三章 ユースティアが俺に屈服するまで 01
ルーカスがオーダーメイドして作って貰った【中型の『生活用』空中戦艦】――未だに名前が付けられている訳でもないそれは、膨大なルーカスの魔力の7割ほどが注がれて満タンになった惑う結晶が、浮力と推進力を魔法的な力で生み出し、何トンもある空中戦艦を宙に浮かし、最大速度『マッハ7』という非常識な速度を現実にしている。
世界中を飛び回り、各地の依頼を引き受けるルーカスの機動力を上げる事は、世界的な利益に繋がり、正にSランクの彼に相応しい『お家』を先日手に入れた。
お家の内装は、ベッドとクローゼットくらいしかそろっていなくて、後は丸形の部屋に沿った冷蔵庫とか諸々の家電。
別室にはシャワーとトイレが付いていたりする、8m半径の少し変わった構造の部屋。
天空に浮かぶ独楽型のお城に、ついさっき連れられて来たユースティアは全裸で平らで無機質なクローゼットの扉に手をついていた。
殿方には誰にも見せた事のない処女の裸を、よりにもよって最も忌み嫌っている男に、尻の穴の中身まで、見られなければならない屈辱。憤死しそうな羞恥に、ユースティアは深く歯がみをしながら思う。
どうして自分は、こんな目に遭っているのか、と―――。
◇
時は少し遡って、まだ、空中戦艦がルーベルグ家の上空にいた頃。
ルーカスは内心、ユースティアの扱いに困っていた。
両親に200エーンしか入っていない通帳を渡してぬか喜びさせた後に、連れてきたユースティアに『奉仕』と称して復讐をする――そんな妄想を幾度となく重ねた。
見た目も麗しく、あの一件までは唯一の理解者でいてくれたユティ。
彼女に「未遂じゃなくて、実際に|強姦(犯)されるのってどんな気持ち? ねえ、どんな気持ちなの?」とどや顔で囁いてやる妄想を幾度となくした。
なのに、そんな気力が起こらない。
3年会っていなくて、ユティはスゴく綺麗になったのに――どうにも、6年間義兄妹として過ごした日々が頭に過ぎる。
確かにルーカスはユティを恨んでいる。復讐したいとも考えている。
それでも、自分の殻に閉じこもっていたルーカスにとって、唐突に裏切られる前までは、ユティの事を誰よりも信頼していた――その事実は変わらないのだ。
ルーカスは、自分はユースティアとどうしたいのか。彼女とどうありたいのか。それが全く解らずにいた。
全てを許して、以前のような兄妹に戻りたいのか。
恨みのままに彼女を犯し、拷問し、復讐を遂げたいのか。
それとも、性欲のままに美しい彼女を犯したいのか。
さっきから、ルーカスに射殺さんばかりの殺気を向けていたユティに訊ねる。
「ユースティアはこれからどうしていきたい? ――あの家に帰るのか、それともこの空中戦艦で俺と以前のような兄妹関係に戻るのか。それとも、俺の思うがままに復讐されるのか」
ルーカスは気怠げに三本の指を立てながら、続ける。
「俺としてはどれでも良いし、何ならこのままユティを街に捨て置くのも良いと思っている。ルーベルグ家もユティも『詰み』だ。
俺には敗者を執拗にいたぶる趣味はないし、今後どうしたいのかはユティの自由意志に任せるよ」
ユースティアは、そんなおざなりなルーカスの対応にはらわたが煮えくり返るような怒りを覚えていた。
ここまで私の人生を滅茶苦茶にして、それこそ、彼の言う通り詰ませておきながら、最後は、最低最悪のルートを自由意志によって選ばせる?
――馬鹿にするのも大概にして!!!!
心の中でそう叫びながらも、ユティは足りない頭で考えていた。
今、ユティは何を選ぶのが正解なのか。ルーカスの提示した選択肢を飲むのか、それとも新しい条件を交渉するのか。
交渉するとすれば、どうやって言いくるめる? 選択肢を取るなら、何が一番の正解?
ユティは考え、考え続ける。
ルーカスの出した選択肢はこの上なく冷たくて、しかし、復讐相手に出すモノと考えれば極めて良心的で筋の通った選択肢。
家に帰るのも、街に下ろして貰うのも、ルーカスに全てを許されて、一生敗者のレッテルを背負いながら彼の妹として生き続ける事も、全てが自由。
無駄に筋が通っていて、突き放した冷たい選択肢。
しかし、それが故にこれ以上の交渉の余地がない事を、ユースティアは悟らされた。
ユースティアは、自分が今何をしたいのかを考える。
親に捨てられ、猫の皮を剥がされて、ルーカスへの怒りに臓腑がふつふつと煮えくり返る思いを抱えた――今後一生、きっとその思いをかけ続けるであろうユティは、考える。
――私は、ルーカスが憎い。
憎いが故に、彼の妹として一生敗北者で居続ける事が耐えられない。憎いが故に、彼に見逃して貰っておめおめと逃げ帰る事が出来ない。
それに、先のないあの家に帰るのも、身一つで知らない街に捨てられるのもユティは御免だった。
ユティは思う。
ルーカスの復讐を受け、彼に奉仕し続けるのは耐え難い屈辱を伴うだろう。もしかしたら途中で心が折れてしまうかも知れない。
途中で身体が屈服してしまうかも知れない。
そんな不安と恐怖がある。
それでも、ユースティアはルーカスを憎むが故に、彼の復讐を受け入れるという選択肢を取った。
ユースティアが、三年前に売った悲惨で残酷な兄妹喧嘩にユースティアは負けた。
逃げる事も、許される事もユティの小さなプライドは許さない。正々堂々、潔くこの黒星と屈辱を受け入れて、いつか必ずルーカスの寝首をかく。
利益や打算じゃない。
心が乱れ、皮を剥がされ、負けん気が強い十五歳の女の子ユースティアの選んだ純粋な答えに、ルーカスは満足そうに頷いて、彼女を存分に辱め、屈服させる覚悟を決める。
世界で最も悲惨で残酷で――それでいて官能的な兄妹喧嘩の第二ラウンドが今、始まる――。
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