リア充を憎み、担当編集者を恨み、過去の自分も処刑する。
傑作『クレムリン』『バイトのコーメイくん』の裏でひっそり濃厚に書きも書いたり、呪詛と後悔に充ち満ちたエッセイ140本。
2011年11月から2013年3月までモーニング公式サイトに連載された伝説のWebエッセイが、ついに書籍化!(2014年1月15日頃発売)
当サイトでは掲載分より冒頭の5話を試し読み公開いたします!
#001 オープニングコラム(2014/01/10)
──2011年11月×日記す
このたびコラムの連載をさせてもらうことになった。
私の身のまわりで起こったことをリアルタイムで綴っていきたい。
と言いたいところだが、次回よりいきなり 2年前の話が始まったりするのである。これは昔のことばかり鮮明に覚えているという老化現象ではない。
というのもコラム連載の話自体はだいぶ前から立ち上がっており、自分もそれに合わせてコラムを数十本書きためていたのだが、様々な理由(公開直前に私が大麻で捕まったとでも思ってくれれば良い)により開始が延び延びになってしまっていた。
あまりに始まらないので、もう別のところからコラムの仕事が来たらそっちに行ってしまおうかしら、などとも思ったが、幸いにも依頼はまったく来なかった。
今回コラムの企画自体を立ち上げてくれた初代担当氏(パッと見怖い)と、それを公開までもっていってくれた新担当氏(見慣れると怖い)のおかげで開始にこぎ着けることができた。
このような経緯があるため、いきなりバンクーバーオリンピックの話が出てきたとしてもどうか気にせずに読んでいただきたい。
コラムの連載を始めるにあたり、初代担当氏と何について書くか話し合ったのだが、話し合えば合うほど、私には友達もいなければ趣味もなく、テレビや新聞をまったく見ないせいか話題のニュースも知らず、政治に関心がないのはもちろんのこと、抱かれたい芸能人の一人も思い浮かばないという、完全な生きる屍であることが判明するばかりであった。
担当氏もこいつは細く短すぎる、と思ったかもしれないが、そもそもそういう人間に面白いことを書かせようとすること自体が狂っている(連載中に逮捕される、という話題性を狙っていたのかもしれない)。
コラム連載の話をしたのがちょうど夏だったため、高校野球などテーマにしてはどうだろうか、などと言われもしたが、「老けた4歳児」と言われるほど落ち着きがないので、スポーツをじっと観戦するという知的行為ができないのだ。
唯一高校野球とかかわった思い出といえば、高校一年の時、母校の野球部の甲子園予選を強制的に応援に行かされたことぐらいだ。
もちろんその時、人の青春に感化されることなどなく、送迎バス内で村上春樹の『ノルウェイの森』を熟読する、という徹底的な迷走ぶりを見せつけていた。しかもその時かいま見た春樹ワールドに完全に当てられてしまい(初体験で妊娠するくらいタチが悪い)、のちに春樹的言い回しを真似た自作小説を書き始めるところまで行ってしまうのである。
私の青春は高一の夏時点で完全に終わっていたのだな、と今しみじみ思う。
ちなみに私の高校時代の絶頂は、三年の三学期に、ジャージをパクられたことであった。
公開中のエピソード
プロフィール
- カレー沢薫(かれーざわ・かおる)
- 長州出身の維新派。
モーニングの新人賞「MANGA OPEN」に応募した作品が落選ほぼ即モーニング・ツーで連載決定。本名→カレー沢薫、無題→『クレムリン』と改め、晴れて漫画家デビュー。
時間差攻撃によって連載開始の『負ける技術』で、コラムニストとの二足の草鞋を履く。
以来、多数の媒体で連載を抱え、モーニング系には『ひとりでしにたい』で久々の里帰り。
主な作品に『バイトのコーメイくん』、『やわらかい。課長 起田総司』などがある。東京都写真美術館広報誌別冊「ニァイズ」=『クレムリン』出張版(月刊)は長期継続中。
トップ画像に「死にたい」と大きく掲げられた公式ツイッターは、つぶやき約12万発、フォロワー約29000人を誇る。
・著者公式サイト「カレー沢薫のHP」
・カレー沢薫公式ブログ「猫痙攣」
・東京都写真美術館広報誌別冊「ニァイズ」
単行本情報 »
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もっと負ける技術 カレー沢薫の日常と退廃 (講談社文庫)
カレー沢薫
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定価:本体650円(税別) -
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負ける技術 (講談社文庫)
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発売日:2015/10/15
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