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転生王子は錬金術師となり興国する 作者:月夜 涙(るい)

第三章:転生王子は強国する

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第十八話:転生王子と別れと覚悟

 カルタロッサ王国に無事帰ってきた。

 そして、その足でアガタ兄さんのもとへ行く。

 相変わらずアガタ兄さんは忙しそうに書類仕事に精を出している。

 そろそろ、城へ民を移住させることもあり、てんやわんやしているのだ。


 千人の民を城に住ませるというのはけっして容易いことじゃない。

 彼らを納得させ、なおかつ快適に暮らせるように配慮をしないといけないのだ。

 俺はあくまで、それが可能な食料を生産しただけに過ぎず、ほかはアガタ兄さんにまかせていた。

 アガタ兄さんが顔を上げたのを合図に口を開く。


「ただいま。向こうのフェイアル公爵と顔を会わせることには成功したが、交渉は決裂した。戦争になる」


 そして、フェイアル公爵との交渉した際の状況をなるべく事細かく話す。

 アガタ兄さんは目を細めて息を吐いた。


「へえ、そうか……ふうん」

「意外そうな顔だな。交渉がうまくいくと思っていたのか?」


 今回、俺自身が出向いたのは、万が一でも戦争にならない可能性を探るため。

 小国である以上、王子ぐらい高い身分の者が出向かないと交渉相手として認識されない、交渉する以上政治的な判断が必要になり、しかも襲われる可能性が高いため、ある程度の戦闘力がなければならない。

 だからこそ、アガタ兄さんでもタクム兄さんでもなく俺でなければならなかった。


「僕もヒーロと同じで、あの条件を呑む確率は低いと思っていたよ……でもね、そういうふうに真っ向から蹴りつけるのは意外。フェイアル公爵と直接の面識はないんだけど、聞いた話じゃもっと狡猾な男って感じだった。僕が予測していたのは、こちらの提案を呑む振りをして油断させてからの奇襲だったんだ」

「たしかにそれが一番かしこいな」


 逆に言えば、今回のフェイアル公爵がした対応はぬるいとも言える。

 結果的にこうして俺を逃し、カルタロッサ王国に身構えるだけの時間を与えてしまった。


「所詮、人づてに聞いた話だからね、間違いはあるかもしれない……あるいは、ヒーロの何かが、あの男を狂わせた。そうであるなら、この戦いの突破口になるかもね。ちょっと考えてみるよ。まあ、理由なんて単純かもしれないけどね。もう一つの噂は本当だったみたいだし」

「フェイアル公爵が男色家、それも美少年好きで囲っているって話か」

「ああ、ヒーロも気に入られたようじゃないか」

「やめてくれ、気色悪い」

「別に珍しくもないんだけどね。武人にはそういう輩が多い。もしかしたら、戦場に長くいると女性の柔らかい胸より、男の固い筋肉のほうが魅力的に映ってしまうようになるのかもね」


 茶化すようにアガタ兄さんが言う。

 武人に同性愛者が多いというのは初耳だ。


「用件は以上だ」

「うん、わかった……それと、父上の件だけどね。まだ、僕の気持ちは変わっていない。現状維持を続けてほしい」

「俺はそれに従うよ。政治的な判断はアガタ兄さんのほうが上だ」


 父上の件というのは、病床で眠り続ける父を治療するかどうかだ。

 俺は海の向こうで父を直すのに必要な薬の材料を手に入れている。

 適切な薬を作り、それを少しずつ与えていけば二ヶ月もすれば体を起こすことができる。

 そして、俺が帰還してから二ヶ月などとっくに経っていた。

 アガタ兄さんの指示のもと、あくまで病状を進行させない程度に治療を抑えているのだ。


「父上を治すなと言った僕を軽蔑するかい?」

「それがこの国のためだと判断したんだろう? なら、軽蔑なんてするものか」


 アガタ兄さんの行動には全て理があり、正しいのだ。

 俺の言葉をうけてアガタ兄さんが苦笑する。


「父上は優秀な方だ。だけどね、一人でなんでも決めたがる。そして、あの人の価値観は凝り固まってしまって、新しい価値観を受け入れられない。起こせば、きっと自分の物差しで答えを出して、それを貫き通そうとする。はっきり言って、今目を覚ますのは国にとって害悪なんだ。……ヒーロのおかげで、この国は変わり始めたところだけど、だからこそ不安定、ちょっとしたことでばらばらになる」


