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雑談会


「お、来たな!じゃあ、こっちに来てくれ」

アカリは、現場に到着した業魂と宵闇の者を誘導すると、ある一室の前に誘導した。

おそらく、会議部屋を開けたのだろう。大きな長方形のテーブルに、人数分のコップと皿が並んでいた。簡素なパイプ椅子が並ぶその奥に、お菓子やらおつまみやらジュースやアルコール類が入ったダンボールが山積みされていた。

「宵闇の者だけこっちに入ってくれ。業魂はその隣の部屋だぞ」

業魂の入る部屋にも同じような配置がなされており、一同はアカリの指示に従ってそれぞれ部屋に入った。……途端、アカリがドアを閉め、がちゃりと鍵をかけた。

ノイズを響かせながら、二つの部屋に放送が入る。芹沢千雨だ。

『皆、よく来てくれたわね。今回、業魂と宵闇の者の関係を示すデータを取ろうと思ってるの。雑談、暴露話、苦労話……まぁ、関係性のわかる話ならなんだっていいわ。なるべく素の話が聞きたいから、本音で話し合えるように宵闇の者と業魂に分けてあげたわ。話しやすいでしょ?』

「あ、それから、奥に入ってる飲食物は勝手に飲んだり食べたりしてくれて構わないぞ」

『それじゃ、皆。赤裸々話を待ってるから、よろしくね!』



●宵闇の者サイド
「えーと……雑談会、ですか……。業魂と宵闇の者のデータ取りと聞いていたので、てっきり模擬戦闘でもするのかと……」
閉められた扉。お膳立てされた部屋を見回して、【a2761hp】リネンス=ネロファルは拍子抜けしながらも言った。【a2275hp】小野 駿が、念の為に扉のノブを捻った。がちゃがちゃ!いくら捻っても、ギミックが鍵に阻まれてしまう。
「どうやら、逃がす気はないみたいですね」
何がなんでも、業魂達の話をしてほしいらしい。皆も突然の事態に暫し考えていたが、話を理解すると切り替えは早かった。【a5466hp】今中 藍莉が、止まった時間に再び息を吹き込むべく、ぱん!ぱん!と二回手を叩く。
「ま、ええやないの。ラルヴァと戦え言われるよりずっと楽やわ。皆、何食べるん?」
テーブルと、パイプ椅子。他に目立った物がないのを確認すると、真っ先に飲み物やお菓子が入ったダンボールを開けた。
「お手伝いします」
【a3187hp】飯酒盃 華楠が箱を覗く。
「スナック系から、ガムに飴、おつまみまで何でもありますね。お飲み物も、お茶、オレンジなどの果物ジュースからカルピスにサイダー、……二十歳をお越えになられた方にはお酒もあるようです」
とは言え、始まったばかりでアルコールを希望する者は誰もいなかった。飲み物やお菓子が場に揃うと、さて、何を話そうかとお互い視線を送り合う。中には軽く話を聞いて来た者もいるが、あまりに突然。しかも、プライベートな話をしろというのだから、戸惑うのも無理はない。【a2093hp】天宮 日月は、いつも持ち歩いている専用の道具を取り出した。タロットカードとホロスコープ。隣に座っていた藍莉が覗き込む。占いの道具らしいということはぱっと見でわかるが。
「占い、できるん?」
「ええ、これが結構当たるんですよ」
にこにこと笑みを崩さぬまま、慣れた手つきでカードを切る。占いと一口に言っても、占う対象でそのやり方は様々だ。恋愛、金運、健康運、総合運、果ては人の過去や未来まで。しかし、この場に集まっている以上、テーマはやはりこれだろう。
「宵闇の者と業魂の相性占いなんてどうですか?」
●業魂サイド
【a5866gp】ドレイク=シルバーは、ダンボールへ向かうと、手際よくお菓子や飲み物を並べていった。お菓子はバラにできる物を一人いくつかずつ。できない物は、皆の手の届く場所にいくつかずつ置いていく。飲み物は、バラにできないお菓子と同じように、それぞれが好きな物を取れるようにした。誰かが何か言う前にあっという間に揃えられたそれ。すとん。役目は終わりだとばかりに、自分のジュースを確保し席に落ち着いたドレイクに、一同も次々と席に座っていった。さて、どうしよう。と、一同が目を合わせる前に、【a3810gp】坂嶋 旋風は既にお菓子に手をつけていた。手元にあるクッキーの袋を開ける。