第十一話:回復術士は開発する
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俺たちの国、パナケイア王国に帰還していろいろと動き始めた。
とは言っても、例によって例のごとく政治方面はエレン任せで俺がすることは少ない。
昨日、俺の影武者と会ってみたのだが完全に仕上がっていた。
俺が【
よくもまあ、あそこまで徹底したものだ。
鏡を見ている気分になった。
あれなら、よほど俺を知るものでない限り騙せる。
そんなことをベッドに腰掛けて、寝起きでぼうっとしている頭で考えていると後ろから温かくて柔らかいものを押し付けられた。
「ケアルってさ、名前変えてからちょっと優しくなった気がする。昨日だってそう」
俺を後ろから抱きしめ、イヴがつぶやく。
裸なのは、昨晩愛し合っていたからだ。
「強がりをやめただけだよ」
俺は本質的には変わっていない。
ケアルに戻ったからと言って、ケアルガとしてすごした日々はなくならず、その日々が今の俺を作っている。
ただ、ケアルガでいたころは少々無理をしていた。
「ううん、やっぱり変わったよ。こっちほうが好きかも、安心できる」
「そっか」
恋人に褒められるのは悪い気がしない。
それに……。
「昨日、イヴを抱いてわかったんだが変わったのは性格だけじゃないようだ。いつもより気持ちよかった。こっちのほうが体の相性がいいらしい」
「……ケアルのえっち」
感覚的なものだが、こちらのほうがフィットする。イヴもいつもより乱れていた。
あとはちょっとだけ夜の面でも好みがかわった。どちらかというと俺は組み伏せたり、男性主体のやり方を好んでいた。しかし、この姿に戻ってからは深く愛し合う、そういうプレイを好むようになった。
それも良し悪しで、イヴやクレハなんかはそちらのほうが喜ぶが、セツナやフレイアなどはM気質なので物足りなさそうな顔を見せることがある。
まあ、やろうと思えば以前のようなこともできるし、趣味が変わったからと言って、毎回同じプレイばかりだと飽きるので、たまには以前のような楽しみ方をしてもいい。
「ねえ、キスして。昨日みたいに優しいキス」
「ああ、好きなだけしてやる」
だけど、イヴがこういう俺を喜んでくれるなら、そういう愛し方を続けよう。
しばらく、離れ離れになっていた分、お互いのことを肌で感じ合いたい。
◇
朝の情事が終わってからは城の地下工房で作業をしていた。
地下工房は広めに作ってあり、俺と俺の女以外は立ち入りを禁止している。
ここは思う存分、俺が発明を行うために作らせた。
復讐の旅が終わってから気付いたことがいくつかあって、そのうちの一つがモノ作りの楽しさ。
どうやら、何かを壊すより、作るほうが俺の気質に合っているらしい。
工房を地下にしたのにはそれなりに理由がある。
……俺の頭の中には無数の英雄たちや賢者、錬金術師の知識と経験が入っている分、とんでもないものができてしまう。
中には表に出してもいけないものがあるから、こういうものが必要だ。
今取り掛かっているのは飛行機だ。
この前の世界会議では馬車を使ったせいで、移動に十日以上をかけ、その時間はドブに捨てたようなもの。むろん、馬車の中でもそれなりに仕事はしていたが、効率が悪すぎる。
王になった以上、そういう面倒なことを増える。だからこそ、移動時間を短くするため飛行機の完成は急務だった。
「人間って大変だね、そんなものがないと空が飛べないなんて」
自慢の黒い翼をアピールするように広げてイヴが言う。
「いや、おまえの翼だってせいぜい数分しか飛べないだろう」
黒翼族は自由に空を飛べるわけではない。
いくら翼があろうと、人に翼が生えただけというフォルムは空気抵抗が大きく、しかも鳥と比べて体積あたりの重さがずっと大きい。
