一章 ルーカスが冒険者として成功するまで 06

 ルーカスは悲劇に酔いしれていた。


 家族に、仲の良かった妹に裏切られ。それでも好きな人に救われて、偶々助けようと働いた誰かに囮にされて――そんな絶望的な状況からでも何とかオークたちに一矢報いて死んでいく。

 そんな悲劇的な|英雄症候群(ヒロイズム)に、酔って迫り来る死の恐怖とか後悔とか諦めとか。


 内心に渦巻くどす黒い感情をどうにかこうにか誤魔化していた折に、メニアは草原を駆け抜けていた。


 ギルドの制服に、申し訳程度に装備した軽めのナイフ。

 最近この街にやって来たばっかりの、酒癖が悪く若手に絡む事でギルド職員の間ではあまり評判の良くなかった冒険者が、森の浅瀬でオークの上位個体に取り囲まれたルーカスを見かけたとメニアに報告してきたのだ。


 本来なら、ここで調査に行くのはギルドの職員ではなく雇われた冒険者だ。


 しかし、そんな常識なんてその時のメニアには一切の関係がなかった。

 理屈とかルールとか、そう言うのじゃなくて、考えるよりも先に身体が動いていたのだ。


 今、ルーカスを死なせてはいけない。

 昨日、初めて会った時はこの世の全てを諦めたような。絶望したような。そんな真っ暗な奈落のような瞳をしていた彼は、今朝、少しだけ目に光が灯っている気がした。


 ルーカスは才能がある。前途がある子供だ。


 これから、家族に裏切られた傷を徐々に癒やして立ち直り。きっと素晴らしい冒険者になると、メニアは昨日の今日で確信していた。

 だからこそ、こんな所で彼を失うのはあまりにも惜しい。

 きっと、この時この場でメニアが動かなければ、彼女は彼の傷を代わりに背負うかの如くに生涯、深い後悔を背負い続けるだろうと確信があった。


 だから、一も二もなくギルドを飛び出して。


 装備を固めた四匹のオークに囲まれるルーカスを見つけて。

 大の字で迫り来るオークにもたらせる残虐な死を受け入れるような体勢を取っていたのが、腹立たしくって、哀しくって。

 相手は明らかに格上のオークだと解っていても、メニアは歯を食いしばって恐怖をかみ殺して、盾のオークめがけて、ナイフを片手に飛びかかった。



                   ◇



 飛びかかったメニアは、あっさりとオークの盾に弾かれて、そのままナイフを持つ右手をオークに掴まれてしまう。

 瞬殺だった。


「は、離して! 離しなさい!」


 腕を掴まれても、オークの顔を蹴ったりぼかぼかと掴む手をもう片方の手で殴ってみるけど、オークにはまるで効果がなく、それどころかもう一つの手を掴まれてしまう。

 圧倒的な力の差に、メニアは早くも絶望する。それと同時に、あの三人組が目撃してからメニアが走ってくるまでの間――今でこそ大の字になって寝ているが、それでも生きながらえているルーカスに戦慄を覚える。


 ――これが才能の差。


 かつていっぱしの冒険者を志し、それなりに努力を積み重ねてきたメニアは――しかし、届かない力の差に顔が悔しく歪む。

 オークはそんなメニアの表情に舌なめずりをして、仲間と目配せし合う。


 最早、満身創痍――生きるのを諦めたルーカスなどほったらかしにして、彼女を犯してしまおう。オークたちはそんな戦勝ムードに浸りながら、メニアの両手を羽交い締めにする。

 メニアは足をバタバタさせて抵抗してみるが、それも全く効果を及ぼさず、そのまま、ギルドの制服をビリりっと音を立てて豪快に破られてしまう。


 青い地味なブラジャーに包まれたメニアの胸が露出する。


 当然のようにオークに容赦はない

 ブラを外されて、パンツを強引にちぎられて――所々ボロボロに破けた服の布きれが残る以外は殆ど全裸の――靴下だけは残されて、ともすれば全裸より恥ずかしい格好のメニアが残された。


 オークに身体を舐められて、股の間を舐められていく。


 ざらざらとしたオークの不衛生な舌がメニアの身体をゾゾゾッと舐めて、無理矢理濡らそうとするその意図に、その雑ななめかたにメニアは心の底から不快感を覚えた。

 私は、この豚に犯されるんだ――そんな絶望を感じたその瞬間、今に今、メニアのまだ誰の侵入も許していない砦に刺さろうとしていたイチモツの持ち主である、盾のオークが、ドサリと力のない音を立てて崩れ去った。



                     ◇



 ルーカスはメニアの犯されていく様をじっと観察していた。

 男心的にエロいと思う。もし、今の状況が創作物として、或いは妄想の世界として起こりえていた事象ならその背徳感と、想像の中で愛しい人を陵辱させてしまう罪悪感に身を震わせながらも、この状況を楽しめたかもしれない。


 しかし、この状況は現実だ。


 手際よくメニアが拘束され、服を引きちぎられ、乾いた膣にオークの黒光りした不潔な槍ををぶち込むために舌なめずりによって雑な愛撫をされるメニアを見て、ルーカスは背徳感以上に怒りを感じた。

 今すぐにでもオークを殺してやりたいと思った。


 しかし、それと同時にルーカスは冷静だった。


 もし、今メニアさんが身を挺して作ってくれたこの決定的な隙に盾のオークを仕留めきれなければ本当にメニアは犯され、ルーカスは死ぬ。

 失敗は許されず、それ故に慎重に事を運ぶべきだとルーカスは考えていた。


 音を立てず転がり、大の字から匍匐前進の姿勢を取ってゆっくりとオークに近づいていく。


 焦らず、確実に。

 人生で最も長く感じる、延々と続くと思われた一分間の末にルーカスは盾のオークの足首に触れて、直接『衰弱』『鈍足』『弛緩』のコンボを噛まして、『呪殺』する。


 こいつさえ仕留めてしまえば、残りの三匹を殺すのに10秒も必要なかった。

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