一口にして、テーブルの真ん中にあるポテチに手を伸ばした。【a2988gp】羽生 輪廻も、無表情に皆を見渡した後、分けられたお菓子に手をつける。煎餅がぽりっぽりっと音を立てた。【a3427gp】柚木 漆葉はどうしようか周囲を見ていたが、そもそも喋ることがあまり得意でないので、率先して話そうとはしない。皆がジュースを飲み、お菓子を食べ始めたのを見て、自らもお菓子に手を伸ばした。ぱりぽり、ばりばり、むしゃむしゃ。どうにも無口率が高い。【a5606gp】黒野 華菜は思った。あれ、依頼内容ってなんだっけ?しかし、十分も経つと、さすがに耐え切れない。ばんっ!テーブルを叩いて、華菜は立ち上がった。視線が集中する。どれもこれも、全く悪意のないきょとんとした視線。天然の群から一人あぶれているようで言いようもない悔しさを感じるが、しかし、屈した先に進展はない。まるで勝ち目のない強敵を相手にする緊張感を強いられながら、華菜は無言の四面楚歌を抉じ開けようと声を出したのだった。
「1番!黒野 華菜!話します!」
●宵闇の者サイド
「当たっとる。どうしようもなく当たっとるわ……」
藍莉は業魂の性格をずばりと言い当てられて頭を抱えた。ドレイクに出たカードはTemperanceの正位置と、Hierophantの逆位置。それに、ホロスコープを併用する。調和と日常を愛するが、その分、本当に必要とすること以外はやらないマイペース。
「いい加減プー太郎やめて働いてや!って、私が何回言うても全然聞かへんもん」
「それって、所謂、ニートですよね」
「ニート……。ウチ、寄生されとんのやろか」
そもそもお互いを補い合っている宵闇の者と業魂に寄生も何もないが、ニートと言われると、ついついそんな想像が飛び出る。相性は△だ。あまりの落ち込みように占いの真価を見た一同が、ごくりと息を飲む。できるなら結果を知りたい。が、当たりすぎても恐ろしい。しかし。
「次は私をお願いできますか?」
リネンスが名乗り出た。二つ返事で了承して、日月はカードを切る。出たカードはFoolの正位置と、Hermitの逆位置。
「純粋な方ですね。それだけに、周囲に馴染めず閉鎖的になりがち。相性は○」
「そうですか」
リネンスは、相性を聞いてほっと息をついた。
「そうなんです。すごく人見知りをする子でして。私や、……昔、ある事情で孤児院にいたのですが、そこの友人以外とは話せないようでしてね。おかげで、中学も不登校状態でして」
「なら、丁度ええやん。向こうも業魂だけで集まっとんのやし、友達できるええ機会やろ」
「それはそれで問題なんですがねぇ」
何せ、輪廻にとって友達とは死体のことである。一瞬、輪廻が友達欲しさに業魂達に襲い掛かる可能性を思い至ったが、……まぁ大丈夫だろう。向こうは業魂が他に四人もいるんだし。
「次は僕をお願いします!できれば、今日連れて来た方の業魂じゃなくて、もう一人との……ごにょごにょ……いいえ、何でもありません!お願いします!」
本当に聞きたいことはあったが、さすがにこの場で言うのは恥ずかしかったのだろう。駿は目を逸らして、改めて華菜のことを伝えた。日月はカードを切る。結果は、 Empressの正位置と、Devilの正位置。あまりにも出てくるべくして出てきた悪魔のカードに、ぶふっ!っと駿が吹いた。
「家庭的で優しい一面がありますね。その反面、気に入った者への悪戯も激しい性格みたいだ」
「そうなんですよ!見た目は可愛いんですけど、とにかく腹黒いんです!」
「でも、相性はいいみたいだよ。二重丸」
「……まぁ、もう一人の業魂には良く『お前らは本当に似たもの同士だな』と言われますが、……ちょっと同意しかねます!」
もしこの結果を華菜が聞いていたら、同じことを言ったに違いない。ここにはいない業魂の姿を髣髴とさせて、一同は微笑んだ。
「じゃあ、次は……」
「私ですね」
華楠が、静かに言う。今まで人の話に相槌を打ったり、小さく笑んでいたりしたが、……急に、覚悟を決めた表情へと変化した。今までの冗談交じりの雰囲気ではない。察して、一同も口を閉じた。何か、本来なら触れられたくない傷でもあるのかもしれない。日月が念を押す。
「占っても大丈夫ですか?当たりますよ?」
「ええ。だからこそ尚更、結果を聞いてみたいと思うんです」
