目次
フランジブル弾とは?
フランジブル弾
「フランジブル」とは?
フランジブル弾とはどんな弾でなぜこの名前がついているのでしょう? frangibleとは、砕けやすい・壊れやすいという意味の英単語です。その名の通り、この銃弾はターゲットに接触または、その内側に侵入していく時に粉々に砕け、ターゲットを突き抜ける跳ね返えるなどの現象を起こさない特徴があります。あえて貫通力を落とすために先端に柔らかい鉛を露出させたり、くぼみをつけたりと行った工夫がされた「ホローポイント」などの弾を思い浮かべる人もいるでしょう。フランジブル弾とそれらにはどんな違いがあり、どのような歴史をもち、どのように製造されているのでしょうか?
フランジブル弾の製造法
銃弾はどんな構造になっている?
現代で最も普及している銃弾は、実際に飛んでゆく「弾頭」、燃焼したときのガスでそれを飛ばす「火薬」、それを発火させる「雷管」その3つを包んで一つのパッケージとした「薬莢」の4つのパーツから成り立っています。弾頭はさらに、スチールや鉛・タングステンといった重い金属の塊で銃弾の中心となるコア、それを包む銅製のジャケットの2パーツから成り立っています。
普通の弾頭の作り方
普通の銃弾は、中心の「コア」を銅製のジャケットで包んで作られます。完成した弾頭は重さやサイズなどで選別され、薬莢、雷管など、そのほかのパーツと合体させて一発の銃弾として作られています。
金属粉末を焼き固めて作られる
一方のフランジブル弾は中心のコアや表面のジャケットがなく、銅や錫、亜鉛などの粉末を型に押し込めて焼き固めて作られています。その後、弾頭とそのほかのパーツを合体させて完成です。
フランジブル弾の利点は?
威力・貫通力が低く跳弾しない
この銃弾にはターゲットに当たると弾が粉々に砕けてエネルギーを失うため、意図しない方向に跳ね返らないという特徴があります。このため、安全に射撃練習ができる、屋内戦闘で貫き抜けたりや跳ねかえったりした弾が原因の負傷を防げる、標的以外の第三者への被害を防げる、といった利点があります。
フランジブル弾の欠点は?
粉末を固めているため弾頭が脆い・精度が低い
一方の欠点ですが、粉末を焼き固め製造するため、金属の塊から作られる普通の弾などと比べて強度が低く、完成品一つ一つに重量やサイズの差ができやすい点です。また、銃身やライフリングによくない影響があること、銃弾を作る時にできたヒビが原因で発射した時に薬室の中で割れてしまう、弾つまりの原因になる、といったマイナスポイントがあります。
貫通力・威力が低い
銃弾が標的を突き抜けないという特徴は訓練では役に立ちますが、実戦で使うには問題でもあります。壁を貫き抜けたあとは威力が低くなってしまう他、防弾ベストやヘルメットのような防弾装備を使っている標的には威力を発揮できません。
遠距離での命中率が低い
銃弾一つ一つの微妙なサイズ差や重量差が大きいことから弾頭が回転するときのブレが大きい、弾頭が脆いためライフリングへ食いこみが少なく遠距離では狙った場所に飛ばないといった問題があります。可能な限り個体差のない銃弾を使い精密射撃を行うスナイピングや遠距離への射撃には向かない弾丸です。
フランジブル弾はなぜ開発された?
遊園地での射撃用に金属粉末弾頭を開発
While you might use frangible ammo for serious training, the innovation actually came from amusement park shooting galleries. Shooting galleries had problems with ricochet injuries, so a few ammo companies developed a .22 short round that was made from a compressed powder. These compressed-powder bullets became the frangible ammo that is used today.
