『愛され過ぎて夜も眠れないオラリオ』   作:Momochoco
<< 前の話 次の話 >>

3 / 5
主人公の名前どうしようか迷っていましたが、とりあえず二つ名だけ考えたのでそれを使っていきます。


Episode2 出会い

「ボクは神ヘスティア。ヘスティアファミリアの主神さ」

 

「えええーー!!」

 

 そう名乗ったボクに道端で途方に暮れていた少年は驚きの声を上げている。

 驚くのも無理はないこの少年はファミリアに入るために一日中オラリオを駆け巡ったものの断られ続けていた。運のめぐりあわせなのか偶然、この屋台の前を通ったことでボクに出会えたのだ奇跡と言っても過言ではないだろう。

 

「あの本当に良いんですか!?」

 

「いいとも。ただし、いくつかの条件を呑んでもらうことなるけどね。とりあえずバイトが上がるまで待っててもらえるかい?」

 

「は、はい、わかりました。本当にありがとうございます!」

 

 定時まで働いたボクは店をしまい、今日の給金をもらう。あまり多くはないが二人で生活するには何とかなる金額を貰っている。まあ、もしかしたら今日から三人に増える可能性もあるのだが。

 待たせていた少年の元へ小走りで向かう。だいぶ待たせてしまったがこれでやっとファミリアの話が出来る。

 

「少年君、お待たせ。それじゃあ行こうか」

 

「はい。お願いします」

 

「まずは名前を教えてもらえるかな?少年君のままじゃ嫌だろ?」

 

「ベルです。ベル・クラネル」

 

「ベル……それじゃあ、ベル君だね。ボクはヘスティア。好きに呼んでいいよ」

 

「わかりました。それじゃあ、神様で」

 

 神様って……安直すぎやしないかい?まあベル君にとっては路頭に迷い込んでいたところを助けてもらったのだから神様と言っても差し支えないのかも。

 ベル君とボクは自分のホームである廃協会に向けて歩みを進めながらファミリアや神、ギルド、そして恩恵について説明する。ベル君は本当に今日、オラリオに来たらしく全く何も知らなかった様子だった。

 

「――とまあ、これが冒険者を目指していく上で最低限知っておかなければならないことかな。そしてここからがボクのファミリアに入る上で呑んでもらいたい条件だ」

 

「はい!」

 

「実はボクのファミリアにはもう既に一人、冒険者がいるんだ」

 

「先輩ってことですか?」

 

「まあそうなるね。その子は昔あることがあって心に傷を負っていてね。すごく精神面が不安定なんだ。それでベル君にはその子が困っているときに手伝ってあげて欲しい。それと無理にその子の過去を聞こうとしないこと。仲良くすること。これが条件だ」

 

 ボクがベル君をファミリアに入れようと決心したのには訳がある。

 ベル君はこれから冒険者として成長していくことになる。その姿を彼に見せて、英雄であった頃の心を思い出してほしいのだ。

 

 それに単純に友人にもなってもらいたい。今の彼はボクとミアハ以外には心を全く開いてない。いつまでもボクだけの物にしておくわけにはいかない。ベル君の入団を機に心を開かせていってほしい。

 

 僕の言葉を聞いたベル君は真剣な顔付きで頷く。

 

「わかりました。僕にできる事であれば力になりたいと思います!」

 

「うん!良い返事だ!期待してるよベル君!」

 

 ハッキリ言ってベル君をファミリアに入れるのは賭けと言ってもいいくらいだ。人間不信の状態の彼がベル君を通して症状がさらに悪化する可能性もある。だがそれでも、賭けてみる必要がある。新しい風が必要なのだ。ボクにも彼にも。

 

 二人が話してる間にいつの間にかホームである廃協会に着いていた。

 あんまりな外見にベル君が思わず心配の声を上げる。

 

「えーと、神様?ここで合っているんですか」

 

「キミも失礼な奴だな。もちろんここが我がヘスティアファミリアのホームさ。まあ、確かに見た目は悪いけど地下室は使えるからそこに住んでいるんだ」

 

「なるほど……」

 

 むっ、その顔は本当に大丈夫かって顔だな。まあ、いつか彼やベル君が冒険者として再起、大成した時にはもっと良い所に住みたいなとは思っている。

 

「とりあえずボクが先に入って彼に説明をするから、ベル君は後からはいってきてくれるかい?」

 

「わかりました」

 

 たぶん彼には反対されるだろうな……。何て言って説得しよう。

 そう思いながら地下室の扉を開けるとそこにはベッドの上で丸まっている彼がいた。

 

 彼は寂しがりやで臆病で卑屈だ。そのため一度思考がマイナスになってしまうと周りの状況や全ての物に対して恐怖を感じてしまうらしい。いつもはミアハの薬で抑えてるがどうやら今回はきらしているようだった。

 

 とりあえず今帰ったことを伝えよう。

 

「ただいま。大丈夫かい?」

 

「…………ヘスティア様?」

 

「ああ、そうだボクだよ。だからそんなところで丸まってないでこっちにおいで」

 

「ヘスティア様!ヘスティア様!」

 

 そう言って抱き着いてくる。背中に回す腕は細く白くそして非力だった。とりあえず今は安心を彼に与えなけばならない。ボクは裏切らない。ボクは見捨てない。ボクは苦しめない。その意思を全身を通して彼に伝えねばならない。

 そんな脆く弱い彼がボクは堪らなく好きだ。でもそれじゃいけない。彼を真の意味で救い出すにはこれじゃダメなんだ。

 

「もう離しても大丈夫かい?」

 

「ご、ごめんなさい。俺、また、勝手に落ち込んで……それで……」

 

「良いんだ。気にしていないよ。それよりも今日はキミに紹介したい人がいるんだ」

 

