まさしく勝敗を左右するリクエストだった。福田の劇的なグランドスラムの興奮で誰もが忘れているが、6回の大逆転は審判の判定一つで消えていた。1点差に詰め寄ってなお1死一、二塁。アルモンテの打球は三遊間に高く弾んだ。走るアルモンテ。大和には任せずカットする三塁・筒香。ランニングスローとの競争になった。長井塁審の両手は広がったが、すかさずラミレス監督は四角のポーズをつくった。
場内や記者席でリプレー映像が流されたが、どちら側のファンもどよめいていた。何ともいえないタイミングだったからだ。判定通りなら1死満塁。覆れば2死二、三塁。その差は大きい。検証終了後、再び両手が広がったのを見た瞬間、逆転への道も広がった気がした。
「とにかく全力で走ったんだ。ギリギリのプレーを審判もしっかり見てくれていた。際どいタイミングだったよね。当たりが当たりだったから、一塁に着くまでどちらかわからなかった」
アルモンテも足の感触とミットの捕球音を聞くのがほぼ同時だったようだ。目の前で見ていた工藤一塁ベースコーチは「僕はセーフだとは思いました。もし判定がアウトだったら、リクエストを(ベンチに)進言したと思います。でも、ほぼ同時でしたよね。あれがなかったら…。アルモンテは本当に必死に走ってくれる。みんなに見習ってほしいくらいですよ」と手放しで褒めたたえた。
満塁となり、DeNAは武藤から藤岡に代えた。結果論かもしれないが、その初球、ビシエドは遊飛に倒れたから、アルモンテの触塁があと数センチ遅ければ6回の得点は「6」どころか「1」で終わっていたことになる。本当に勝敗を分けた全力疾走だった。
「ありがとう。イチローみたいだっただろう?」。今季4本目の内野安打は、左打席だったからこそ。脚力で勝利に貢献したことに、彼はうれしそうに笑っていた。