サンライトノート

主に映画や小説、漫画等の感想を一定量吐き出したい欲を満たすためのブログです。本が出るとかなったら告知もするかもしれません。

ラノベSF5選

何かラノベブログの間で流行ってるっぽいので自分も乗ってみることにしました。あんま数読んでないので5作だけだけど。


錆喰いビスコ (電撃文庫)

錆喰いビスコ (電撃文庫)

 

 ポストアポカリプス物ってやつなのかな。

兵器の暴走により全土を「錆」に覆われた未来の日本を舞台に、特殊な作用を持ったキノコの胞子を矢に纏わせて戦う無双の「キノコ守り」赤星ビスコと美貌の少年医師猫柳ミロの織りなす冒険譚。

ジブリ映画や『ONE PIECE』を彷彿とさせる、荒唐無稽ながらも緻密で色鮮やかな作品世界と生命力に溢れたキャラクター、あまりにも濃密な少年同士の関係性が魅力的。文章には躍動感があり、まるで映像が目に浮かぶようです。

2巻では「真言」によって摩訶不思議な力を操る呪術集団が登場し、1巻の世界観からは予想もつかないオカルト要素に正直それはなしじゃないのと思ってたんですが、話が進むとそれが作品世界の根幹に至る技術であることが発覚し、SF的にも(SF的って何よと言われたら困るけど)ワクワクさせてくれます。

めちゃくちゃ面白いにも関わらずそんなに売れているという話も聞かないので刊行決定済らしい3巻より先が出るか正直不安なんですが、この物語を最後まで見届けたくてたまらないからとにかく今からでも売れてくれと願ってやみません。

 

ネットホラー「洒落怖」(死ぬほど洒落にならない怖い話)をモチーフとする怪異の跋扈する異世界へと迷い込んだ女子大生二人組が怪異を攻略していくSFホラー、そして百合。

僕が洒落怖好きなのは大きいと思いますが、ホラー存在の侵攻をSF的な世界観に落とし込み、しかしそれらの持っていた「異常な世界に触れてしまった」という恐ろしさはしっかりと再現していて両面で秀逸。あまり詳しくないので滅多なことは言えませんが、2巻ではSPC的な研究機関も登場し世界観の広がりを感じさせます。

ネットロアという題材もですが、女子大生二人の百合的な関係性だとか合法ロリ科学者だとか読む前の想像以上にオタクオタクした小説ですごく楽しい。あと、普通にラノベレーベルのラノベばりに挿絵がたっぷり。

洒落怖知らない人にもオススメだし、これを読んで元ネタの洒落怖を漁ってみるのもいいんじゃないかと(今読むとツッコミどころが多かったり嫌韓臭かったりするのも多いけど)。個人的なオススメは2巻に登場し、主人公も「ネットロアで一番気味が悪い」と評する『須磨海岸にて』。

 

know (ハヤカワ文庫JA)

know (ハヤカワ文庫JA)

 

 

 

情報技術が超高度に発達し、市民が文字通り身一つで大量の情報にアクセスできるようになった未来社会。情報のメッカとも言うべき都市となった京都を舞台に、その技術の粋を集めて生み出された一人の少女が、「究極の知」を求める物語。

野崎まど作品は『なにかのご縁』と短編集を除けば基本的に「人知を超えた創作(をする女性)」をテーマにしていて、デビュー作からのそのテーマの集大成が『2』だと思うんですが、この『know』もテーマ面では似たところがありながら、作中での結論と、そこに旅立っていく少女の姿により強いロマンを感じられたので個人的にはこちらの方が好き。

(あと『2』はメディアワークス文庫での氏のそれまでの作品を押さえないと楽しむのが難しいと思うので、単体で完結しているこちらの方がオススメしやすい)

 

謎の生体兵器「ギタイ」と人類の命運を賭けた戦争の只中で死亡した新兵キリヤ・ケイジは、「死亡する直前の約30時間」をループするという奇妙な状況に陥ります。

戦場に出ても脱走を図っても死亡し、それがスイッチとなってループが発生すると悟ったケイジは無際限に訓練と実戦経験を繰り返すことのできるループの中で戦闘技術を身に着け、この戦場で生き残ることを決意。

戦場で出会った人類最強の兵士リタ・ヴラタスキもまたループ経験者であること、このループがそもそもはギタイの能力によってもたらされたものであることを知り、リタと共闘する中で絆が芽生えていきます。

ループモノには疎いですが、自分は何故この状況にあるのか、どうしたらこの状況から脱せるのかを「無限に試せる」ことを武器に解き明かそうとする過程や、初めての実戦でうんこ漏らして死ぬはずだった主人公が人類最強と肩を並べるまでに成長する様、リタ・ヴラタスキが人類最強に至るまでのドラマなど、広くオススメできるエンタメ性を備えていると思います。

 

人類最初の宇宙飛行士の名前を貰い、宇宙に行くことを夢見る女の子と、彼女に憧れた少年が成長していき、大人になり、その夢を叶えるまでがとても美しく、瑞々しく描かれています。

テーマである宇宙も、二人の関係の変遷もそれぞれを取り巻く日々の暮らしも、とにかく美しくありたい、魅力的でありたいという感情に貫かれているよう。

「実在するモチーフを讃える話」に弱いんですが(『先生とお布団』における「ことば」だとか、『博士の愛した数式』における数学だとか、『羊と鋼の森』のピアノだとか)、この小説も二人の主人公を通して宇宙へ行きたいという夢を讃える、たしかに宇宙は素敵だ、宇宙へ行ってみたいという気にさせてくれる、そんな作品でした。