「……わかりました」
頷いて、日月はカードを切った。結果は、Strengthの正位置と、Temperance逆位置。
「面倒くさがりですね。興味を持ったこと意外にはなかなか動かない。ですが、優しい方のようです」
もう数枚、カードを捲る。Hanged Manの逆位置と、Deathの逆位置。
「どんなに耐えても報われない、状況の妨げ、新しい出発ができない、停滞する」
さらに、もう一枚。Wheel of Fortuneの正位置。日月は、ほっと息をついた。
「チャンスが来ます」
「チャンス、ですか?」
「いつかはわかりません。きっと近いうち、何かの変化が起こるでしょう。それが何かは僕にはわかりませんが、……大丈夫。悪い変化ではありません」
「……そうですか」
華楠は、俯くと複雑だと言わんばかりの表情をした。嬉しいような、悲しいような。しかし、ふと一同の視線に気付いて苦笑した。
「あ、すいません。何だか重い空気にしてしまったようで」
「それは全然構わへんのやけど、つまり、どういうことやの?」
「それ、聞いちゃいますか」
「だって、そういう集まりやん」
駿の白い目に、藍莉が平然と言い返す。リネンスは、どちらに付こうか迷っているようだった。仕事だから言わせた方がいいに決まっている。しかし、傷を抉ることを無理やり言わせるのもどうなのか。華楠は再度、苦笑した。最初から、包み隠さず言うつもりであったから。
「こんな言い方をするとちょっとおかしいですけど、私、生前は外国に住んでいたんです。帰国する際に事故にあって死んでしまったんですけど、……その便には、大切な人も一緒に乗っていまして」
悲しそうに、寂しそうに言う。様子から、一同は悟った。多分、その大切な人は助からなかったのだろうと。
「宵闇の者になったのはその時でした。……恨みましたね。どうして私だけ生き返ってしまったのかと。どうせなら一緒に死んでしまいたかった。でも、どんなに泣いても喚いても大切な人は帰って来ないから、気が狂いそうになって……いえ、狂っていたと思います。手を上げたことも一度や二度ではありません」
「でも、後悔していらっしゃいますよね?」
淀みなく言う日月の手には、Starの逆位置。
「こうして話を聞くと、カードの内容が更に興味深く思えますね。……これは皆さんにも当て嵌まることですが、はっきり言います。僕の占いは当たります」
にこにこと、崩れない笑みを浮かべて日月は言い切った。
「ですが、カードの結果だけが全てではないこともご理解ください。相性が悪いより良い方がいいに決まってる。でも、だからといって、相性が悪い相手と良い関係が築けないというわけではありません」
「そやね。世の中、好きか嫌いで成り立ってるわけやないもんね」
藍莉は大きく頷いた。働いていると、様々な人間と出会う。しかし、嫌いというだけで一々毛虫を扱うような態度を取っていたら、とてもじゃないが生きていけない。そもそも、相性だけで考えたら、働かないドレイクはとっくに家を追い出されていてもおかしくない。そうしないのは、相性以外にも絆があるからだ。
「……飲みましょう!」
至極真面目な顔をして、駿が言った。
「僕の妄想の経験上、そういう事を考え出すと、いつまでもぐるぐると同じことが巡ってなかなか抜け出せないんです!そういう時は飲むのが一番!」
「君、未成年じゃないですか?……どうなんです?ここでの未成年の飲酒は」
リネンスはどこかで聞いているだろうアカリへと呼びかけた。放送が即答する。
『ダメ』
「だそうです。ですが、言ってることは正論ですので、我々二十歳を越えた青年組はいただきましょうか」
「た、大河さん!せっかくですからちょっとだけでも!」
駿は追い縋るが、放送は短く『ダメ』と返すだけだった。まるでコントのようなやり取りに、華楠はくすりと笑う。
「私、取って来ますね。丁度、前の物も切れかけているようですし。皆さん、お飲み物は何にしますか?」
「ウチも手伝うで」
藍莉と華楠が席を立つ。用意された大量のアルコールとおつまみ。宴会に向け、何の不足もなかった。
●業魂サイド
「とにかく、へにょっとした人なんですよ!」
ぱりぽり、ばりばり、むしゃむしゃ。華菜の声の他には咀嚼音しか響かない室内。手振り身振りを加えて、日頃の不満をぶちまけた。