遊園地の射撃場ではターゲットに命中した後、跳ね返った弾による怪我が問題になっていたようです。そして、銃弾を作っている会社が金属の粉を押しかためて作った22ショート弾を開発しました。これが発展して、現在まで使われるようになったそうです。
金属粉末の弾頭は近距離の射撃練習や屋内戦用に開発
遊園地の射撃用として作られ始め、ターゲットを突き抜けず、跳ね返らないという特徴を生かし特にキルハウスなどの近距離・屋内射撃場や、金属製のターゲットを使った射撃の練習に使う訓練弾として、また、対テロ戦争や室内掃討で味方やターゲット以外の第三者以外に命中しない弾という使い道があります。
ドアを破壊するために使う
特殊部隊がドアの蝶番や鍵を破壊するためのショットガン用の銃弾「ブリーチング弾」は、貫通力が低いという特徴を生かした使い方です。
標的との距離は当然近く、ドアを破壊できる威力を持ちながら、室内の物や人にダメージを与えない特徴を生かした使い方と言えます。
フランジブル弾は実戦で使えるの?
フランジブル弾向きの状況
ここまでを見ると、練習用・ドア破壊などの突入用装備として開発・発展してきたようですが、実際の撃ち合い、任務では使えるのでしょうか? まずは、実際に使われている例を見てみましょう。
近距離戦闘で使える
近距離や室内の撃ち合いでは、銃弾の貫通力が高すぎるため、壁や人体を貫き抜けた破片による負傷、が問題となることがあります。また、命中しなかった弾が跳ね返る「跳弾」による負傷も問題です。アメリカ軍はイラクやアフガニスタンの経験から、改良したものの使用を検討したそうです。
ホームディフェンスで使える
壁を貫通せず、跳ね返りも少ない弾は壁を貫き抜けて隣人の家やモノに命中する恐れが少なく、強盗対策のホームディフェンス・セルフディフェンスにぴったりで、敵との距離も近いため、命中率の悪さも気になりません。
ハイジャック対策で使える
テロリストやハイジャック対策として航空機に乗り込む武装警官「スカイマーシャル」は機内で発砲したときに貫通力が低く航空機に穴を開けない特殊な銃弾を使っているとされています。
フランジブル弾は現代の戦争で使えない?
現代の戦闘では交戦距離が長く、また、テロリストや犯罪者も防弾ベストなどの装備を使っている場合が多いです。特に防弾装備が発達し、ライフル弾を止められるベストやヘルメットが開発されて使われる現在、遠距離での命中精度、貫通力の低いフランジブル弾は実戦に向かないという意見もあります。
軍用弾薬に向かない
現代の最新防弾チョッキは破片だけでなくライフル弾や貫通力の高い弾でも防御できるように進化しています。一方、弾丸も改良が進んでおり、防弾チョッキを突き抜けつつ、体内で弾頭が変形や回転してエネルギーを失い、ダメージを与えるような改良をされてるため、命中率や信頼性、価格などに問題のあるフランジブル弾は実戦に向かない、という意見です。
銃弾も改良されている
ホローポイント弾やフルメタルジャケットなどの弾丸も改良が進んでおり、防弾チョッキを貫通する貫通力と人体に命中した後、弾頭が変形や回転してエネルギーを失い、ダメージを与えて貫通しないように銃弾も改良されています。命中率や信頼性、価格などに問題のあるフランジブル弾は実戦に向かない、という意見です。
結論は?
上の動画では「ホームディフェンス」用の弾が車のドアや窓ガラスを貫通し、ターゲットにダメージを与えています。近距離戦では薄い壁を突き抜けた後でも十分な威力を発揮できる、こういった弾は比較的交戦距離が近く、第三者を巻き込んではいけないホームディフェンス、セルフディフェンス用途、また近距離での射撃練習用弾として使うのが良いでしょう。しかし、銃弾の改良が進んでいる現在、様々な状況での戦闘を考えなければならない軍用弾薬にわざわざ不発やサイズ差が大きい、高価格といった欠点のある特殊な弾薬を使う必要がない、というのも事実でしょう。
フランジブル弾の威力は?