「……紹介したい人?」

 

 彼は不安げな表情でボクを見つめる。大丈夫、説得の方法は考えてある。

 

「その子は今日、オラリオに来たばかりでね。冒険者を目指しているんだけどどこのファミリアにも門前払いをくらったらしいんだ。それで、路頭に迷っていたところをボクがファミリアに誘ったんだ。その子とここで暮らしたいと思っているんだ」

 

「……嫌だ……怖い……」

 

 震える手を取り、伏し目がちな彼の目をじっと見据えて話す。

 

「大丈夫。その子はキミの過去について何も知らない。それにボクがスカウトしてきた冒険者なんだぜ?こう見えても見抜く目はあるつもりさ。……ボクはいつだってキミの味方だ、何があっても、絶対に。だから、もう一度立ち上がってみないかい?」

 

「……俺はヘスティア様だけいればいい」

 

「ボクもキミだけいればいいと思っていた時もあった。でもそれじゃ、ダメなんだ。キミはまだ若い、まだやり直せる筈だ。ボクも出来るだけ力を貸す!だから……」

 

 彼の手が震えている。怖いんだ。彼は恐怖を乗り越えるように言葉を絞り出す。

 

「……わ、分かりました。俺、頑張ってみます」

 

「ありがとう。それじゃあ、ベル君を呼んでくるよ!」

 

 

 

 

 神様が地下室に入ってから既に10分ほどの時間が経とうとしていた。僕はと言えば近くにあった歪んで今にも壊れそうな椅子に腰を掛けて待っていた。正直言って、神様のあげた条件は不安なことばかりだ。

 先輩冒険者を助けて欲しい、過去を聞かない、仲良くすることの3つ。優しい先輩ならともかくおっかない冒険者だったらどうしよう……。

 

 だがここまで来た以上は引く訳にはいかない。やっと冒険者になれるチャンスを掴んだんだ。絶対に強くなって英雄を目指してやる。

 

 そう思いを決めた僕の元に神様が戻ってくる。どうやら話がついたようだった。

 

「あの、それでどうなんでしょうか?」

 

「良かったね、ベル君、大丈夫だってさ!それじゃあ早速入ろうか」

 

「は、はい!」

 

 良かった。心の底から安堵が漏れ出る。ここで拒否でもされた日には本当に行くとこがなくなってしまう。地下室へつながる階段を神様と一緒に降りる。確かに、上の教会部分は使い物にならないが地下室だけなら使えそうだった。

 階段を一つ、また一つと降りていくたびに緊張が走る。

 そして遂に扉の前に来てしまう。神様はボクが緊張しているのを察してか、穏やかな声で落ち着くようアドバイスをくれる。

 

「ベルくん、そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。根はやさしい子だから」

 

「わかりました。それじゃあ、入りましょう」

 

 そう言って神様が扉を開けるとそこには――――

 

 

 黒い長髪に青い目をした女性が立っていた。

 

 

 肌は雪のように白く、漆黒の髪の隙間から見える目は綺麗な青色していた。服装はボロボロのローブのような物を纏っている。僕の姿を見た瞬間、その女性は神様の背中に隠れてしまった。正確には神様の方が小さいので隠れきれていないのだが。

 少しの間、沈黙が流れてしまった。僕は慌てて自己紹介をする。

 

「今日からお世話になる、ベル・クラネルですよろしくお願いします!」

 

 僕の挨拶に対してその女性は小声で神さんに耳打ちをする。

 

「……………………」

 

「駄目だよ。ベル君はキミのことを信頼しようとしているのに肝心のキミがそんなんじゃ。大丈夫、ベル君はやさしいから、ほら、ちゃんと言葉にして伝えるんだ」

 

 神様の言葉に背中を押され、僕の前に出て小さな声で自分の名前を名乗る。

 

「……『メラナイト』って呼ばれています……あの、これからよろしく……」

 

 何とか絞り出すようにして出した声はしっかりと僕の耳へと届いた。というか、髪型や顔つき、細い体つきから女性だと思っていたがどうやら『男性』だったようだ。

 

 間違う前に気づいてよかった。

 神様はさっきの補足をするように話を付け足す。

 

「さっきも名乗ったけど彼がボクのファミリアの第一冒険者メラ君だ。本名は別にあるが今は二つ名である『黒宝(メラナイト)』で通している。だからメラ君と呼んであげて欲しい」

 

 神様はそう言いながら僕に対してウインクを寄越す。さっき言っていた過去への詮索は禁止ということなのだろう。ギルドで聞いた話ではレベル2になった時に二つ名がつくと言っていた。だとすればメラさんは最低でもレベル2以上ということになる。

 僕はメラさんが怯えないよう出来るだけ優しい声で話しかける

 

「それじゃあ、メラさんって呼ばせてもらいますね!」

 

「…………ん」

 

 小さく頷くメラさんに神様は満足げな顔を浮かべる。これなら何とかやっていけそうだ。僕とメラさんと神様の

 

「よし!じゃあ、新しいメンバーも入ったことだし今日はじゃが丸君パーティーだ」

 

 こうして何とか僕は冒険者になり無事にスタートを切ることが出来た。

 

 

 

 

 薄暗い部屋の中で金色の少女が一人涙を流していた。

 部屋の中は無造作に物が放り投げられており。お世辞にも整っているとは言えない有様であった。

 

「いつになったらもう一度会えるの……」

 

 少女は苛立つ思いを部屋にあるクッションにぶつける。

 

「会いたい、会いたい、会いたい、そして、抱きしめて欲しい、そして――――」

 

 『一生離さない』

 金色の少女は今は待つことしか出来ない。

 

 




二つ名 黒宝(メラナイト) 黒い髪から


※この小説はログインせずに感想を書き込むことが可能です。ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に
感想を投稿する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。