「あの女男、いつも何考えているかわからないニヤケヅラで気味が悪いです。女々しい癖に苦手な物や弱点がなくて掴みどころがないので、いまいち話づらいですし……」
「弱点か……。質の悪いラルヴァのような奴だな……」
「そうなんですよ!」
一瞬だけ、食べ物から目を離して呟いた旋風に、華菜は大きく同調した。ツッコミ役がいないので、場は華菜の洗脳会場と化している。そして、一同に植え付けられた知識とは、これまたとてつもない物であった。ひ弱な見た目、しかしてその実態は、変態であり人をからかうことに全身全霊を尽くす悪魔のような男。それが華菜のパートナーであると。
「業魂とは辛い生き物だな。宵闇の者がどんな人間でも共に在らねばならん」
ぽつりと言った旋風の一言は、無口な一同の代弁でもあった。常日頃の不満から、有ること無いことを付け加え、心行くまで愚痴を堪能した華菜は満足げに息をつく。なんだか一試合を戦いきった表情だ。
「皆様は、自分の宵闇の者に対する悪口はないのですか?ないわけないです!さぁ私に聞かせてください!」
言われて、無口な一同は次の語り手を捜して互いに視線をやった。じーと無言で語り合い、一人お菓子を食し続ける旋風が集中砲火に合う。
「……ん?俺か?」
「お願いします」
にっこりと笑み華菜が言う。この際、無理やりにでも押し付けないと話が先に進まない。
「日月は……そうだな。一言で言えば、占いマニアだ」
話は終わりとばかりに、食べ物へと手をつける。
「……え?もう終わりですか?他にないんですか?愚痴とか、陰口とか、例えば悪口とか」
「……特にないな」
バッ!華菜は残りの一同を見やった。ドレイクはジュース片手にぼんやりし、輪廻は視線が合うなり俯いて目を逸らした。漆葉は、明らかにめんどくさいという顔をしている。無理やり話させることは可能だが、このままでは大した情報は出て来ないだろう。ちなみに。
「あの、今も聞いてるはずですよね。このままこんな感じだとどうなるんですか?」
『必要なデータが揃うまでそのままね』
千雨が放送越しに判断を下す。この天然、無口組みから十分な情報が取れるまで、……一体どれだけかかることやら。しかし、どうにかするしかない。誰かが率先して話してくれないか期待したが、やはり、室内は再び咀嚼音に包まれるのだった。せっかく作り上げた勢いを容易く折られて、華菜は大きく溜息をついた。そして、新たな提案。
「わかりました。では、皆様。ゲームを致しましょう」
●宵闇の者サイド
「正直、あのぶりっ子っぷりは見ていて痛々しいですし、気味の良いものではないです。血液が苦手で、少し血を見るとすぐに叫び声を上げたり、泣きわめく癖に、いつもなにかロクでもないことを企んでいますし……。悪戯を思いついた時のあの行動力は変な薬をキメてるとしか思えません!」
似た者同士であると宣言した以上、半分くらいがブーメランで返っているが、指摘する者は誰もいない。
「でも、ええやないの。なんだかんだ言って、学業に合わせて家事とかもこなしとんのやろ?血ぃ苦手やなんて、女の子らしゅうて可愛らしいわ」
「……ええ、素晴らしい」
大きく、リネンスが頷いた。あまりに大きく頷くので、一同から視線が集中する。日月が聞いた。占いでは純粋と出ていたが、そういう人間ほど”普通”とは異なった道に走りやすい。
「輪廻ちゃんは、その……」
「ええ、女の子らしいとは言い難いですね。そういう意味では」
言葉の先を予測して、リネンスが言う。
「基本的に消極的な性格なのですが、一つだけ、積極的になる物がありましてね。人形遊びが好きなんです。……遺体との」
「遺体って……、人間の、ですよね?」
「ええ。仕事柄……なんですかねぇ。引き取り手のない遺体の出る依頼を受けることが多いものですから、気に入った遺体を見かけるとコレクションするようになってしまって。本人はそれが友達だと言うんですがね」
内向的な女の子が人形を友達にすることはよくあることだ。しかし、その人形が人間の死体では、確かに女の子らしいとは言えない。
「今はまだ私がいるからいいですが、今後を思うと心配で……。人見知りはなんとかしたいですがねぇ。……まぁ、何よりまず、学校に入ってもらわないと」
