『愛され過ぎて夜も眠れないオラリオ』   作:Momochoco
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ベル君回です


Episode3 家族

 

 少し前まで俺にとって世界とはこの薄暗い地下室と、いつも笑って励ましてくれるヘスティア様だけだった。毎日、過去の亡霊に怯えて過ごしていた。今も苦しいことに変わりはないないが少しだけ状況が変わった。

 

 後輩の冒険者が出来たのだ。名前はベル君。俺なんかよりよっぽど素直で優しくて元気があって……とりあえず良い子だ。最初は話すのも怖かったけど接しているうちに、ヘスティア様のフォローもあってだんだんと話せるようになった。だから今は少しだけ幸せな生活を送れている。

 

「ふう、こんなものか……」

 

 そんなこと考えながら俺はいまファミリアの拠点である協会地下で内職の仕事に専念している。

 ベル君が冒険者として活動し始めて一週間ほどになるがまだまだ初心者どころか冒険者とは呼べないレベルだ。そのため報酬もほとんど期待できない。それでも武器や装備は一定の物を使わせてあげたいためこうしてヘスティア様と少しずつでもお金を貯めるようにしていた。

 

 冒険者……昔は俺も強さを求めてただがむしゃらに強さを求めたものだが今となってはこの様だ。今の俺がベル君に出来る事なんて少ないかもしれないけどやれることはやってあげたい。

 

 だから必死に内職をする。少しでも良い物を食べさせるため。まあ俺はほとんどがお粥なのだが……。そうだ、今日はチャーハンにでもするか。

 そんなことを考えていると階段を下りてくる音が聞こえる。どうやら彼が帰って来たらしい。

 

「ただいま戻りました、メラさん!」

 

「お帰り……ベル君」

 

 彼がヘスティアファミリアの唯一の冒険者「ベル・クラネル」。白い髪に赤い目をした14歳の少年で駆け出しの冒険者だ。ベル君は持っていたバックパックをテーブルの上に置き、ソファーに座って一息つく。どうやら急いで来たようで少しだけだが息が上がっていた。

 俺は作り置きしていた茶をベル君に渡す。

 

「ありがとうごさいます!」

 

「お、お疲れ様……あの、今日はどうだったの……?」 

 

「今日も第一階層でモンスターを狩っていました。本当は第二階層にまで行きたかったんですけどアドバイザーのエイナさんに止められてしまって……」

 

「そうだね……第二階層はまだ早いかもね」

 

 今のベル君の強さなら通用しない訳ではないと思うが、それでも安全に稼げるかと言うと微妙なところだ。少しの油断がすぐに致命傷となるダンジョンでは常に意識を張り詰めることが大切だ。今のベル君はまだダンジョンの感覚に慣れていないため無理をさせるのは危険なのだ。

 

「あ、そ、そうだベル君。武器の方はどうかな?ずっと使ってなかったから不安だったんだけど……」

 

「すごい切れ味でしたよ!それにエイナさんに見せた時には『何でこんな高価な武器持ってるの!?』って驚かれてしまいましたよ」

 

「あはは……確かに初心者が使うにはちょっと高い剣だけどね」

 

 俺がベル君にあげた剣は、昔俺が使っていたサブの武器である。性能も価格もかなり高い物であった。売って金にしたら今の場所がばれるし、かと言って使い道もなかったのでベル君にあまり人前に見せないように使うという約束をしてあげたのだ。

 まあ、エイナさんに見せたらしいが彼女の性格からバラすとは思えないし良いか。

 

 それからベル君は今日の戦いについて報告してくれた。コボルトなどの最弱モンスターを倒していたという。もともと冒険者だった身からするとえらく次元の低い戦いだと言わざるえないが、自分にもこんな時があったことを思い出す。

 

 そう、あれは初めてのダンジョンでアイズとリヴェリアの三人で――……

 リヴェリア……アイズ……

 

「メラさん……あの、大丈夫ですか?顔色があまり優れないようですが?」

 

「だ、大丈夫。ちょっと考え事をしていただけだから。そうだ、今日の晩ご飯は何が良い?ヘスティア様は仕事で遅くなるっていうから二人で食べることになるけど」

 

「メラさんの作る物なら何でもいいですよ!」

 

「う、うーん、それが一番困る答え何だけどなあ。じゃあ、久しぶりにチャーハンでも作るかな。……確かお米とお肉と野菜、卵もあったし」

 

「チャーハンですか?すいません僕、おじいちゃんとの二人での村暮らしだったので料理はあんまりわかんないんですけど」

 

「お米を具材と一緒に炒める料理だよ。まあ、味に自信はないけど食べれない訳じゃないと思うから我慢してね。そうだ、何か嫌いなものある」

 

「いえ、特にはありません!」

 

「そっか、それならいいや。あ、あと使った武器はちゃんと手入れしてあげてね。一応、劣化防止の加工はしてあるけど手入れはしておいて損はないから」

 

「はい!」

 

 そう元気よく返事をしたベル君は背中に下げていた剣を下ろして、棚から引っ張り出した整備道具で手入れを始める。自身の武器の手入れは冒険者のたしなみだ。もしもの時に壊れてしまいましたではすまされない。鍛冶屋に頼るだけでなくこうした自身での調整も大切なことであった。

