香港の「逃亡犯条例」改正をめぐる政府と若者らの対立が先鋭化している。暴力を伴う抗議行動に対し、中国政府は軍の出動すら示唆するが、軍も暴力もこの政治危機を救う解決策にはほど遠い。
犯罪者の中国への移送を可能にする条例改正案に反対する若者らの抗議が暴力性を帯び、それを容認するような空気が香港社会に生じていることが気がかりだ。
香港では五日、大規模ストライキで航空機二百便余が欠航になり、地下鉄駅では政府を批判する市民が列車のドア開閉を妨害し、乗客との小競り合いも頻発した。
七月一日に若者らが立法会(議会)庁舎を破壊・占拠して以降、抗議は過激化。最近では警察署の前で段ボールに火をつけたり、警察官にレンガや傘を投げつけたりするなど暴力行為が目立つ。
抗議行動が始まった六月以降の逮捕者は四百二十人に上る。
香港の自営業者は「政府は若者の正当な抗議に『暴乱』のレッテルを貼り、条例案撤回などの要求に全く耳を傾けない。暴力的な抗議にエスカレートするのもやむをえない」と同情を示す。
だが、香港政府トップの林鄭月娥長官は五日の記者会見で「過激な暴力が香港を危険な状況に追いこんでいる」と述べ、若者の抗議行動を一方的に批判した。
抗議を過激化させても、条例案撤回などの譲歩を引き出せる保証はない。さらに、穏健で合法的なデモを主張する人たちとの間で社会の分断が起きれば、むしろ対政府圧力が弱まることにもなる。
香港の「高度な自治」を踏みにじる中国を批判し、若者らの抗議デモに理解を示してきた国際社会も、暴力は容認しないであろう。
懸念されるのは中国政府の強硬姿勢だ。中国軍駐香港部隊は最近、暴動鎮圧訓練を紹介するビデオを公開した。中国国防省報道官は会見で、デモ隊が中国国章に塗料を投げつけた行為などを「絶対に許容しない」と強烈に批判し、軍出動の可能性も示唆した。
軍が民主化運動を武力鎮圧した三十年前の天安門事件は中国の国際的孤立を招いた。軍が人民に銃口を向けるようなことが二度とあってはならない。
今、最も非難されるべきは林鄭長官の無策ぶりである。長官を支えるべき公務員ですら大抗議集会を開いた。林鄭長官は改正案撤回を認めるよう中国政府を説得し、若者との対話の糸口をつかむよう全力を尽くすべきであろう。
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