「それは……心配やねぇ……」
女の子が沢山の死体と語り合う図はちょっと想像し辛い。しかし、共通の悩みは藍莉にもある。チョコスナックを一つ摘んだ。
「ウチもそうやわ。そこまで内向的ってわけやないんやけど、普通の人と比べて感情の起伏が乏しいねんな。もう少し表情豊かになってくれへんと世の中うまく渡って行けへんと思うんやけど……。その癖、小言は多かったりするねん」
「私のところもそうですね」
果実酒を片手に、ほんのりと頬を赤くして華楠が言う。
「飲食店をやっているので、もう少し愛想よくしてほしいんですけど……」
苦笑。それだけ、一同の脳裏には無愛想な店員の姿が浮かぶ。華楠は慌ててフォローした。
「あ、でも、無表情でも優しいんですよ。疲れていたり、落ち込んでいるとお茶を入れてくれたりするんです。……そういう時に、見てくれてるんだなぁって思いますね」
「……羨ましいです。僕にはそういうのないですからね。もう一人の業魂への熱狂振りは凄まじいんですけど」
駿が自傷気味に言った。もう一人の業魂をからかう悪友のような関係なので、その中心人物を抜かしてしまえば、二人の間にハートフルな思い出は少ない。まぁ、本性を知っているので、今更ぶりっ子ぶられても気持ち悪いだけだが。日月はくすりと笑う。
「わからないよ。なんたって似た者同士なんだから、君のことも大切に思ってるかもしれない」
「そういえば」
ふと思い出して、駿はにやりと笑みを浮かべた。
「天宮さんの業魂の話ってまだしてませんよね」
「そういえばそうですねぇ。占いですっかりはぐらかされていましたが……」
リネンスが同意する。とは言え、本人にはぐらかしたつもりはなかっただろう。一同が興味に輝く瞳を向けると、日月は苦笑した。
「期待するほど良い話もないですけど……」
そうですね……、と少しの間、話す事柄を考える。
「旋風は、二人目の業魂なんです。何と言うか……まぁ、独特な性格をしていて、内向的はまた違うと思いますけど、天然というか……」
日月は、一言で言い表せる言葉を探すが、思い浮かぶどの言葉もしっくり来ない。華楠が小首を傾げた。
「天然、ですか?」
「頭が悪いとか要領が悪いとかそういうんじゃないんですけど、……そう!」
やっとしっくりくる言葉を見つけて、日月は小さく頷いた。
「宇宙人を相手にしている気分になります」
ぶふっ!ジュースを口にしていた駿が再度吹いた。
「とにかく、意思の疎通が出来るまで結構時間がかかりましたね。今でもちゃんと出来ているかは少し自信が無いですけど」
「一応聞くけど、ほんまに宇宙人やないよね?」
「そのはずですけど……」
そう言う本人も少々自信がない。
「あのマイペースさは、時々本気で頭痛がしますね。業魂の形成には、宵闇の者が何らかの影響を与えていると聞きますが、旋風に限ってはさっぱり心当たりがありませんよ」
『ある説では、業魂は宵闇の者の理想像が反映されるらしいぞ。……証明されているわけではないが』
放送越しにアカリが口を挟んだ。ある説の信憑性を問う発言をしたのは、今までの会話を聞いていたからだろう。
「その説で行くと、皆さんは無口無表情と不登校児と宇宙人とニートに夢を持っていることになりますね」
一人内向的ではない業魂を持つ駿の発言に、それはないな、と一同は思った。
「あ、でも、ドレイクの外見は確かに理想通りやったで。ウチが小っちゃい頃に見てた戦隊ドラマの悪役そっくりやねん。ドラマと違って、中身が残念なイケメンやけど」
「小さい頃ですか……。そういうものも反映しているんですね」
日月は興味深く聞き入った。しかし、その説で行くと、自分はやはり宇宙人に理想を持っていることになるので深くは考えない。ふと、じーっと見つめる視線に気付いて顔を上げた。リネンスが、まるで睨みつけるようにして日月を見ている。唐突に立ち上がると、日月の元まで早足で歩み寄り、がしっと手を握った。
「……綺麗な髪ですね、柔らかくて、いつまでも触っていたくなるような……」
すりすりと手を撫でる。日月の全身に鳥肌が立った。立ち上がろうとしてうまく行かず、よろけて椅子ごと床に転がる。
「おや、大丈夫ですか?」
「な、なな、なっ……!」