 

 俺はベル君の方から向き直り台所に立つ。

 まともな料理なんて久しぶりだ。いつもはお粥か茹でた野菜ぐらいしか食わないからだ。ただ今日はベル君がいるから失敗しないように気を付けないと。

 

 チャーハン。野菜と米を卵で炒めた料理。この世界に来る前に母さんと一緒に作ったのを思い出す。もう数年前もの記憶だが。母さんに父さん、元気にしてるかな……。

 

 台所に立ち腕を動かしながら故郷に思いを馳せる。

 

 俺が生まれたのは日本という国の、一般的な家庭であった。

 子供の時から何かに優れていたということはなく極々、平凡に友達と遊んだり、学校に行って学んだりしていた。両親と兄や姉との仲も悪くはなくそれなりに満ち足りた生活を送っていたと思う。

 

 だが惨劇は一瞬で起こった。

 その日はいつも通りに小学校が終わって家まで歩いて帰っていたのだが、突然強い眩暈に襲われてしまったのだ。俺は立っていることが出来ずその場にうずくまって眩暈が治まるの待った。

 

 1分か10分か、それとも1時間か……とにかく時間の感覚が分からなくなるくらいうずくまっていた。そして目を開けるとそこには今まで自分が歩いてきた舗装された道路などではなく洞窟のような場所に立っていた。夕焼けの空は消え、薄暗い天井が見えた。

 一目でわかった。ここは自分のいた場所とは全く違うということに。

 

 その後に出会ったエルフの女性……リヴェリアに拾われここが自分のいた国とは違うことに気付いた。それから色々あって今ではヘスティア様の元で暮らしている。

 

 正直に言えば帰りたい。でも帰る方法なんて……

 

 

 そんな風に昔のことを考えているといつの間にかチャーハンが出来上がっていた。

 久しぶりに作ったにしてはパラパラとしていて上々の出来であると言える。

 

「べ、ベル君、チャーハン出来たよ」

 

 武器の手入れを終わらせたベル君がこっちに来てソファに座る。

 

「これがチャーハンっていうやつですか!食べても良いですか?」

 

 育ち盛りだからなのかそれともダンジョンで稼いで来たからなのかは分からないが、どうやら腹ペコだったらしい。

 

「うん、いただきますしてからね」「はい!いただきます」

 

 美味しそうに料理を食べる姿を見てるとこっちまで嬉しくなる。

 

「美味しいです!メラさん!」

 

「そっか、それは良かった……」

 

 このオラリオの大きさからみればちっぽけな幸せかもしれないが少なくともこうしてベル君やヘスティア様と平和に暮らしていけることが俺にとっての幸せなのかもしれない。

 さて俺もお粥を食べるか

 

 

◆ 

 

 一人の少年が何かが燃えた後の灰を必死に握りしめている。

 それを冷たい眼差しで見ているエルフがいた。

 

「どうして!どうして写真を燃やしたの!こっちに持って来れたたった一つの家族との思い出だったんだよ!お母さんやお父さん、兄ちゃんや姉ちゃんが写ってたんだよ!こんなのって酷いよ……うぅ……」

 

「お前がいつまでも元の世界に縛られているからだ……私は、私がお前の母になってやる!それでは駄目なのか!?私はお前の本当の家族になりたい。恋人でも母でも姉でも妹でも何でもいい。お前と一緒にいたい。だからそんなものにいつまでもこだわるお前が悪いんだ。分かったな?」

 

 言いたいことを言い切ったエルフはどこかへと去っていく。

 

 少年はただ一人、灰で手を汚しながらうずくまるだけだった。

 

――――――――――――――――

――――――――

――――

 

「……きて……大丈夫で……」

 

 誰かが俺を呼ぶ声が聞こえる。呼吸が上手くできない。

 やっとのことで目を開けるとそこにはベル君がいた

 

「メラさん!大丈夫ですか!」

 

 さっきのは夢だったのか?いや、過去に起こったことだ完全な夢ではない。

 徐々に呼吸のテンポが取り戻されていく。その間、ベル君は俺の手をずっと握ってくれていた。それが嬉しかった。

 

「ごめん……何か変な夢見ちゃってた……はは……」

 

 ベル君は本当に心配そうな顔と声で俺を抱きしめて励ましてくれる

 

「本当に心配したんですからね!でも目を覚ましてくれて本当に良かったです……」

 

「心配かけちゃったね。ヘスティア様はまだ帰ってきてないか……もう大丈夫だから、心配せずに寝て良いんだよ」

 

 正直、睡眠薬の効果がまだ残っているのか眠くて仕方ない。

 ベル君は何かを決めて提案する。

 

「メラさんが寝るまで僕がずっと側にいます。だからメラさんは安心して寝てください」

 

「ベル君……わかったそれじゃあお願いしようかな」

 

 そう言ってベル君と手を握ったまま布団に入って目を閉じる。

 ベル君の手は俺よりも少しひんやりとしていて気持ちが良かった。

 

 これなら……すぐに……眠れそうだ……今度は悪夢を見ないように。

 

 

 

 

「あ、おかえりなさい。神様!」

 

「何でメラ君がベル君と手を繋いで眠ってるんだい?」

 

 ヘスティアは嫉妬した




久しぶりに書きました
疲れました


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