つまるところ、物理的には飛べない。
黒翼族が飛べるのは翼を媒介にした魔術を使ているからにすぎない。
だから、飛んでいるときの消耗は大きく、イヴの場合は数分で疲れ切ってしまう。
「ふふん、いつの話をしてるのかな? 魔王の力が馴染んでから、いくらでも飛べるようになったんだよ。すごいでしょ」
「……ああ、だから、一人で来られたんだな」
もし、陸路で帰るとなると凄まじい日数がかかる。
いくら影武者とキャロルを置いてきたからと言って、そこまでの長時間、城を開けることはできないだろう。
竜騎士が迎えるにくると思っていたのだが、この様子じゃ自力で飛んで帰るつもりのようだ。
「うん、そう。すっごく速いんだ。ここらでも半日で帰れる自信があるよ」
「それはすごいな。ここからだと竜素材の飛行機でも二日はかかるから」
「なんなら、その飛行機ができるのを待たなくても、私がお姫様だっこで魔族領域まで運んであげる」
イヴの鼻息が荒い。
仕方なくみたいな口調だが態度を見る限り、むしろお姫様抱っこして乗せて飛びたいらしい。
二人きりの空旅行はなかなか楽しそうだ。
だが……。
「やめておく、イヴにお姫様だっこで運ばれるのはかっこがつかない……それに、今回だけじゃなく、いつでもイヴに会いに行けるようにはしておきたいんだ。そのためには飛行機がいる。毎回、イヴに迎えに来てもらうわけにはいかないだろう?」
「変なところでこだわるよね」
「男とはそういうものだ」
そう言いつつ、作業を開始する。
今回の飛行機は以前作った竜素材のものをベースにしてある。
あれは時間がないなか無理やり完成させたもので作りが甘かった。
だが、何度も飛行してデータが集まり、改良案がいくつも浮かんでいる。
それを反映させて新規設計を終えた。
ただ、一点懸念がある。
前回は軽くて剛性がある竜素材を使えたが、今回はあくまで人の世界で作れるものに拘った。
量産を見据えているからだ。
そのせいで竜素材よりも材料が重く、機体の重量が三割増しになってしまった。
「ミスリルやらの超希少金属を使っても、ぎりぎりだな」
当初は高価な魔法金属の類いを使わずに作ろうと考えていたのだが性能が低くなりすぎるのでやめた。一応、鉄で作った場合、俺やフレイアなら飛べせはするぐらいに重量は収まるのだが、あまりにも遅く、レスポンスが悪い。そもそも一般魔術師が飛ばせない時点で量産品として致命的な欠陥品であり、ワンオフなら素直に竜素材を使う。
他の案として、防御力を捨てさり、木材などで作れば、もっと軽くて安く作れはするのだが、ちょっと速度をあげると機体が軋むし、敵の攻撃には無力。そんな脆い空飛ぶ棺桶なんてものに乗りたくないし、大事な女たちを乗せたくない。
その結果、ミスリルを使った凄まじく高価なおもちゃになった。この飛行機を作る金があれば、傭兵百人を一年間雇える。
とはいえ、割に合うので作ることにした。なにせ、この俺の時間が年間で何十日か浮くだけで傭兵百人以上の価値がある。。
そして、戦争の際には傭兵百人分以上の働きをしてくれるだろう。
「すっごい複雑な加工なのに、すっごい簡単そうに作るね」
「錬金魔術のおかげだ。形さえ、しっかりイメージできればそのとおりに出来上がる。曲面を作るのも中を空洞にするのもお手の物。だからこそ、こうやって事前に設計書を念入りに作っているわけだ」
錬金魔術がいくら便利だからと言って、なんでも作れるわけじゃない。
あくまで便利な加工技術に過ぎない。
作るべきものを完璧に図面に落とし込んでいるからこそ明確なイメージが可能となる。
そして、錬金魔術の利点の一つに、その気になればパーツ同士の継ぎ目を完璧に消せることがある。
ネジや溶接なんかより遥かに接続部の強度を上げれて便利だ。
「私に会う暇もないぐらい忙しいって言ってたのにいつの間に設計したの?」
