ざっつなオーバーロードIF展開 作:sognathus
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「ふむ、ふむ……」
デミウルゴスが言っていた牧場はアインズの予想通り人間を家畜としたものだった。
ただひとつ予想とは違ったのは、その光景が想像以上の地獄絵絵図だったことである。
羊皮紙に使う皮を原材料となる
他にもアインズが確認した光景としては家畜扱いなので当然全員全裸で男女関係なく同じ所で放牧、男は否応なく女の裸を見ることになるので大体の個体は常に生殖器を勃起させている、トイレ代わりの肥溜めのような箇所が数カ所あり、
何の囲いもないその場所で排泄は行わている。
食事は基本的に死んた人間の肉をハンバーグやウインナーに調理した物、牧場中央に二箇所設けられている大きな溜池を飲料と入浴の目的に分けて使わせている、異種族交配の実験も行わてれており、種族ごとに最も効率の良い交尾法の探求等々。
大凡地上で考えられる悪行の中でも人間にとって最悪と言える地獄のような光景がそこらじゅうで見て取れた。
それでも元人間のアインズがアンデッド化の影響を受けているとはいえ、この悲惨な光景にそれほど動揺することなくそれを事実として受け入れられたのは、彼が現実世界で学生の時に学校の授業で行われたとある100年以上前にあったとある世界規模の戦争に関心を持ち、その中でも戦争の最も『悲惨』と言える部分に何故か惹かれたらだ。
アインズがまだ鈴木悟だった頃、彼は好奇心に突き動かされるままに『その部分』の記録について夢中で調べ、よく同じ人間としてこんな事を考えたものだ、できたものだと恐怖と感心が混同した複雑な気持ちになった。
そして今、その地獄のような世界が、人間によるものではないが、自分の手によって実現されている。
その事実に、アインズは自分の認識が及んでなかったとはいえ心のどこかで感動しているのを感じた。
(俺は今歴史に残る事をしている)
内容の良し悪しは置いておいて、先ず間違いなく目の前で行われている事は、この世界の歴史において起こったどんな悲惨な出来事を超えるものだろう。
残念なのはいくら歴史に残るほどの行いだからといって世間一般、少なくとも人間側としてはとてもではないが表の歴史として残せないであろうほどの悪行ということである。
(常識的に考えてこれは先ず地上に知られるわけにはいけない事実だよな……)
だからこそこの牧場で飼われている人間たちの運命は決していた。
生きるも死ぬも人生のすべてが
だがこうも考えられた。
地上から攫ってきた人間にはともかく、ここで生まれた人間にとっては世界の全てなのである。
亜人も含めて動物の中で唯一理性というものを持っている人族であるが、生まれたての赤ん坊の頃から家畜として育てればただの獣となりえるのではないか。
現実の世界のいつの頃かに、野獣に育てたれた子供が保護されたという記録を見た記憶をアインズは思い出した。
(確かその子は最終的には保護された当時よりはマシな状態になりはしたけど、最後までまともに人語を話せなかったとかそんな感じだったような……)
「……デミウルゴス」
「はっ」
アインズは傍らに控えていたデミウルゴスに問うた。
「ここの人間、繁殖させているようだが、この牧場しか知らないその生まれた子供はどのように扱っている? やはり地上から攫ってきた人間と違って最初から『羊』としてか?」
「正確にお答えするのならば、『羊』にしようとしている、といったところですね」
「ふむ。それは人間は他の動物と違って繁殖に時間がかかることと関係があるという事だな」
「仰る通りでございます。ここで生まれた赤ん坊は全てあちらの、ここより少々離れたところに建設中の別の牧場に隔離するようにしております」
デミウルゴスが指をさした方を見ると、確かにまだ建築中の建物が目立つ、入り口が門で遮られた小さな別の牧場があった。
「塀や柵がないようだが、障壁も兼ねた幻影魔法でも施しているのか?」
