ミャンマーで無国籍の少数民族ロヒンギャが迫害され、七十万人以上が隣国に逃げ出して二年。有効策はなく帰還は進んでいない。ミャンマー政府はまず国籍を付与し、事態打開に動きだすべきだ。
二〇一七年八月下旬、ミャンマー西部のラカイン州で、軍により多数が殺害され、性暴力や住宅への放火も横行した。ロヒンギャは隣国バングラデシュへ避難。以後難民化してキャンプ生活を送る。
ミャンマー政府と東南アジア諸国連合(ASEAN)事務局は先月、バングラのキャンプへ出向き帰還を促したが、難民リーダーの一人は「一つの民族として権利を認められない限り戻らない」と答えた。「帰っても再び迫害を受けるだけ」との思いは強い。
大半が仏教徒のミャンマー国民は、イスラム教徒で異言語のロヒンギャに冷淡だ。政府は民族として認知せず「ラカイン地方に住むイスラム教徒」と表現する。軍政下の一九八二年に制定された国籍法は国籍すら与えていない。
ASEANは先日の外相会議で「目に見える形での支援強化」を共同声明に盛り込んだが「ロヒンギャ」という言葉を避けて「ラカイン州での人道的状況」と書き、ミャンマー政府に配慮した。中小国の経済共同体として、米中など大国の間を「まとまって泳ぐ」ことを宿命づけられているASEANは、各加盟国への内政不干渉が原則で、共同声明の煮え切らない表現につながっている。
ミャンマーでは来年、総選挙がある。前回二〇一五年は、民主化指導者アウン・サン・スー・チー氏の国民民主連盟(NLD)が大勝した。しかし、スー・チー氏支援の国内世論はロヒンギャを蔑視しており、総選挙に連勝したい同氏は、有効策を打たずにいる。
しかしロヒンギャの処遇はミャンマーの国内問題ではなくなりつつある。人道的見地に加え安全保障的な意味も帯びてきたからだ。報道などで「ロヒンギャ武装勢力の一部がテロ組織に参加か」と指摘されマレーシアとインドネシアからは両国のイスラム過激派との関連を危惧する声もある。
日本は、ロヒンギャのための住宅建設などインフラ整備を約束しているが、まずミャンマー政府が国籍を与えて「国民」として迎え、和解と帰還への手始めにすべきだ。国際社会はミャンマーに強く働き掛けてほしい。ASEANが動きにくければ、国連が。この非人道的な状況を放置しておいて良いわけがない。
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