「馬車の中でだ。ぶっちゃけ政治がらみは出発前にほとんど根回しが済んでていたから、ひたすら設計に打ち込んでたんだ。さすがの俺も、二、三日じゃ設計が終わらないさ」
馬車の数少ないいいところ、それはやることがない時間ができることだ。
もし城内に入れば、もっと他に優先順位が高い仕事をこなそうと考えていただろう。
……そういう意味では馬車も悪くない。
「さてと、完成だ」
設計図の通りに錬金魔術で素材の形を変え、つなぎ合わせるだけの作業だったので二時間もかからず完成した。
「竜の飛行機よりも綺麗だね。銀色に輝いて」
「なにせ、部品のほとんどがミスリルだからな。見た目だけじゃなく性能もいい。軽さは竜素材には劣るが、硬さ、とくに魔術に対する抵抗力はこちらのほうが上だ」
「へえ、面白そう。これと私どっちが速いと思う?」
「昔のイヴなら、飛行機だが……今のイヴだとわからないな」
「じゃあさ、競争しない? 魔族領域まで」
「いいな。もとから、飛行機が完成したら、そっちにいくつもりだったし。……じゃあ、負けたほうがなんでも言うことを聞くってどうだ」
今回の和平、魔族領域でも事前にある程度の根回しをしているとはいえ、こちら側よりさらに不安定なのは否めない。
だから、俺が行くことは決まっていた。
キャロルからは旧魔王と関わりが深い種族たちに不穏な動きがあるとも聞いている。
「なんでも!? 本当にいいの?」
「ああ、なんでもだ」
イヴが鼻息を荒くしている。
いったい、何を頼むつもりなんだか。
そして、面白いのが自分が負けることなんて何一つ考えていないこと。
まあ、無理もない。
俺はより軽い竜素材を使う飛行機でも二日かかると言っている。
それに対してイヴは半日で帰れると言った。
普通に考えればより重いミスリルで作った飛行機で勝てるわけがない。
……ただ、イヴは大事なことを忘れている。この飛行機は改良型であるということを。
「ふふふっ、絶対だからね。楽しみ! 手加減しないよ」
「俺もそのつもりだ。出発は五時間後だ」
「結構、時間がかかるんだね」
「今日出発するつもりだったから、ここを出る前にご馳走を食べてもらおうと思って準備していたんだ。それに、あと二機、作っておきたい」
「ありがと、ご馳走楽しみだよ。でも、あと二機って何に使うの?」
「一つはフレイアたちが使うもので、もう一つは贈り物だ」
送り先は、水の都のカスタ王子。
今回、あれだけの国が味方に回ったのは彼の力が非常に大きい。彼は協力する条件の一つに飛行機の輸出を要求していた。
彼は初めて飛行機を見たときからひどく興奮していたのを覚えている。
その戦略的な価値も商業的な価値も正しく理解しているのだろう。だからこそ、完成品を欲しがった。
これを渡してしまうのは、少々手痛くはあるが、背に腹は変えられなかったのだ。
「へえ、そうなんだ。私にも一つもらえたりしないかな?」
「作る事自体は構わないが、竜騎士がいる魔族領域には必要ないだろう」
「それもそうだね」
イヴが頷くと、同時に彼女のお腹が鳴った。
そういえば、そろそろ昼時か。
「とりあえず、飯にしよう」
「うっ、うん」
イヴが照れて赤くなっている。
こういう仕草はイヴらしい可愛らしさ。セツナなんか、恥ずかしがらずにむしろ、お腹の音でお腹が空いていると強くアピールする。
俺は彼女の手をとってご馳走を用意した食堂に向かう。
「イブのために美味しいものをたくさん用意したんだ。いっぱい食べてくれ」
「へえ、楽しみ」
……競争の勝率を少しでも上げるため、たっぷり食べて体を重くしてもらおう。勝負はもう始まっている。なんでも言うことを聞かせる権利がほしいのは俺も同じなのだ。
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