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【社会】

劇場型、踊らされ 「小泉議員、滝川さん結婚」官邸で異例発表

安倍首相に結婚すると報告した後、記者団の取材に応じる小泉進次郎衆院議員(左)と滝川クリステルさん=7日、首相官邸で

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 首相官邸で七日、電撃的に結婚を発表した小泉進次郎衆院議員(38)とフリーアナウンサーの滝川クリステルさん(41)。ワイドショーの放送に合わせたような時間帯に飛び込んだ慶事を、各局は生中継を交えて大々的に報じた。安倍晋三首相も登場した前代未聞の「劇場型」展開に一役買ってしまったメディアの課題を指摘する声もある。

 「きょうお時間ありませんか」。小泉氏や菅義偉官房長官の話では七日午前、小泉氏が菅氏に電話をかけ、急な面会を要請。滝川さんの名前は出なかったが、午後一時半ごろの面会直前、小泉氏は「滝川さんも一緒に行く」と菅氏に伝えた。

 菅氏は小泉氏と同じ神奈川県選出で、しばしば菅氏の執務室を小泉氏が訪ねる間柄。小泉氏から滝川さんの名前が出ても、結婚報告とは「ぴんとこなかった」という。実際に二人から報告を受けると「総理にも良かったら」と、政権トップにも報告するよう勧めた。

 首相との面会を済ませた二人は、玄関ホールで大勢の報道陣の前で立ち止まる。小泉氏は「私事で大変恐縮ですけど」と断り、結婚すると表明した。「この場所はまさに政治の、権力の中枢」と自ら語るように、異例中の異例となる官邸での結婚発表だった。

 NHKは午後二時すぎからのニュースで速報した。日本テレビは生放送番組「情報ライブミヤネ屋」で冒頭から番組終了まで繰り返し二人の会見の様子を報じ、菅氏が笑顔でコメントする様子も伝えた。TBS、フジテレビも同様に多くの時間を割き、取材に応じた首相の発言も紹介した。

 報道について、水島宏明上智大教授(テレビ報道論)は「あの時間帯に会見されたらテレビは放送するしかない。それがワイドショーの特性です」と述べつつ「目立つのはメディア露出の巧妙さだ」と指摘する。

 自民党は五月、ゲーム「ファイナルファンタジー」シリーズのイメージ画で知られる天野喜孝さんが首相らを侍風にデフォルメしたイラストを発表。講談社の女性ファッション誌「ViVi」とタイアップし、若い女性を登場させたネット広告を打ち出すなど、ソフトな宣伝が話題を呼んだ。

 小泉進次郎という世襲政治家のプリンスが配偶者を得て、世の中の期待に応えていく-こんな政治的意図が隠れた物語づくりに、メディアは結果的に加担したと水島氏はみる。「ニュースとして祝福一色で良かったのか、違和感を覚える人もいただろう。今後、検証していくことが必要だ」

◆ジャーナリストら違和感

 官邸での「結婚発表」について、政治ジャーナリストの角谷浩一さんも「発表する場がなぜ官邸になるのか、説明がつかない。極めて違和感がある」といぶかる。「自民党の厚生労働部会長なら部会の中で報告すればいいだけで、夫婦そろって首相や官房長官にまでお披露目しにくることなのか。周囲の誰かの助言に乗ったのかもしれないが、官邸を政治的に利用したという点は否めない」と指摘する。

 上智大の音好宏教授(メディア論)は「安倍政権は好意的に取り上げられるメディア露出を増やして支持率を上げることをずっとやってきている。官邸での発表は、政治的に存在感を示したい小泉氏側と利害が一致した形だ」と分析。「政治家にとって結婚は極めて政治的な問題。本来、2世議員の問題など報じるべきことがあるのに、今回、二人のなれそめなどに終始している。お祝いはしても、政治権力を監視する意識を持って報道すべきだ」と憂慮した。 (小倉貞俊、石原真樹)

 

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