スローモーション映像で見てみよう
フランジブル弾を使ってスチールターゲットや弾道ゼラチンを射撃する動画です。弾頭が鉄板に命中して粉々に砕ける様子やゼラチンに命中した弾が粉々に砕ける様子がはっきりとわかります。ここからはフランジブル弾薬と軍用・警察用・ハンティングで使われる様々な弾薬を比べて見ましょう。
フランジブル弾 vs フルメタルジャケット弾
フルメタルジャケット弾ってどんな弾?
フルメタルジャケット弾(FMJ弾)は中心を銅で完全にカバーした構造をしています。軍用として広く使われており、映画の題名にもなるなど非常に有名です。変形しにくくソフトアーマーでは防御できないなど高い威力を持ちます。その欠点を補うためAK-74の5.45mm弾など、命中した時にタンブリングという現象を起こすように様々な改良がされています。
フランジブル弾とフルメタルジャケット弾の比較
サイズ差や遠距離での命中精度と価格などFMJ弾の方が優れたスペックを持っています。航空機内など破壊したくないものがある、跳弾による怪我を減らしたいなどの特殊な理由がない限り、様々な距離で使える軍用弾薬としてはFMJ弾に分がありそうです。
フランジブル弾 vs ホローポイント弾
ホローポイント弾ってどんな弾?
ホローポイント(HP)弾は、柔らかい鉛のコアがむき出しになっており、マッシュルーミングという現象を起こしてエネルギーを失うため、体内で停止して、高い威力を持つことで有名な銃弾です。ハンティングや警察などで広く使われています。
フランジブル弾とホローポイント弾の比較
この二つはどちらも「貫通しにくい」という共通点をもつ一方、変形するか、粉々に砕けるか、が大きな違いです。「威力」は弾自体の重さや初速など様々な要因で変化するため一概には言えませんが、価格や遠距離での精度ではHP弾に分がありそうです。
フランジブル弾バリエーション
粉末を焼き固めて作られ貫通力が低いフランジブル弾はセルフディフェンスやホームディフェンスといった近距離での銃撃戦では第三者を巻き込みまない弾として威力を発揮します。ここからは様々な改良が加えられた、砕けてバラバラになる弾丸を見ていきましょう。
グレーザーセーフティースラッグ
グレーザーセーフティースラッグ(Glaser Safty Slug)は拳銃から発射される弾です。弾頭はプラスチック、小さな散弾を金属ジャケットで包んだ構造をしています。当然貫通力は低く、命中すると砕けて散弾をばらまく、という仕組みです。航空機内でのハイジャック対策で貫通力の低い銃弾が求められて開発された、とのことです。
裂ける弾薬
Rip Bulletは、ホームディフェンス用に開発されました。トゲトゲしたインパクトのある外見をしていますが、その通り、切れ目に沿って「裂け」て破片になることで威力を発揮します。
まとめ
金属粉末を焼き固める、という独特の製法で作られたフランジブル弾はその他の弾頭と比べると価格や使いやすさなどで劣っているようにも感じられますが、近距離での射撃訓練用、ドアを破壊するブリーチング弾薬、ハイジャック対策やホームディフェンス用など特殊な場面で使うために進化したと言えるでしょう。ホームディフェンス用に様々なギミックや構造を持つ弾頭も見ていて面白いです。日本ではあまり語られることのない銃弾ごとの違いですが、もし実銃を射撃する機会がありましたら、自分が撃っている銃弾について調べてみるのも面白いと思います。
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射撃の世界では、銃と同じくらい弾丸、弾薬についても様々な議論が交わされています。ライフル弾やショットガンといった銃の種類や9mm弾か45ACP弾のような口径ごとによる威力の違い、防弾装備の進化に対応した弾頭の進化や特殊な弾薬など銃の世界と同じくらいに奥深いのが銃弾の世界です。そんな銃弾に興味を持った人はぜひ、こちらもチェックして見てください。