『みんな病んでるIS学園』   作:Momochoco
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day2 青い雫

 

 仕方なく制服から私服に着替える。

 鈴から強い釘を刺され授業の見学に行けなかったので仕方なく自分の趣味の読書に時間を費やすことにした

 

 備え付けの机に座り昨日借りてきた推理小説を読み始める。

 前の僕はどうかは分からないが今の僕は本を読むのが好きだ。時間を潰すにはこうして推理小説を読むのが一番いいと思っている。

 

 ページを開いていざ読み始めようかと思うのだが、何となく考え事をしてしまう。

 考えるのは鈴と生徒会長のこと、前の自分のことについてだ。

 そのことが気になって本に集中できないでいる。

 仕方ない一度、周りの状況を整理してみよう。

 

 まずは鈴について

 鈴は僕の幼馴染らしい。性格は活発でサバサバとしている。

 ただ大きな問題がある。僕に対してたぶんだが嘘をついている可能性がある。記憶がなくなる前、僕と付き合っていたと主張しているのだ。会長の発言や鈴の異様な束縛から嘘だと推理してはいるが確証はない。前の僕はそうした異常性を見抜いていたため付き合わなかったのだろうか?今の僕も鈴のことはそこまで嫌いではないが付き合いたいとは考えていない。

 これからの対応としてはあまり関わらないようにしていこう。

 

 次は楯無会長だ

 つかみどころのない性格をしていて僕からしたら疲れる相手だ。

 前の僕との関係はよくわかってない。ただ会長の話から前の僕が会長のことを良いように使っていたらしいことが分かる。

 そして問題は僕に対して異様な執着をしてくることだ。会うたびに自分の弟と呼び、自分の手元に置きたがって来る。鈴の束縛よりはまだましかもしれないが、それでも用心するに越したことはない。

 これからの対応としては出来るだけ会わないくらいしかできない。急に来られたらどうしようもないため抵抗はほぼ無意味なのだが。

 

 僕の目的はあくまで記憶を取り戻すことだ。そのためには過去の自分を知る必要がある。だが過去の自分について調べれば調べるほど碌なものが出てこない。

 会長を便利屋やアレに使ったり、アレをした形跡が結構あったり、喫煙グッズやアレな物があったりともしかしたら結構酷い奴だったのかもしれない。

 

 そんな罪深い過去でも僕は記憶を取り戻したいと考えている。

 自分が犯した罪からは逃れることは出来ない。

 だったらそれらに向き合い償いをしたいと思う。

 

 今のところ思い出す方法の可能性として前の僕に関わりを持っていた相手に話を聞こうと一番だと考えている。それなら記憶を思い出せなくても過去の自分の行ったことを知ることが出来るからだ。

 

 今日はともかく明日からは出来るだけ多くの人と関わり話を聞いていこう。会長や鈴に邪魔されるかもしれないが、こればかりは自分のことだ。自分で何とかしないといけない。

 

 そう考えをまとめると手に持っている文庫本を再び開き、読書に集中する。

 今日の所は外出しない約束をしているため不用意に部屋を出ることは出来ない。

 

 本でも読んで時間を潰そう。

 

 

 

 学校の昼のチャイムが鳴る。

 本の世界に入り込んで気付かなかったがどうやらいつの間にか昼の時間に入ってしまったようだ。

 僕はテーブルに移り椅子に座る。そして鈴から受け取ったバッグを開けると中にはかわいらしい弁当箱が入っていった。

 

 はぁ、一応感想を聞くって言ってたから食べないといけないな……。

 

 弁当箱の一段目を開くと酢豚をメインとした栄養バランスのいいおかずがきれいに並べられて入ってた。二段目には白いご飯が入っている。それは誰もが認めるであろう手の込んだお弁当であった。鈴は本当に俺のことを思っているのが伝わる。

 まあ、実際は結構重い女性だと思っていないわけではないが……。

 

 箸を取りさあ、食べようかという時に部屋のチャイムが鳴る。

 誰だろうか?

 

 ドアを開けるとそこには以外にも千冬さんが立っていた。

 

【あの、何か用事でしょうか?もしかして何か粗相でも……】

 

 突然千冬さんが来たことで委縮してしまう。というのもタバコの件やアレな物たちを発見してしまったためだ。そのため教師であり姉である千冬さんにはどこか後ろめたさを感じてしまうのだ。

 

「あ、いや、そんなに畏まらないでくれ。その、お前の様子を見るついでに一緒に昼食をとろうと思ってな。一人で食べたいというのならそれでもいいんだが……」

 

 いつになく消極的な千冬さんがそこにいた。

 まあ、一人で食べていても退屈なだけだし喜んで千冬さんの提案を受けよう。

 

【そんなことないですよ!恥ずかしい話なんですけどIS学園にまだ慣れてなくて少し寂しかったんです。千冬さんが一緒に食べてくれるなら僕も嬉しいです】

 

「そ、そうか!では一緒に食べるか!」

 

 その言葉を聞いた僕は千冬さんを部屋の中に招き入れる。千冬さんはウキウキしていて少しだけ幼く見えた。二人で向かい合うようにテーブルに座り、千冬さんは自分のお弁当を取り出した。

 千冬さんのお弁当も鈴ほどではないが手の込んだものであることが分かる。

 

