一章 ルーカスが冒険者として成功するまで 08
オークの上位個体を討伐し、その魂の欠片を吸収する事によって基礎的な身体能力と魔力量、ついでに剣の腕や魔法の扱いが少しグレードアップしたルーカスは、新しく手に入れた魔法を無効化できる頑丈で変幻自在の盾によって、比類なき力を得ていた。
ルーカスのメインとしているターゲットはオーク。
ソロの、魔法剣士型故に上位個体との戦いでは守りの薄さという弱点が完全にカバーされ、15匹という異常なほどに多いオークの群れも、闇魔法が最大五匹相手にまでしか通用しないという新たに発見した仕様に戸惑ったが、盾で防ぐ事により袋だたきにされる事なく快勝。
そのまま森に異常発生していたオークの謎を突き止めないままに、ルーカスは森のオークを狩り続け、その果てにオークの集落を見つける。
2日ほど駆けてオークの集落にいる戦闘力になりそうなオークの数を減らしてから、オークキングに挑んだ。
圧倒的な巨躯の化け物。
その唸り声は大地を揺るがすほどに力強く、その鼓舞はまだ成熟していないオークに以前苦戦させられた上位個体並みの身体性能を与える。
しかも、オークキングの堅さは剣が通らない鋼の堅さを誇る毛皮だけではなく、闇魔法も通りが悪く、ここ最近オークを狩り続けて一気に強化された闇魔法が一発で入らなかった。
その隙に50を超えるオークの大群がルーカスに襲いかかる。
火魔法で怯ませて、その隙に出来るだけ多くのオークを闇魔法で鎮める。
しかし、数の暴力とオークキングの援護によって、ルーカスに無理矢理突っ込んでくるオークが何匹もいた――或いは、数日前のルーカスならこのオークの濁流によって押し切られ殺されていたかもしれない。
しかしルーカスは変幻自在の盾を逆三角形にして地面に突き刺し、オークの捨て身のタックルを無理矢理防ぐ。
そこから喰らわせるルーカスの呪殺コンボは正に要塞。
攻撃が盾で防がれるが故に許されず、近づけば殺させる。離れても炎魔法の餌食になるのである程度責め続けなければならず、実際投石で援護するオークの子供は容赦なく序盤で焼き殺されていた。
ルーカスはそうやって雑魚をいなしながら、隙を見てオークキングに『衰弱』の魔法だけを根気よくかけ続けていく。
一度、二度と当たる度に魔法抵抗力が衰弱し、他の魔法が容易く通るようになるからだ。
しかし、オークキングの5mを超える巨体から繰り出される超重量級の攻撃は重く、さらに得物が大きいが故に躱しきる事も難しい。
どうにか盾でガードをするが踏ん張りが効かず、何度も飛ばされた。
それでも、このオークキング戦に回復魔法の出番はなかった。
飛ばされる度に黒い靄を展開してクッションとし、ひたすらオークキングの射程圏内に入っては魔法をかける。
別に、魔法が効きづらいと言うだけで、盾のオークとは違い完全に無効に出来るわけでもないオークキングは、ルーカスの根気の良い試行により、必然的に魔法抵抗力がめっきりと弱らせられた。
そこからはいつもの呪殺コンボ。
ここまで魔法抵抗を下げても、炎魔法は堅く厚い皮によって防がれてしまうから恐ろしいと、ルーカスは『弛緩』によって自重で倒れていくオークを見つめていた。
そのまま『呪殺』する。
ここまで森に不穏な空気をもたらし、ギルドが密かに冒険者ギルド本部にまで調査依頼を出していたこの静かなる大災害を、ルーカスは冒険者ギルドに登録してから僅か一週間足らずで、滅ぼしてしまった。
ギルドに戻った時、百年に一度現れるか否かの――時に王国すらも滅ぼしたと伝承の残るオークキングをたった一人で狩り殺してしまったルーカスにギルド中で激震が走ったがそれはまた別の話。
ルーカスは強敵を一掃できた充足感に浸りながら
――案外俺は、冒険者こそが天職だったのかもしれない。と、考える。
天職ってもんじゃない。高々登録一週間であのオークキングまで倒すって最早化け物!!!――と突っ込む人がいないので、今回の話はここまでだ。
◇
ルーカスが冒険者ギルドに登録してから、早くも2ヶ月近くが経とうとしていた。
ランクは一流冒険者の仲間入りとまで言われるBランクで、数日後には最高ランクであるAランク昇格への試験を控えていた。
最速の成り上がり。
この二ヶ月ほどのルーカスは軽めのダンジョンを三つほど制覇したり、オークの森の奥深くに侵入して、トロールやサイクロプスなどの巨人を倒したり、果てまたドラゴンの亜種である、10mを超えるほどの巨大な羽根付きトカゲ――ワイバーンを倒したりと、自重を知らずにやり放題だった。
貯金は見る見ると貯まっていく。
装備だって、魔力を底上げする指輪や、致命傷を一度だけ防いでくれる身代わりの腕輪などの強化アクセサリーをちゃらちゃら付けたり、闇魔法の異空間には咄嗟に出せる、マジックアイテムなどの飛び道具をいくつか用意していたりと、この二ヶ月でちょっとしたブルジョアになっていた。
殊月収に関して言えば、大した収入源もない法衣貴族である子爵家の実家を追い抜いている。
しかし、そんな快進撃を続ける若き鬼才ルーカスですら人並みの情緒はあるようで、未だにメニアさんの元でお世話になっていたりする。
ほんの数週間で街で一番の冒険者に成り上がり、世界のトップ冒険者の仲間入りを果たすルーカスの一番の楽しみが、冒険の後に家に帰って、メニアさんの笑顔を見る食事なんだから、恋する男子ここに極まれりだ。
笑えてくる。
ルーカスは心の底から浮かれていた。
それもそのはず――彼は、Aランク冒険者に正式に任命されたら、その時にメニアに告白すると、そう決めていたから。
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます