『みんな病んでるIS学園』   作:Momochoco
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主人公のセリフは全て【】です
重要な個所は『』で囲みます
返信しちゃうとネタバレになりそうな感想はスルーします ゴメンネ



day2 姉弟

 目を覚ますと既に朝になっていた。

 どういう訳か寝起きだというのに酷く頭が重い。それに体も疲れが取れた感じがしない。何とか体を起こすと口元に違和感を感じる。どことなく気持ちが悪い。

 

【……ん?涎でも垂らしていたのかな……】

 

『何故か口元がベタベタする』

 

 涎を垂らすほど熟睡していたつもりはないのだが。枕にも垂れていないか確認する。

 枕にはシミ一つなかった。だがそれとは別に気になるものが落ちていた。

 

【水色の髪の毛……】

 

 更識会長の髪の毛だろうか?だがどうして僕の枕にくっついているのかわからない。僕が寝ている間にこの部屋に会長が来たとか?仮にそうだとしても寝ている僕の元に来る理由がない。まさか、僕の寝首を掻くために来たとか……。さすがにそれはないか。

 僕が気付かなかっただけで、前から落ちていた髪の毛ということもある。

 後で会長に聞いて見よう。

 

 まずは顔を洗おう。そう思い立ち上がるが一瞬、ふらついて倒れかける。やはり疲れていたのだろうか。何とか体勢を立て直し、頭を押さえながら洗面所までたどり着く。

 やっとのことで顔を洗うことが出来た。少しだけサッパリとした気分になった。

 

 気分が少しだけ良くなったところで、洗面台の時計に目をやると7時を少し過ぎたところであった。もうそんな時間か。

 

 とりあえず朝食でも取るか。そう思い立った僕は冷蔵庫に向かう。確か昨日の残り物があったのでそれを食べよう。冷蔵庫から取り出した料理を電子レンジでさっと温めてテーブルの上に運ぶ。

 この料理は昨日、鈴と一夏かが作ってくれた料理だ。鈴はともかく一夏が料理できるのは意外だった。僕自身はあまり料理なんてしたことがないからだ。やっぱり男でもある程度料理は出来た方が良いのかもしれない。

 

 食べながら考える。今日はどうやって過ごそうか……。鈴や会長にはあまりで歩かないように言われている。今日の所は大人しく部屋の中にいようかな……。

 いや、だが一刻も早く記憶を取り戻したいという気持ちもある。昨日の出来事から、前の僕に対する信用はガタ落ちしている。重大な出来事が起きる前に思い出さないと……。

 

 汚れた食器を流し台に放り込むとクローゼットの中を漁る。そして目当ての学ランをモデルとしたIS学園の制服を取り出す。

 やっぱり授業の見学位はしておかないと。

 慣れない制服に着替える。よし、これで準備は良いか。

 ん?右と胸もとのポケットに何か入ってる?何だろう?

 

 取り出してみると『タバコとライター』『高そうな手帳』が入っていた。

 

【…………またか】

 

 僕の記憶が正しければまだ喫煙してはならない年齢の筈だが、どうやら前の僕はそのことを気にしてなかったみたいだ。仕方ないタバコとライターは机の中に隠しておくか。

 

 問題は手帳の方だった。これは何か重要なことが書かれているかもしれない。開けてみると予定などが書きこまれている。パラパラとページをめくってみるが大したことは書かれていないようだった。何となく残念な気持ちになるが最後のページに気になる物を発見する。

 

 そこには『宛名の書かれてない電話番号』が書かれていた。 

 

 うーん、誰の電話番号だろうか。あとで電話を掛けてみるか?いや、その前に携帯自体が使えないんだっけ。まずはそこをどうにかしないといけない。

 

 

 

 

 手帳をしまうと同時に部屋のチャイムが鳴る。どうやら誰か来たらしい。

 

 扉を開くとそこには鈴がいた。

 朝から会いたいとは思わない相手がいたことで少し……いや、かなり気が滅入る。

 もちろんそんなことは態度には出さない。

 

【おはよう、鈴】

 

「おはよう!昨日は眠れ――――……ねえ、なんで制服なんか着てるの?もしかして授業に出るつもりだったの?」

 

【う、うん、見学だけでもしようかなって……ええと、どうしたのいきなり?】

 

 急激に空気が濁っていくのが目で分かるようだ。

 

「ダメじゃない……病み上がりの体で、動こうとするなんて……今日はゆっくり休んでないとダメでしょ。着替えるの手伝ってあげるから、ベッドに行こう?ね?」

 

 子供に語り掛けるような優しい声で話してはいるが、ハッキリ言って恐い。

 それに鈴の目線はずっと僕に向けられていてる。ずっと僕の顔だけを見ている。

 さすがに言われっぱなしという訳にもいかないので刺激しないように言葉を一つ一つ選び語り掛けていく。

 

【無理をしてでも記憶を取り戻したいんだ……、それに見学するだけだから体への負担も少ないと思う。鈴も心配してくれているんだよね……ありがとう。僕は大丈夫だからあまり僕に気を使わなくても良いんだよ?】

 

 僕の話に鈴の顔が怒りに満ちる。

 

 良い話風にまとめたつもりだったんだけどなあ……

 