「はい。下手に高い塀などを設ければ無垢な羊とはいえ元は人間。生まれ持った強い好奇心がその先の事に興味を抱かせるでしょう」
「その無垢な羊の現在の数はどれくらいだ?」
「ようやく600に届こうというところです。いや、人間は年中発情していても雌が生む子供の数は犬猫と比べてかなり少ないですからね。そこは異種族との交配でもっと効率の良い種を何れ作ることができれば、と思っております」
「……ふむ。それまでは攫ってきた人間に交尾に励んでもらうわけか。当然お前ならそれの効率を上げるための設備や方法も既に導入しているんだろうな」
「勿論でございます。羊専用に作ったルール、交尾専用の設備と発情をより促進させる精神覚醒魔法等々。現状行えるあらゆる手段を講じております。あと他に今考えておりますのは……」
それからデミウルゴスの話は1時間ほど続いた。
その話の大凡を聞き、改めて牧場の存在に納得したアインズは「そうか」とポツリ呟くと、
主が不意に草原の上とはいえ地べたに座ったことに驚いたデミウルゴスは、直ぐにアインズの為に椅子かその代わりになるような物を慌てて用意しようとしたがアインズはそれをやんわりと止めた。
「良い。ちょっとこうして考え事をしたくなってな。すまないが少し一人にしてくれるか? 大丈夫だ。お前に対して機嫌を悪くしたわけではない。話も全て納得したし
「左様でございましたか。恐れ多いお気遣いに唯感謝するばかりです。それでは何か御用がございましたら何時でもお呼び下さい」
「ああ、有難うデミウルゴス」
(さて)
丘の上から一人凄惨な牧場の様子を眺めながらアインズは考えた。
(酷いな。これは人間にとっては地獄だ。そして最初から獣の人間を作ろうとしている俺は完全な人外だな)
アンデッド化の影響があったからこそ受け入れられて理解できた。
ナザリックに必要なことだからこそデミウルゴスの考えも納得できたし評価できた。
だがそれでもなおこうして完全に割り切れずに何処か後味の悪さを感じるのは、自分の中に本来の自分である『鈴木悟』がまだ生きているからだというアインズは結論した。
その事に彼は少しホッとした。
(んじゃ、ちょっと観察してみるか)
自分が直接現場に赴いてそこで働いている者に話を聞くのも良かったが、いきなり
故にアインズは遠距離からでも観察ができる透視機能も付いた双眼鏡のような形をした魔法のアイテムを用意し、それを覗いた。
(うーん…………)
少しでも生産効率を上げる為に頻繁に交尾はさせているとは聞いていたが、一つだけアインズは懸念していることがあった。
そしてその懸念が当たっていた事を、アイムを使った時アインズは確信した。
(理性を飛ばして性欲に考えを集中させるのは良いけど、その魔法のせいで男はともかく女は……)
種馬である男の精子が常に出るのは、これも何か魔法か悪魔の知恵で補っているのだろう。
だから少なくとも男に関してはアインズの懸念には該当していなかった。
該当していたのは……。
(理性が飛んでいるおかげで苦しみは感じていないようだけど、やっぱり女はあれはそう持たないだろうな)
つい先程デミウルゴスが言っていた通り、犬猫と違って人間は一度に生むこ度の数は基本的に少ない。
それに加えて出産時に身体にかかる負担も相当なものなのだ。
故にあのように唯の子産み道具として使っていれば頭では感じなくても身体の方は直ぐに限界になり、女の殆どが交尾中か出産中に死んでいた。
それに対して男の方は意識が飛びすぎた事によるショック死だ。
男の方は制御すればまだ持たせることができるが、女の方はそうはいかない。
これでは効率が悪いということで異種交配による
(まぁだからこそこんだけ手間をかけて非道い事をしているから、良いスクロールが出来るのかもしれないけど……)
まだギリギリ人間に見える出産用の女や隔離された方で早速『獣』として扱われている生まれたばかりの赤ん坊を眺めながらふと思った。
(手間……か……。所業はともかく、もしかしてスクロールの質が唯純粋に、そして単純に、素材と製造過程が重要なのだとしたら……)
