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【社説】

社会保障 将来像の議論始めよ

 安倍晋三首相は参院選結果を受けて憲法論議を進めることを表明した。それが民意と言うが、疑問だ。むしろ政府や国会が議論すべきは暮らしを支える社会保障の立て直しではないのか。

 首相は参院選後の会見で憲法論議について「少なくとも議論は行うべきだ。それが国民の審判だ」と強調した。

 確かに首相は選挙戦で憲法論議の是非を争点に掲げ、自民、公明両党が改選過半数を獲得した。だが、自民党だけを見れば改選議席数を減らしている。

 選挙結果を受けた共同通信の世論調査では安倍政権下での改憲に「反対」は56・0%になる。逆に、政権が優先的に取り組むべき課題(二つまで)は「年金・医療・介護」が48・5%だった。

 やはり議論すべきは将来の社会保障制度のあり方ではないのか。

 選挙戦では、首相は消費税率の引き上げは訴えたが、制度が置かれている厳しい現状について誠実に語りかけたとは言い難い。

 野党も年金問題の争点化を狙ったが、論戦は上滑りして深まらなかった。国民から見ると将来の生活への不安が解消されていない。

 八月に公表された二〇一七年度の医療や介護、年金などの社会保障給付費は百二十兆円を超えた。今後、政府内では膨らむ費用を抑える制度の見直し議論が始まる。

 年金は財政検証結果が近く公表され、給付の実質水準が低下する見通しが出る。政府は給付の充実策と合わせ丁寧に説明すべきだ。

 介護保険はケアプラン作成費の利用者負担導入、医療保険は七十五歳以上の患者の窓口負担の一割から二割への引き上げなどが検討されそうだ。

 これら給付減や負担増、社会保障の財源となる消費税率の引き上げは、団塊世代が七十五歳以上となり医療・介護のニーズが高まる二五年に対応するものだ。

 さらに高齢者数がピークに近づく四〇年問題が待ち受ける。それを乗り越えるための議論を始めねば対応が間に合わなくなる。痛みを伴う改革を先送りしたままでは制度を支える将来世代への責任を果たすことにならない。

 与党からは新たな会議の設置を求める声が上がり始めた。政府はどんな考え方で制度を立て直すのか、給付と負担のバランスをどうとるのかなどの将来像を決める議論の場をつくるべきだ。

 国会も責任がある。与野党には危機感を共有し知恵を出し合う努力を求めたい。

 

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