 それこそが、父を起こさない理由。

 父を起こしてしまったら、最悪この国が真っ二つに割れてしまう。


「父さんを起こすのは、戦争が終わって、国が安定するまで待つ。わかっているさ」

「……ヒーロ、このことはタクム兄さんとナユキには言っていないよね?」

「そうするなら、アガタ兄さんだけに治せるようになったことを言ってない。俺も同類だよ。治さないほうがいいかもしれない。そう思ったから、こうしたんだ。もし、アガタ兄さんが罪の意識を感じているなら俺も同罪だよ」

「そうか、僕とヒーロは同類だ。でも、タクム兄さんとナユキは違う。優しすぎるし、根っこの部分で話せばわかる、心は通じ合うと信じている」

「そうだな。……でも、だからこそバランスが取れていいと思う。もし兄弟全員が、俺やアガタ兄さんみたいな考え方だったら、こうして三兄弟で力をあわせることなんてなかった」


 俺が最後まで、アガタ兄さんとタクム兄さんと手を取り合うことを諦めなかったのは、ナユキが居たからだ。

 ナユキが俺たちを取り持とうとし、二人の兄が本気でこの国を救おうとしていることを教えてくれた。

 もし、ナユキがいなければ、一人でこの国を救おうとし、……失敗しただろう。


「ヒーロのそういう前向きなところを見習いたいよ。さてと、いつでも民が城に移住ができる状況は整った。これからは哨戒を強化して、戦争の前兆が見えたら移住を始める。ヒーロのほうも海に向かうトンネルの閉鎖、それから……アレの準備を頼む」

「任せてくれ。そうだな、トンネルの閉鎖は五日後にする」

「なら、その周知をしておこう。塩は一年以上在庫がある。しばらくは海にでなくて良さそうだ」


 食糧関連ではいい意味で誤算があった。

 今までカルタロッサでは冬には食料が穫れないというのが常識だったのだ。

 なにせ、作物は育たず、森の恵みにも期待できないうえ、雪が積もった山では狩りがおぼつかない。


 しかし、地下トンネルは雪が積もることがなく、その気になれば海にまで出向ける。そして、冬だろうと漁ができる。

 そのため、冬の間も塩と魚は備蓄を増やすことができた。

 これは籠城戦をする上で大きなプラス。

 一応、隠し入り口を設けて、それでも俺たちは利用できるようにするが、それも最小限でないといけない。

 こうして、多くの備蓄があればその機会を減らせる。


「じゃあ、俺は行くよ。トンネルを塞ぐまえにどうしてもしないといけないことがある」

「彼らのことだね。……そうだな、これを彼らに」


 アガタ兄さんが渡したのは、国外で入手した酒で贈呈用にストックしている中でも最上級のもの。


「いいのか?」

「ああ、それだけの働きをしてくれた。僕なりの感謝の気持ちさ」

「彼らも喜ぶ」


 なにせ、彼らは無類の酒好きだ。

 量だけじゃなく、質もこだわる。彼らなら、この酒の価値と、それに込めたアガタ兄さんの気持ちを理解してくれるだろう。


 ◇


 翌日、魔の森を抜けた先の海岸に要した港に来ていた。

 そこには船が停泊している。


「本当におまえたちが来てくれて感謝している。俺たちだけじゃ、城壁と装備を完成させるなんて不可能だった」


 ここに来たのは、冬の間働いてくれたドワーフたちを見送るためだった。

 冬の間だけという約束だったので、そろそろと帰さないといけないし、そもそもこれからカルタロッサ王国は戦争になる。


「お互い様だ。あんたが来てくれなきゃ、俺らはいまでも人間の奴隷だ。まあ、こっちでもこき使われたが、楽しかったし、土産もたんまりもらった。向こうのみんなも喜ぶさ、ドワーフの作る酒もいいが、あんたらの作る酒もいい」