世界には歴史があり、その中には勿論『紙』も含まれている。
現実の世界で大量生産されありふれていたパルプ紙。
その前に使われていた和紙や羊皮紙。
この現代紙より前に使われていた紙は製造には手間やコストがかかり、だからこそ日常生活では殆ど使われなくなった。
ではその旧世代の紙よりもっと前の『紙』の原形のような物であれば……。
鈴木悟の頃、現実世界で戦争について調べる過程で歴史についても触れるのは必然だった。
(そういえば昔、古代の戦争について調べていた時、読んでいた本の中に『パピルス』という単語があったような……。確かあれは紙の代わりのような物で、作るのにえらい手間がかかったというのを見た気がするな……)
思い立ったが吉日。
アインズは早速図書館に赴くと目当ての本がないか司書長のティトゥスを呼んで調べてもらった。
「
「うむ。なるべく紀元前という言葉が使われている本が望ましい。ギルメンの中でも特に神話やTRPGが好きだったタブラさんなら、趣味が講じて関連する書籍を残している可能性があるのだ」
「なるほど承りました。暫しお待ちを」
暫くしてティトゥスは思った以上の大量に積み重ねられた本を、器用にバランスを保ちながらアインズの前に運んできた。
「これで全てではありませんが、して、その中でどういった趣の物をご所望でしょうか?」
「うむ。それなんだが……」
幸運は続くものである。
アインズの期待に応えるかのようにパピスルの歴史や製法に関して記された本は直ぐに見つかった。
「ふむ、なるほど。確かに仰る通り、製造に魔力が宿った大樹や植物系の魔物を使えば、より完成度の高いスクロールが出来るかもしれませんな」
「ああ、それに大量生産の方でも同じ素材を原料として使えば、上手くすれば今作っているスクロールと同じレベルの物が出来るかもしれない」
「素晴らしい。となると今のスクロールの原料となっている『素材』はその内不要となるのでしょうか?」
「いや、高級品のカバーや下地に使うつもりだからそれはない。それでもずっと必要な量は減るはずだからその辺りは今度デミウルゴスと相談しないとな」
「では牧場は今より小規模になるのですね」
「というより牧場から職場に変更だな。『素材』として使っていた者たちに仕事としてそれを命じ、多少の給金や自由に過ごす時間を代償として与える。忘恩の徒でなければナザリックに忠誠を誓うことだろう」
「深遠なるお考えにただただ感服する次第でございます。それではもう決まったも同然でしょうが、アインズ様の発案が成功することを私は此処で祈って待っております」
「有難う。良い物が来ることを期待して待っていてくれ」
こうしてかねてより課題であった高位の魔法スクロールを作りに対する改革がアインズによって実行され、最終的にその試みは大成功の結果に終わった。
一から全て手で作られた高級品は第六位界の魔法の行使に耐え、素材の更なる追求によってはそれ以上の魔法が行使できる可能性も十分に見て取れた。
後に連れてきて育成に力を注いだドワーフの向上した技術力果てに造り上げた紙の大量量産機で作られたスクロールもアインズの予想通り第三位界の魔法が行使でき、これによってナザリック内のスクロールの貴重性と生産の問題は一挙に解決した。
一つ問題というより気を遣ったのはデミウルゴスの件だった。
アインズから最初にこの案を訊いた時、彼は主の案を褒め称えつつも自分のアイデンティティを示す楽しみででもあった
しかしそれもアインズから先日王国襲撃の時に攫って保管した人間をモモンを表世界の英雄として確固たるものにする為に使わせてもらえないかと彼から頼まれ際に、ついさっき見せた落胆の様子は何処へやら、アインズの役に立てる事に喜びコロッと上機嫌になったという。
牧場で溢れた人間はどうなったのか。
改善された仕事場(元牧場)の様子とか。
王国から攫った人間をどう役立てたのか。
等についてはどの内話にできたらと思います。
感想のコメント返しも後ほど。