喋ろうとしてもうまく舌が回らない。しかし、青ざめながらずざざざっ!と壁まで後退る様は、これまでのトラウマを如実に語っていた。突然、あまりの変わり様。藍莉は、テーブル下を覗き込んだ。上はお菓子やおつまみで一杯の為、飲干した缶などは床に置いていたのだが……。
「これは……飲み過ぎやわ」
「え、でも、私と同じくらいしかすすめてませんよ?」
華楠が言う。その足元にも大量の空き缶。しかし、本人は頬が少し赤い程度だ。一方、リネンスは、見た目は普通であったが完全に泥酔していた。逃げ回っていた駿を捕まえると、抱きしめる。
「……丁度いい背丈ですね。ずっと抱きしめていたい……」
告白めいた言葉を吐く。しかし、腕には渾身の力が込められていた。全力で抱きしめられて、さっきから駿がぐえっと呻いていたが、本人はどこ吹く風で堪能している。そして堪能しつくすと。
「……ああ、お二人も実に美しい」
魔の手は、女性陣へと襲い掛かったのだった。
●業魂サイド
大きく、二回手を叩く。
「腹黒い!」
ぱんっ!ぱんっ!
「シスコン」
ぱんっ!ぱんっ!
「シスコン」
ぱんっ!ぱんっ!
「……胸がないって言う」
ぱんっ!ぱんっ!
「心配」
ぱんっ!ぱんっ!
「……ちょっと待ってください!」
華菜の一声で、無表情で手を叩いていた一同はぴたりと止まった。どうやらドアノブが非常に気になるらしく、がちゃがちゃと弄くっていた旋風が、華菜へと視線を向ける。
「なんだ?リタイアか?」
一同は、パーティーゲームの王道、古今東西ゲームの真っ最中だった。華菜の提案により、テーマはもちろん”悪口”である。ゲームをして新密度を上げ、日頃溜まったストレスを発散させることにより、口を軽くさせようという作戦であった。しかしながら、未だ勢いに欠けている。
「いえ、私じゃありません。その前にも気になる発言が多すぎて驚きましたけど、……まず、柚木さん!心配は悪口じゃありません!」
「……じゃあ、可哀想」
「……可哀想なのか」
突然、旋風が納得してうんうん頷きだした。何かを共感しているらしいが、華菜にはさっぱりわからない。ドレイクが立ち上がり、自分用のジュースを取りに行く。輪廻は、退屈そうに丸い焼き菓子をころころと転がした。華菜は思った。やはり、この天然集団にパーティーゲームは早かったか……。しかし、そうも言っていられない。頼れる者は自分しかいないのだ。くー、くー、と放送から流れる寝息に、よりそれを実感する。
「可哀想って、何がどう可哀想なんですか?」
「どう、か。そうだな……」
自らのパートナーの話になってやっと興味が湧いたのか、漆葉はどう話そうか考えあぐねているようだった。暫くして、ぽつりぽつりと話し出す。
「……華楠は、飛行機事故に合った。一緒に大切な人が乗っていたらしくてな」
「その人は……」
「死んだ。……あの時は、すごく怒られたな。生き返ったことを悔やんでいて、よく殴られた。”触らないで”、なんて、しょっちゅう拒絶されていてな。……ああ、でも、そんなことより、疑問に答えられないことが何より辛かった」
「疑問、ですか?」
「”どうして私を選んだの?”」
業魂に知識や人格があるのは、あくまで宵闇の者の情報を反映しているだけに過ぎない。それ以前の業魂は、業魔魂というただの自然現象だ。乗った飛行機が事故にあったのが偶然なら、たくさんの死者の中からたった一人に宿ったのも偶然。答えようのない質問であった。
「暫くそんな状態だったが、徐々に落ち着いていってな。花を贈ったら喜んでくれた。……漆の様な黒髪に、葉の散る様な儚さ。それで、漆葉。華楠の業魂になって数カ月、ようやく呼んで貰った名だ。宝物のモカでエスプレッソを淹れてくれて、……あれは美味かったな。今は笑顔だから嬉しいが、まだ、たまに夜中に悲鳴を上げる。夢の中で大切な人の亡骸を見るんだ……」
だから心配だ、と漆葉は言った。輪廻が、ぽつりと聞く。
「でも、今は幸せ?」
「そうだな……。だが、華楠は強かな様で脆い。……自分が守っていきたいと思っている」
「それがいい」
再び、旋風がうんうんと頷いた。少し喋って場の空気に慣れたのか、漆葉が次の話を促す。
「そっちはどうなんだ?ロリコンなのか?」
「私も気になってました!胸がないって……触られたんですか!?」
今度は視線が輪廻へと集中する。輪廻は、無表情のまま視線を落とした。首を横に振る。
