『愛され過ぎて夜も眠れないオラリオ』   作:Momochoco
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異世界転生物の主人公の末路をテーマにして書きました
レフィーヤ、アイズ、リヴェリア、ベルくん(男)がヒロインになると思います


Episode0 悪夢

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 俺はどこかの建物の中で数人の武器を持った冒険者たちに囲まれていた

 

「何でわかってくれないの……家族なら……ずっと一緒にいたいって思うのは当たり前のこと!」

 

 金色の瞳と同じ金色の髪をした少女が、その手に握られた剣を俺に向けて語り掛ける。

 金色の少女の眉間には皴が寄せられており、怒りとも悲しみとも取れる表情を露にしている。

 

「元の世界に帰りたい!本当の家族に会いたいんだ!」

 

「私達はお前の家族ではなかったのか?少なくともお前を拾ったあの日から私はお前をずっと愛してきた……。お前の言っていることはその私の思いを踏みにじることに等しいんだぞ?もしどうしても帰るというのなら、力づくでも止めるまでだ!」

 

 緑髪のエルフの女性は杖を青年に向ける。

 

「僕はキミを次期団長として、そして何より自分の息子のように思っていたんだけどね……反抗期ってやつなんだろうか?悪いけどキミを帰させるわけにはいかないよ」

 

「わしも同じ思いだ。弟子であるお前にはまだ教えたいことが沢山ある。もう一度考え直して戻ってきてはくれんか?」

 

 小人族とドワーフの二人は諭すように俺に語り掛ける。

 育ての親である彼らの言葉が胸に突き刺さる。だが俺にも信念がある。

 

「ねぇ、本当に帰らなきゃダメなの?私……まだ一緒にいたいよ……」

 

「大丈夫よ。私や団長たちみんなで無理矢理にでも連れ帰るから……」

 

 アマゾネスの姉妹は姉が妹を慰めるようにして頭を撫でている。

 

「はっ!家族に会いたいなんざ、腑抜けたこと抜かしやがって……。その甘ったれた考えを叩き潰してやるよ!」

 

 獣人の青年は俺に向かって吠える。

 何で、何でこんなことになったんだ……ただ俺は元の世界に帰りたいだけなのに。

 最後に赤い髪をした女性が前に出て話しかけてくる

 

「なあ、考え直してくれへんか?うちらはあんたのことが好きでこんなことしてるんやで?欲しいものがあるなら何でもやる、して欲しいことがあれば何でもする。だから……だから、お願いや。帰るなんて言わずずっとここにいたってくれや!」

 

 そういってその赤髪の女性は手を差し伸べてくる。

 確かにここいれば俺は英雄として金も力も地位も手に入る。だがそれでは意味がない。

 自分の元の世界で待つ両親は救われない。

 俺は絶対に帰る。そう決めたんだ

 

 差し伸べられた手を払い除け俺はこの場にいる全員に向けて叫ぶ。

 

「こんなこと間違ってる!頼むどいてくれ!」

 

 全員に動く気配はない。どうやら俺も覚悟を決めるときが来たようだ。

 

「何で……信じてたのに……」

 

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「くっ、ああああああ!」

 

 叫びと共にその瞬間、一気に脳が覚醒し体をベッドから起こす。

 体中から気味の悪いじめっとした汗が噴き出てくる。久しぶりに過去の夢を見た。忘れたくても忘れられない過去。消したくて、消したくて仕方ない後悔。

 それを夢で見てしまった。胸が苦しくなる。吐き気がする。

 

 俺はベッドから降りたち急いでトイレに向かい顔を便器に向ける。

 そしてそのまま胃の中の物を便器にぶちまける。

 昨日はほとんど食事をとっていないために出てくるものは胃液ばかりだった。

 

 吐いても、吐いても、胸の痛みと動悸は激しさを増していく。

 込み上げてきた胃液が鼻に回って苦しい。

 

 トイレで苦しむ俺の元に誰かが駆け寄ってくる。そしてその細い腕で背中を擦ってくれた。子供をあやすような優しい口調でゆっくりと指示を出す。

 

「ほら、まずは呼吸を整えて落ち着くんだ!ゆっくりでいい!ゆっくりね!」

 

「はぁ……はぁ……ヘスティア様……ごめんなさい」

 

「大丈夫。ボクがついてるから心配しないで」

 

 ヘスティア様の介抱と一通り呼吸が落ち着いたところでやっと苦しみから解放されるのを感じる。何度経験してもこの発作はつらい。

 あの日のことが今でもトラウマとなって俺を押しつぶそうとしている。

 ヘスティア様に促され顔を洗いうがいをする。

 吐いた後の何とも言えない気持ち悪さは綺麗さっぱり消えた。

 

 再びベッドのある部屋に戻るとヘスティア様が腰を掛けて待っていた。

 いつもと違い髪は結ばず下していた。 

 

「もう大丈夫なのかい?どこか痛い所とかは?」

 

「大丈夫です……すいません、いつも、いつも迷惑ばかりかけてしまって」

 

「僕は気にしてないよ。キミが本当に苦しかった時に何もしてあげられなかったのは僕の方だ。だから今度は何があってもキミを支えると決めたから」

 

 その言葉が堪らなく嬉しかった。

 

「うぅ……ヘスティア様……」

 

「泣かなくてもいいじゃないか……もう、ほらこっちにおいで」 

 

 ヘスティア様の近くに寄ると、その小さな体で俺の頭を覆うように抱きしめてくれる。

暖かった。そしてなによりヘスティア様の思いやりが伝わってくるようだった。

 そのままベッドに潜り込む。二人で入るには十分なサイズがそこにあった。

 

「ヘスティア様………ありがとう……」

 

 そう言って今度こそ俺は深い眠りについた。

 今度は夢を見ないことを祈りながら。

 

「あの日、キミを拾った時から守ると決めた。大丈夫、いつかキミを立ち直らせて見せる。だから……だから、今はゆっくりと眠るんだ……」

 

 




次回から本編


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