三章 ユースティアが俺に屈服するまで 02

 ルーカスにとって「偽りでも以前のような兄妹関係に戻りたい」というのも「欲望のままにユティに復讐を遂行したい」という気持ちも「扱いに困ので、ユティには勝手にどこかに行って欲しい」という思いも、全てが偽らざる本心で、そう言う意味では、ルーカスはユティが何を選んでも良かった。


 ユティは「義兄さんの復讐を受けます」と、苦渋の表情で選択した。


 ルーカスは、己の中に渦巻く迷いを、葛藤を全て、無理矢理吹き飛ばした。ルーカスは努めて満足げな笑みを浮かべた。

 あたかも「君ならそうするだろうと思っていた」と言わんばかりに。


「なるほど。俺は、ユティのその自由意志を尊重しよう」


 ユティはここまで詰ませておいて、最悪の選択肢だけを並べておいて――自由意志とのたまうルーカスに強い怒りを覚えた。


「――じゃあ、手始めにその貴族服を脱いで貰おうか? ユティ」


「……っ。解り、ました」


 それこそ本当に、見逃して貰えば。或いはルーカスの妹になるのであったら、されなかった命令。ルーカスの復讐という道楽のままに弄ばれる、奉仕の道を選んだユースティアは、この命令が来るであろう事を予想していた。


 それでもいきなり。


 何より、解っていても、自分で選んだ道でも、誰よりも憎い男の前で裸になるのが『嫌だ』という感情は依然として変わらない。

 ユースティアは下唇をかみしめながら、コルセットの背中のひもを解いて、ドレスを脱いでいく。


 スルリと衣擦れの音がすると共に、ポフリと、今まで彼女の白い肌を護っていた洋服が床に落ちる。


 天空の場面に相応しい、水色のレースの下着。

 ユティは、いつ誰に見られるか解らない下着にも、しっかりと気を遣う女の子ではあったが、しかし、素の下着は少なくとも、ルーカスに見られるためのモノではなかった。


 ユースティアは顔がかぁっと、熱くなっていくのを感じる。


 悔しい。恥ずかしい。そんな思いが込み上げて、泣きそうになる。いや、涙が一滴零れたのかもしれない――それでも、ユースティアは着々とつっかえずに、下着を脱いでいく。

 抵抗の素振りも、恥じらいも見せたくない。


 その反応はただただルーカスを悦ばせるだけだと、ユースティアは解っていたから。


 ブラを下着を、朱に染まってしまった顔を隠すように下を俯きながら外していく。

 ユースティアは間もなくして生まれたままの姿を、ルーカスに曝け出した。


 ルーカスはそれまでの光景を黙って見ていた。冷静を装いつつも、恥じらいながら、葛藤しながら、それでも脱ぐ以外に選択肢のないユティが、肌を晒していく、その事実にルーカスは興奮を覚えた。


「じゃあ、そのまま壁に手をついて、背を向けて」


  天空に浮かぶ独楽型のお城に、ついさっき連れられて来たユースティアは全裸で平らで無機質なクローゼットの扉に手をついていた。


 殿方には誰にも見せた事のない処女の裸を、よりにもよって最も忌み嫌っている男に、尻の穴の中身まで、見られなければならない屈辱。憤死しそうな羞恥に、ユースティアは深く歯がみをしながら思う。


 どうして自分は、こんな目に遭っているのか、と―――。



                      ◇



 刑務所は入寮時に、必ずボディチェックが行われる。


 おしりの穴や、女だと膣の穴に武器や麻薬を隠し持っている可能性があるから――それが表向きの名目であり、裏向きの名目は、裸にひん剥いて、いい歳した大人の尻の穴にまで手を突っ込んでじっくり見てやる事で、受刑者の自尊心を叩き折るという側面もあるらしい。


 だからというわけでもないけど、ルーカスは、この機会が来たら、まず最初にボディチェックを行おうと決めていたのだ。


 別にユースティアが武器や麻薬を持ち込んでいるとは思わないし、そもそも持ち込んでいても、Sランク冒険者であるルーカス相手に何が出来るというのか。


 しかし、復讐の際に性行為が伴うのは間違いなく、回復魔法も扱えるルーカスからすれば、先に病気の有無を確認しておきたかったし、自尊心を折れるという知識もやりたいと決める裏付けになっていた。

 ルーカスはユースティアの尻を開き、女の穴に指を突っ込んで、病気がないか調べてから、同じくおしりの穴に指を突っ込んで調べる。


 ――ユースティアは極めて健康的。感染症は確認されずっと。


 しかし、ルーカスが彼女の病気の有無等を調べているとも知らず。あるはずもない武器の有無を調べられていると思っているユティからすれば、この行為は極めて無意味で、それ以上に恥辱の極みだった。

 あまりにも屈辱的で恥ずかしすぎる。


 ユティは、既に自分のした選択を後悔し始めていた。


 ――こんな辱めを受けるくらいなら、他の道を選ぶべきだったのではないだろうか。

   きっとどの道を選んでも同じ後悔をしていた事を理解しながらも、理性では納得できない感情が、羞恥が、ユースティアのプライドを傷つけていく。


 ニュルリとした、不快な感触を股ぐらに感じる。


 ぬるぬるとした液体が、ルーカスの手によって、脚の付け根に塗りたくられていく。

 羞恥の穴蔵に、ルーカスのぬるりとした液体を伴う手が侵入し、いやらしく、妙にテクニカルに、それでいて気色悪く蠢いていく。


 不愉快で、おぞましい女の悦び。女遊びで磨き上げられたルーカスの愛撫によって、ユースティアは、脚が震えるのを感じた。


 このままでは立っていられなくなる――そんな予感と共に、ブツリと、嫌な痛みがユティを貫通した。


 破瓜の傷み。本来なら愛するべき人に捧げるべき乙女の神聖を、よりにもよってこの男に奪われなければならない屈辱。

 子宮がキュンと疼く感触。


 否応なしに、ユティの甘い声がこの空中戦艦の中で響いてしまう。


 恥ずかしい。悔しい。でも、感じてしまう。


 臥薪嘗胆。この屈辱を恥辱をバネに、ユースティアはルーカスに復讐するのだ。

 いつか、ユティの人生を滅茶苦茶にして、のうのうと人生と世界を舐め腐ったような笑みを浮かべる、才能だけは一級品の、最低な兄貴をギャフンと言わせてやるのだ。


 ユティが処女を失ったその夜、ユースティアは改めて、復讐の誓いを立てたのだった。

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