「……ちがう。リネンスは、シツレイなジョウダンを言うから、それが困る。シンチョウ低いのとか、女の子のミリョク無いの、ばかにする」
ああ、なるほど。一同は大いに納得した。ぺたりと、輪廻はない胸に触れた。
「……まな板だから、がんばっておっきくする。どうすればいいか知ってる?」
「悪いが、知らんな」
何故か、旋風が真っ先に答えた。放送越しに、起きたらしい千雨が言う。
『一般的には、人に揉んでもらうと大きくなるっていうけど』
「……自分でじゃダメ?」
『さぁ、それはわからないわ』
そういう千雨もぺったんだ。矛先が自分へ向く前に、華菜は話題を変えることにした。
「じゃあ次ですね。私としては、シスコンを挙げる人が二人もいることに驚きです」
ジュースを飲みながらぼんやりしていたドレイクが、ペットボトルの蓋を閉めた。
「……ああいうのをミーハーと言うんだろうな。可愛いものやカッコいいものに目がないらしい。最近できた妹を可愛がる気持ちはわかるが、ベタベタしすぎだ」
「うむ」
旋風が頷いた。
「そちらも妹さんにベタベタするタイプなんですか?」
聞くと、旋風は首を横に振る。どっちだ。
「いや、どちらかというと尻に敷かれているタイプだな」
「それならまだいい。藍莉は口よりも頭突きや足技が先に出る傾向があるからな。思いつきで行動しすぎる。もう少し、大人しい性格になってくれればいいんだが……。あと、服装も。露出が多い服ばかり着るからな」
「なんだかお父さんみたいですね」
華菜は率直に言った。娘の素行に文句を言う父親は大抵こんな感じだろう。旋風にも思うところはあったらしい。
「感覚的にはそんなものだ。子供のお守りだな。……最近はそうでもなくなってきたが」
「お守り、とまでは言わないが」
ドレイクは続けた。
「……俺はきっと、藍莉と出会うべくして生まれた存在なのだろう。それなら2度とアイツの身体にも心にも傷1つ付けさせはしない、全身全霊で守る」
なんだかんだ言って、皆、宵闇の者が好きらしい。一人ぼろくそ悪口を言った華菜は、気まずそうにぽつりと漏らした。
「ここまで愚痴ってアレですが、私だって、駿くんのこと嫌いじゃないですよ」
「わかっている。それがどんな人間であろうと、慕ってしまうのが業魂なんだろう」
どうやら、誤解は解けそうにない。当然、バキッ!と何かが壊れた音がした。扉から外れて、ドアノブが床に転がる。
「……弁償、すべきか……」
「な、ななな何やってるんですか!扉!開きますか!?」
これで閉じ込められたら目も当てられない。慌てて駆け寄る。幸いなことに、鍵ごと壊れたらしく、扉の開閉には支障がなかった。漆葉がぽつりと言う。
「おい、危ないぞ」
二人が振り向くとそこには……、スキル【虚言結界】を発動した輪廻の姿。肉片型をした直径50センチほどの灰色の盾を振りかざして二人へと襲い掛かった。しかし、狙いは二人ではなかったらしい。攻撃を避けた二人を素通りすると、鍵の壊れた扉をさらに破壊して廊下に出る。
「……リネンス……」
寂しそうに呟く。スキル【愚者潰走】を発動し走力を強化すると、廊下を駆け抜け、あっという間に見えなくなった。瞳を瞬かせて、華菜が唖然とする。
「一体、どういう……?」
こともなげに、ドレイクが言った。
「酔っ払ったんじゃないか?間違えて酒を飲んでいたからな。坂嶋も」
”も”? よくよく見ると、旋風の持つジュースの缶にアルコール度数が書かれていた。本人も、今更自覚したらしい。ぼふっ!と音が鳴りそうな勢いで、顔が真っ赤になった。
「……ふむ。ろうやらこれは酒らったようらな」
途端に呂律がおかしくなる。廊下へ出ると隣の部屋へと歩いていった。そして、再び、放送から聞こえる寝息。ドレイクと漆葉はさっそく帰り支度を始めていた。華菜は、天井を見上げてふっと笑う。パートナーの顔がやけに懐かしくなってきた。
「頑張りましたよ。……ええ、私は頑張りましたとも」
●帰り支度
宵闇の者達が集められた部屋では、再び静寂が取り戻されていた。巧みな話術によりさらに酒をすすめられ、華楠により飲み潰されたリネンスが、青白い顔でテーブルに突っ伏する。一難去って、一同は纏めに入っていた。