 船には食料と酒樽が山積みになっている。

 彼らに対する報酬だ。

 その中には、俺とナユキが作った酒もある。メロン酒にエール。ドワーフたちでは作れない酒。

 彼らはそれを気に入ってくれている。


「そうか。それと土産の追加だ。俺の作った酒は、材料が特別な酒だが、こいつは他国の酒。あたりまえの材料と技術、それを極限まで研ぎ澄ませてできた一本。アガタ兄さんからの贈り物、大事に飲んでくれ」

「そいつは楽しみだな……だが、向こうのみんなで呑む分には少ねえ。船の上でやらせてもらう。それぐらいの役得いいだろ?」


 俺とドワーフたちは笑い合う。

 彼らは気持ちいいやつらだ。

 能力だけじゃなく、人としても好感ももてる。


「じゃあ、俺らは行くわ。楽しかったぜ、婿殿」

「こっちも勉強になったよ」


 ドワーフたちが船に向かう。

 そのタイミングで俺は深呼吸した。

 そして、サーヤと、サーヤと共に来た五人のドワーフたちに向き直る。

 今、この瞬間まで悩み続けたことがある。その答えがようやく出たのだ。


「おまえたちも戦争が終わるまで帰ったらどうだ? これからこの国は戦争になる。サーヤたちまで命を賭けることはない」


 ドワーフたちが動揺し、何かを言いかけ、それをサーヤが静止して一歩前に出る。


「どうして、今になってそんなことを言い出すんですか?」

「正直、悩んだんだ。サーヤたちも帰すべきだとはずっと思っていた……ただ、戦争中、確実にサーヤたちの力が必要になる。施設・設備・武器の修復や補充、戦力としても期待できる。サーヤたちが居なくなるのは大きな痛手だ。だから、ずっと言えずにいた。おまえたちを帰すことで救えるはずだった民の命を失うかもしれない。だけどな、そのためにサーヤたちをつなぎとめるのはおかしい。今になってようやく、俺たちで戦い、勝つと決心できた。悪かった、もっと早く言い出すべきだった」


 俺の国、そのことだけを考えるなら、これだけ有能な人材を手放すのはありえない。

 人間の百倍以上の効率で工事・鍛冶が可能。戦時中には凄まじく有用。

 それでも、それは俺の都合であり、このままこの国へ縛り付けるのは彼らへの裏切りだ。


「ふう、正直ですね。でも、そんなふうに言ってくれる人を見捨てて帰れるわけないじゃないですか。私は、ヒーロさんの妻(予定)ですからね。ますます好きになって離れられなくなっちゃいましたよ。どうしてくれるんですか。……っというわけで私は残ります。みんなは気にせず帰ってください」


 サーヤが腕に絡みついてくる。


「いいのか?」

「いいんです。ヒーロさんは私たちを救うために命を賭けてくれたんですから、私だってそうしないとフェアじゃない。……それ以上に大事なことがあります。好きになっちゃったから仕方ないんです。それに、私が好きになったのはヒーロさんだけじゃないんですよ。……ヒーロさん以外の方も、人間なのにドワーフの私たちによくしてくれてます。あの人達に死んでほしくない。ここはもう私にとって第二の故郷です」

「そうか……ありがとう」


 そこまで言ってくれたんだ。

 断るのは彼女への侮辱だ。

 そして、サーヤ以外のドワーフたちが顔を見合わせ頷き合う。


「姫様が残るなら俺らもだな。姫様を置き去りにして帰ったらみんなに殺される」

「姫様が言う通り、ここ住心地良いし、いいやつ多いもんな」

「っていうわけで、引き続き頼みます。婿殿」

「そうか……助かる」


 結局、サーヤと最初の五人はこの国に残ってくれることになった。

 その様子を見ていた、帰るドワーフたちが手を振り、それから船が動き始めた。

 あっという間に小さくなっていく。

 冬の終わりと、小さな別れと、再認識した絆。

 もう、後戻りはできない。

 俺にできることは信じて残ってくれたみんなを傷つけないように戦うこと。

 ……戦争で、誰一人失わないなんてありえない。それでもそのありえないをやり遂げたい。

 そのために全力を尽くすのだ。

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