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【社説】

渋野選手全英V 笑顔を大切に見守ろう

 女子ゴルフの渋野日向子選手が、AIG全英女子オープンで優勝する快挙を成し遂げた。心から祝福したい。今後は周囲の状況も変わり、その中でも競技に集中できる環境づくりが大切となる。

 渋野選手の優勝には、本当に驚かされた。

 プロ一年目で海外での試合は初めてだったにもかかわらず、強気のゴルフで攻め続ける。男女を通じて一九七七年の樋口久子さんしか達成できなかったメジャー勝利を成し遂げ、「苦しい時でも笑顔」を貫いて私たちの心を明るくしてくれた。

 強さの背景には投てき競技の選手だった両親から受け継いだ身体能力に加え、子どもの時にソフトボールに熱中したことも大きかった。米ツアーで賞金王を獲得した岡本綾子さんも、かつてはソフトボールの選手だった。複数のスポーツを経験することは、体のバランスを整えるだけではなく、視野を広げることにもつながる。

 ライバルの存在も大きかった。渋野選手は黄金世代の一人。九八年度生まれの世代は二〇一四年に勝みなみ選手、一六年に畑岡奈紗選手が、ともに高校生の時に国内プロツアーを制したのを皮切りに、渋野選手を含めて既に八人が優勝を経験。子どもの時からお互いに磨き合ってきた。

 この世代に共通するのは日米のツアーで活躍した宮里藍さんを幼少期に見てあこがれ、ゴルフを続けてきたことだ。スポーツは世代から世代に引き継がれていくことで、さらに大きな力が生まれることを実感する。

 東京五輪への期待も高まる。ゴルフの出場枠は各国二人だが、来年六月二十九日時点で世界ランク十五位以内に入っている選手は各国最大四人まで出場できる。渋野選手は今回の優勝で、日本勢では畑岡選手の十位に続く十四位に上昇。他の選手が発奮して上位に入ってくれば、出場枠も広がる。

 ただ、気掛かりなこともある。帰国直後、相次ぐ記者会見をはじめ過密日程に応じたのは、できるだけ多くの人に喜んでもらいたいという渋野選手側の思いからだろう。しかし、今後はすべてに応えていたら競技に集中できない。周囲の環境が変わって心身のバランスを崩した選手は、過去に多い。

 メディアやスポンサー企業などを納得させながら、巧みに交通整理するマネジメントが重要になってくる。私たちも、あの笑顔を大切に見守っていきたい。

 

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