「こうして今までのことを振り返ると、ずっとウチに付き合うてくれたドレイクにはすごく感謝してるし、今はアイツに背中を預けれるようになってん。それにオトコマエと運命共同体っていうのも案外悪ないしね」
恥ずかしそうに微笑みながら藍莉が言う。本人の前じゃ言えへんけどね、と付け足して。順番が回って、駿は俯くとそっぽを向いた。
「……さっきまでの話の内容を含めて、華菜は可愛いと思ってますよ」
一言だけ。しかし、気恥ずかしそうな仕草が本心であることを物語っている。日月は、何を言うべきか迷って、……やはり決まらなかったらしい。複雑な表情で言った。
「最近は、多少、お互い理解の溝が埋まってきたんじゃないかな……と思いますね」
思うだけで、実際はまだまだ深い穴があるような気もするが。一同の発表を聞きながら、華楠が柔らかく微笑んだ。
「……私は彼に酷い事を言いましたし、酷い事もしました。……それでも彼は変わらず私を見ていてくれる。私はそれに救われているのです」
望まない生は、華楠に酷い苦しみを与えた。しかし、慕ってくれる存在がいたからこそ絶望だけではない”今”がある。
一同は最後の一人へと視線を送った。アルコール片手に、リネンスはぴくりとも動かない。藍莉は放送へと呼びかけた。
「こんな感じでどーやろか?」
『ああ、OKだ。かなりいいデータが取れたと思う。ご苦労だったな。これにて、雑談会は終了とする』
終了の許可が出て、一同はほっと空気を和ませると、それぞれ帰り支度を始めた。再度、藍莉
が聞く。
「食べ物とか飲み物、かなり余っとるけど貰ってってもええ?」
『ああ、いいぞ』
「おおきに!」
嬉々として、カバンからタッパーやらエコバックやらを取り出した。その容量、大阪の度胸並みに大サイズだ。
カチャリ。外側から扉の鍵が開けられる。隣部屋にいるはずの業魂達が顔を覗かせた。顔を真っ赤にした旋風に、日月が顔を顰める。
「おわっらか?」
「終わったけど……、どれだけ飲んだの?呂律回ってないね」
「らいじょぶら。もんらいない」
しかし、うっかり握り締めたままのアルコール片手では説得力がない。藍莉は、ドレイクを見つけて手招きした。
「丁度ええところに来たわ。余った物持って帰ってもええって。ちょっと手伝ったって」
「向こうの部屋にもあるぞ」
ドレイクは、藍莉の隣に並ぶと言われるがままに余り物を詰め始めた。駿は、じっと見てくる華菜に表情を引き攣らせた。まるで、暴走直前のリネンスを髣髴とさせる。
「な、なんですか?まさか、酔っ払ってるわけじゃないですよね?」
華菜は深い溜息をついた。
「……気味が悪くても、見慣れた顔は安心しますね。お菓子、私達も貰いに行きましょうか」
漆葉は、華楠を見下ろし開口一番に言った。
「……大丈夫だったか?」
それは、あまりに予想通りの言葉だった。華楠は、漆葉を見上げて微笑む。
「ええ、帰りましょうか。私達の家に」

ちなみに、酔っ払ったリネンスはタイガ警備保障の職員に手厚く看護されたが、明日の昼頃まで起きる気配を見せなかった。同じく酔っ払い、寂しがった輪廻がリネンスを死体にしようと襲い掛かり、それを庇う職員達との攻防があったのだが、……目覚めるまで、全ては夢の中の出来事である。
HAPPY END!

 



作品詳細
商品名 シナリオノベル クリエーター名 lie
異界 滞空トカゲ
参加キャラクター 【a5466hp】今中 藍莉
【a5866gp】ドレイク=シルバー
【a2275hp】小野 駿
【a5606gp】黒野 華菜
【a2761hp】リネンス=ネロファル
【a2988gp】羽生 輪廻
【a2093hp】天宮 日月
【a3810gp】坂嶋 旋風
【a3187hp】飯酒盃 華楠
【a3427gp】柚木 漆葉



この作品を作ったクリエーターの紹介(異界へ移動します)

詳細
【writer】 lie
【最新更新日】 2010/08/25
詳細
【writer】 lie
【最新更新日】 2011/01/01
詳細
【writer】 lie
【最新更新日】 2010/11/11
詳細
【writer】 lie
【最新更新日】 2010/11/18



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