銃が氾濫する社会が安全であるはずがない。銃乱射事件が立て続けに起きた米国である。悲劇は相も変わらず繰り返される。米国は抜本的な銃規制に踏み出すべきだ。それが政治の責任である。
南部テキサス州での事件の容疑者である白人の男は、地元の町から千キロも離れたメキシコ国境沿いのエルパソにやって来て、ショッピングモールで銃を乱射した。
エルパソはヒスパニック(中南米)系の住民が八割を占める。男は犯行直前、ヒスパニック系移民がテキサスを侵略しているとする投稿をネット上にしていた。犯行は憎悪犯罪(ヘイトクライム)の可能性が高い。
トランプ大統領は事件を受けて「この国にヘイトの居場所はない」と犯行を非難したが、移民への敵意と偏見をあおる言動を繰り返してきたのはトランプ氏本人である。
政権誕生以来、白人至上主義団体は勢いづき、ヘイトクライムは増加した。「大統領が人種間の反目を助長した」との批判をトランプ氏は謙虚に受け止めるべきだ。
昨年二月、南部フロリダ州の高校で十七人が犠牲になった乱射事件後、友人を失った同級生はじめ若者が銃規制を要求して立ち上がった。首都ワシントンでは十万人を超える規模のデモとなり、運動は大きなうねりとなった。
民間団体「ギフォーズ銃暴力防止法律センター」によると、高校乱射事件後の約一年半の間に、全米五十州のうち三十二州と特別区のワシントンで規制強化の法制化が進んだ。
ところが連邦レベルではほとんど前進がない。今回の事件でもトランプ氏の腰は定まらない。
憲法で武器保有の権利が認められており、規制反対派はこれを後ろ盾にする。政界に強い影響力を持つロビー団体の全米ライフル協会も大きな壁になっている。
だが、三億二千万余の人口よりも多い銃が出回っているともいわれる米国では、年間に自殺を含めて四万人近い人が銃で命を落とす。非営利団体「銃暴力アーカイブ」によると、今年に入って乱射事件は二百五十五件あり、自殺者を除く犠牲者は八千九百人余に上る。
エルパソでは恐怖に駆られたヒスパニック系市民が銃を求めて銃器店に押し寄せているという。
こうした現実を放置して惨劇を繰り返してはならない。購入時の身元調査の厳格化などを手始めに規制強化を図るべきだ。
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