【僕のは鈴が作ってくれたんですけど、千冬さんのお弁当も手作りですか?】

 

「私のは一夏が作ったものだ。昨日の晩飯もそうだが一夏は料理が上手でなこうして弁当まで用意してくれる」

 

【自慢の弟という訳ですね】

 

「……そうだな。少し鈍感なところもあるが真っすぐ育ってくれた」

 

【なるほど】

 

 『もしもの時は一夏に頼ることも出来る』わけか。まあ出来るなら自分で何とか事態を収めたいという思いがあるが。

 

「一夏だけじゃないさお前も私の自慢の弟だ。なにか困ったときは必ず私を頼ってくれ。出来るだけ力を貸そう」

 

【ありがとうございます。あの、前の僕は千冬さんから見てどんな人でしたか?】

 

 自慢の弟と言ってもらえるのは嬉しいが、今の僕は自分に自信が全く持てていない。だからこうして千冬さんの前の僕に対する評価が知りたくなってくる。

 

「そうだなぁ、私から見て『とても真面目で良い子だった』と思う。一夏と一緒に家事をやってくれたり、私が疲れているときはさりげなくフォローしてくれたり、とにかく人の気持ちを理解することに長けた子だった。少しやんちゃなところもあったがな」

 

【そうですか……】

 

 千冬さんからの前の僕に対する評価は高いように感じる。

 千冬さんの前でだけそういうキャラクターを演じていたのか、それとも家族だから優しくしていたのかは分からないが、少なくとも千冬さんに対しては家族ということで何か感じていたのかもしれない。

 

「……私はお前のことを一番に考えている。『本当にどうしようもないときでも私はお前の味方だ。それを忘れないでくれ』」

 

【ありがとうございます】

 

 そう言って千冬さんはあまり見せない笑みを浮かべて俺に微笑んでくれる。

 千冬さんに助けを求めても良いかもしれない。

 

 そうだ!あのことを千冬さんに頼まないと……

 

【千冬さん、早速頼みたいことがあるんですけど……】

 

「どうした?何か不安なことであるのか?」

 

【あの、実はいまパスワードが分からなくて携帯電話が使えないんです。出来ればで良いんですけど代わりの携帯を用意してもらえないでしょうか?】

 

「……ふぅ、そんなことか。分かった。後で用意しよう。……おっと、忘れていた。私からもお前に渡すものがあったんだ。これだ」

 

 そう言って千冬さんが取り出したのは一枚の便箋であった。

 それを受け取って宛名を確認してみるとセシリア・オルコットの名前が書かれていた。聞いたことも無い名前だ。

 

【あの……これは?】

 

「お前のクラスメイトで友人のセシリア・オルコットがお前当てに書いた手紙だ。今日のHRでお前がリハビリで学校に来ているとクラスの皆に伝えたんだが、その時、オルコットから渡して欲しいと預かった。たぶんだが、励ますような内容のことが書かれているんじゃないか?」

 

【……オルコットさん?。分かりました後で読んでみます】

 

 その後は談笑しながら昼食を食べた。

 

 昼休みが終わり千冬さんが出て行ってからベッドに横になりながらもらった手紙を開ける。そこには――……

 

「今日の深夜一時 寮の屋上で待っています」

 

 とだけ書かれていた。どういう意図にしろさすがに無視はできない。夜になったら行ってみるか。

 

 

 

 

 その後はふて寝をして時間を潰し、夕方になってまた鈴と一夏の三人で夕食をとった。

 鈴にお弁当美味しかったと言ったら目に見えて喜んでいるのが分かった。ただ、今度からは自分で作るから大丈夫と言ったら落ち込んでいた。一夏がいる手前怒ることはなく渋々了承してもらえた。

 

 そして時間は深夜の一時。薄暗い寮内を進んでいき屋上を目指す。

 IS学園の寮はかなり広く屋上も芝生が生えベンチがあるなど公園のようなデザインになっていた。

 

 屋上には一人の少女が月明かりに照らされてベンチに座っていた。輝くような金色の髪の女子生徒だった。

 彼女が僕を見た瞬間すり寄ってくる。 

 そしてそのまま突然抱き着いてくる。 

 予想外の行動に思わず赤面する

 

【ちょ、ちょっと急になんだよ!】

 

「はぁはぁ……久しぶりの匂い、この感触、ずっと、ずっと、我慢していたんです。それこそ我慢しすぎておかしくなりそうなくらい……ああ、最高、愛してますわ」

 

【や、やめ……いい加減にしろよ!】

 

 さすがに人の話を聞かなすぎる。無理矢理引き離そうとするが力が強くなかなか離れてくれない。やっとのことで引き離す。会長といいこの学園の女子は力も強いのか。

 

「大丈夫です。今回はお金はもちろん、タバコもお酒も最高級の物を用意しています。あなたのためだけにですのよ?だから、たっぷり楽しませてください。私の側にいてください。少しだけでいいんです。あなたからの愛を、慈悲を、どうかわたくしに……」

 

 まずいな。前の俺は何をしたんだ?

 




『もしもの時は一夏に頼ることも出来る』
『とても真面目で良い子だった』
『本当にどうしようもないときでも私はお前の味方だ。それを忘れないでくれ』」


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