。

 最低限、クロスボウを撃てるようになると想定した数。

 子供でも引けるとはいえ、さすがに幼児や病人では無理だ。

 現実的に戦力になるのは七百人。

 そして、一般的な城攻めに必要な兵力差が三倍なだけで、装備・設備に圧倒的な差がある以上、もっと多くの兵力差がなければ我が国は落ちない。


「安心したよ。二人がそう言うのなら戦えるんだろう。届いた手紙は降伏勧告も兼ねているようだね。なになに、僕とタクム兄さんの首とヒーロの身柄、それからこの国のすべてを差し出せば、民たちの安全は保証してもらえるらしい。ヒーロはよっぽどフェイアル公爵に気に入られたんだね。一人だけ死ななくていいらしいよ。返事はどうする?」


 タクム兄さんが腕を組んで笑う。


「愚問だぜ。……ようやく、たまりにたまった恨みを晴らせるんだ。その喧嘩を買うと返事しろ」

「僕も同じ意見だね。僕は死にたくないし、それ以上に民たちが死ぬより辛い目に会うのは避けたい。さて、僕たちの意見は言った。決めるのはヒーロだよ。さあ、答えてくれ。カルタロッサ王」


 そう、兄たちは王位継承権を放棄した。

 この国のトップは俺だ。

 俺がこの国の未来を選ぶ。


「戦おう。……返事には、尻尾を巻いて逃げるなら許してやるホ○野郎とでも書いてやれ」


 むろん、本当に逃げられては困るが。長く続く平和のためには、ここで叩いて置かねばならない。

 フェイアル公爵と話した感じ、こういう挑発がよく効きそうだからこそ、この言葉をチョイスした。


「その言葉を詩的に表現するとしよう。あまり汚い言葉はこの国の品位を貶める」


 この内容を詩的に表現できる気なんてしないが、アガタ兄さんならやってしまうのだろう。


「タクム兄さん、まずは第一手を仕掛ける」

「だな。まあ、うまくやってみせるさ。初陣は、俺とバルムートの二人だ。ったく、こんな奇襲、聞いたことがねえな。条約の穴をうまくついてやがる」


 グリニッジ王国がわざわざ宣戦布告をしてきたのにはわけがある。

 普通に考えれば、戦争を始める際、わざわざ仕掛けること告げずにいきなり攻めるほうが効果的。

 あえて、戦争を仕掛けることを告げるのは、我が国を始めとしたいくつかの国々が参加した同盟で定められた条約によるもの。


 宣戦布告が届いてから十日間は戦闘及び、軍を相手の領土に差し向けることが禁止されている。

 そのルールは、十日の間に戦争になる国へ派遣している民や役人を回収するための猶予期間を作るために設けられた。それは戦争に関係ない国が自国の民を危険にさらさないためのものでもあり、破ると厳罰がくだされる。


 まあ、この十日というのがいろいろと厄介で、手紙が届いた日を正確に管理などできず、あえてその十日という約束を破って不意を打つ。それから、しれっとした顔でちゃんと手紙は届いたはずだと言い切るなんてことも日常茶飯事。

 また、今回のように開戦の通告が十日以上の場合、十一日目に仕掛けても国際条約的にはなんの問題もなかったりする。あくまで条約が禁止しているのは宣戦布告が届いてから十日までの戦闘行為だからだ。


「腕がなるぜ。久々の実戦だ」


 将軍自らが前線で戦うなど馬鹿げているが、タクム兄さんの場合、最強故に絶対倒れないという強みがある。

 最前線で戦果を上げる以上に、最前線で指示ができるというのは圧倒的に強み。

 通信機がないため、前線との距離が離れれば離れるほど、命令の伝達速度は遅く不正確になってしまう。

 無敵の将軍なんてものがいるなら、最前線に居てくれたほうがいい。

 そんな強さを早速借りる。

 戦争は先手必勝。籠城戦を選ぶ、引いてると思っているこちらからの苛烈な一撃は、敵の出鼻をくじいてくれるだろう。



 

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