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 ロシアはかねて対話のための建設的な雰囲気を乱すな、と日本に求めてきた。その国の首相自らが挑発的な行動にでた。

 北方領土の択捉(えとろふ)島へのメドベージェフ首相による訪問である。先週に現地入りし、「ここは我々の土地だ」と語った。

 昨年11月に安倍首相プーチン大統領は平和条約交渉を加速させることで合意し、両国は交渉担当者を決めて協議を重ねている。そこに冷水を浴びせる言動に対し、日本政府が抗議をしたのは当然だ。

 一方で、見落とせない事実もある。今回で4回目となるメドベージェフ氏の北方領土訪問は、領土問題で譲る考えはないというロシア側の基本姿勢を映している。安倍政権は現実を直視し、プーチン氏との個人的関係を頼みとする交渉を根本から見直さなければならない。

 メドベージェフ氏は今回の択捉訪問を前に、ロシア独自で北方四島の発展に取り組む姿勢を鮮明にした。安倍政権が重視する共同経済活動への期待は一切、口にしなかった。

 無理からぬことだ。6月の日ロ首脳会談では、共同経済活動をめぐり「観光」と「ごみ処理」の2分野で試行するという形だけの合意にとどまり、本格化への道筋は描けていない。

 大きな原因は、ロシアが国内法を四島での経済活動に適用する主張を曲げないからだ。関係する日本人が現地入りするための新たな仕組みにしても、プーチン氏はサハリン州全体を制度の対象とするよう求めている。

 四島がサハリン州の一部だという主張を認めさせる意図があるのは明らかであり、日本としては受け入れがたい。

 安倍氏は、共同経済活動について「ロシアの人々が日本人と一緒に仕事をして、豊かになったという実感を持つ意味は大きい」と強調してきた。しかし、こうした展望は現状では絵に描いた餅だ。

 共同経済活動をめざすという合意からすでに約3年。安倍政権は昨年、歯舞(はぼまい)と色丹(しこたん)の2島だけを当面の交渉対象とするという新方針に転換した。だが結局は、ロシアの攻勢を招くだけの結果に終わっている。

 この間、安倍政権は国会論議や参院選に向けた論戦で、こうした実態を語ろうとしてこなかった。国民の前で真相を覆い隠す姿勢を改め、速やかに説明責任を果たすべきだ。

 こうした中でも、安倍氏は来月にロシアを訪ねてプーチン氏と会談する意向だという。ロシアは重要な隣国であり、首脳間で建設的な意見交換をする機会は大切だ。しかし、展望のない交渉を続けるだけなら、訪ロの意義は色あせるだろう。

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