「あんたねぇ!どうせそんなこと言って他の女に会うつもりなんでしょ!目を離すとすぐに女に手を出すところはあの頃から何も変わってないんだから!他の女には絶対に渡さない!絶対に!」

 

 鈴のあまりの剣幕に少しだけ後ずさる。それと前の僕への罵倒も混じっていた。

 

【ごめん……鈴の言う通り、今日は部屋にいるようにするから。だから落ち着いて】

 

「ハァハァ、ふぅ――……部屋にいてくれるのよね?わかったわ……それと、ごめん、急に怒るような言い方になっちゃって……ほんとごめん」

 

 落ち着いた鈴は先ほどまでの怒りは消え、今度は何かに怯えるような口ぶりで謝ってくる。そんな姿に僕の胸は心苦しさを感じてる。

 慌ててフォローに入る。 

 

【良いんだ……悪いのは聞き分けのなかった僕の方だから……あの、気にしないで。あ!ところで鈴はどうして僕部屋に来たの?何か用事があったんじゃ?】

 

「そうだったわ!お昼に食堂に行かず食べれるようにお弁当を作ってきたの!」

 

【そう、なんだ……】

 

 余程鈴は、僕を部屋から出したくないみたいだ。

 好かれているのは分かるが少し重く感じてしまう。

 

 鈴は持っていたバッグを俺に差し出す。僕がそれを受け取った瞬間、鈴はニタりと笑った。あと小声で何かを呟いた。

 

『………………やっと受け取ってくれた』

 

【?】

 

「何でもない、独り言よ。それじゃあ私は教室に向かうけど約束は守ってね!あと、お弁当の感想も聞くからしっかり食べておくこと!わかった?」

 

【うん、わかったよ。いってらっしゃい】

 

 鈴ちゃんはやっぱりどこかおかしい。僕の行動を制限したり、嘘をついたり。記憶を取り戻すための障害になる気がする。これからは注意して接しよう。

 

 

 

 やっと行ったか……かなり疲れた。俺は弁当が入ったバッグを机の上に置くと制服から着替えていく。授業に出るなと怒られた以上しかたない。大人しく部屋にいて本でも読んだりしていようかな。

 

 そう考えながら着替えていると後ろから誰かに肩を叩かれる。

 ハッとして後ろを振り向くと、そこには昨日出会った更識生徒会長が立っていた。

 安堵と同時に驚きも有ったため腰から力が抜けて、その場にへたり込んでしまう。

 

「今朝の状態を聞きに来たわよ」

 

【!?――……脅かさないでくださいよ、会長】

 

「あら?脅かすつもりはこれっぽっちもなかったわ。ただ弟くんの部屋に入ったら可愛らしい背中があってつい触っちゃったのよ」

 

【普通にチャイム鳴らして入ればよかったじゃないですか……はぁ……」

 

「もうそんなにため息ばかりしていると幸せが逃げちゃうぞ!お姉ちゃんが抱きしめて元気を分けてあげる!」

 

【ちょっ、引っ付かないでくださいよ!】

 

 後ろから抱きしめられる。動こうとするがビクともしない。すごい力だ。

 というか背中越しにアレの存在を感じられる。すごい恥ずかしい。

 会長は後ろから自身の口元を僕の耳に近づけくすぐるように話す

 

「ねえ、本当に私だけの弟にならない?私は前のあなたのことが好きで記憶が消える前も沢山のことをしてあげたのよ?……それでも振り向いてはくれなかったけど。だけど今のあなたは違う。私のことを性処理道具や便利屋ではなく一人の人間としてみてくれている。それが嬉しくて仕方ないの!ふふ、それにあなたも薄々感づいてるはずよ……前のあなたの人間性に……」

 

【それは……】

 

「私の弟になればあなたの犯した罪から守ってあげる。私の全てを捧げててもいい。だから……だから!私だけのものでいて……おねがい」

 

【すいません、それは出来ません】

 

「なんで……」

 

【僕が求めているのは記憶です。それがどれだけ濁っていようとも受け止めたいと思います。だから、会長の思いにはこたえられません】

 

「ふーん、そっか」

 

 そう言って会長は僕から離れた。

 会長の顔は相変わらず軽い笑みを浮かべているだけだったがそれが気味悪い

 会長は平然を装いながら言葉を返す。

 

「私はいつまでも待ってるからね。弟くん」

 

【僕は自分の記憶を取り戻すだけです。そして自分の罪に向き合う】

 

「本当に償い切れると思っているなんて……まあでも、それくらいのガードのほうが落としがいがあっていいかな♪」 

 

 

 

 一拍の沈黙の後、あることを思い出す。

 そうだ落ちてた水色の髪の毛について聞いて見るか。

 

【あの話は変わるんですけど、会長の髪の毛が僕のベットに昨日落ちてたんですけど。何か知りませんか?】

 

「ちょっと見せて…………ああ、そういうこと」

 

【何か分かったんですか?】

 

「私が来た時に偶然飛んで行ったものじゃないかしら?」

 

【そうですか】

 

「それじゃあ私も授業が始まるから、また暇なときにでも来るわ」

 

【いってらっしゃい】

 

 

さて、推理小説でも読んで時間を潰すか

 

 




『何故か口元がベタベタする』
『タバコとライター』
『高そうな手帳』
『宛名の書かれてない電話番号』
『………………やっと受け取ってくれた』


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