『みんな病んでるIS学園』   作:Momochoco
<< 前の話 次の話 >>

3 / 6
主人公のセリフは全て【】です
重要な個所は『』で囲みます


day1 嘘つきたち

『だったら、教えてあげる。本当は私達付き合ってたのよ』

 

【え?】

 

 マジで?本当に僕なんかがこんなかわいい子と付き合っていたのか?だめだ……到底、信じられない。かと言って鈴が嘘をついてるわけでもないと思う。そんなことをするメリットが全くない。それに僕からすれば今日あったばかりの初対面の相手だ……どうする……

 

【いや、あの、何か……証拠みたいなものはないかな?】

 

 ダメだ、言葉に力がない。

 鈴は洗い物を終えたのか、エプロンで手を拭きながらこちらに近づいてくる。

 顔が恐い。

 

「……証拠?ねえ、何で付き合っていたことを証明するのに証拠がいるの?私が付き合っていたって言ってるんだからそれが証拠になるんじゃないの?あんたの記憶なんて関係ない。どんな姿になってもあんたのことが好き……それじゃ、ダメ?」

 

 椅子に座っている僕に近づいてきて、鈴の体が僕の肩に密着する。鈴の手が僕の胸を蛇のように這わせてくる。

 

 自分の顔が赤くなっていくことを感じる。

 

 このままじゃ色々とマズイ。いや、マジで本当に。流されるなんてダメだ。僕の気持ちを鈴にしっかりと伝えないといけない。

 

【ごめん、疑う訳じゃないんだ……。ただ、今の僕は鈴との思い出が全くない。仮に付き合っていたとしてもそれは前の僕の話だろ?今の僕からしたら……その……今日会ってすぐの鈴と付き合うことは出来ない。本当にごめん】

 

 僕は椅子から立ち上があり、腕に密着していた鈴の体から距離を置く。

 別に鈴のことは嫌いではない。だが好きという訳でもないのだ。

 

 そんな僕の言葉に鈴はまるで納得していない風に、顔を怒りの表情に変える。目からは光が消えているようだった。怖い。

 

「ふざけんじゃないわよ!私とあんたは付き合ってたの!愛し合ってあっていたの!それをまるでなかったかのように話して……私のことが本当に嫌いなの?……どうなの?……答えろ。答えなさいよ!」

 

【う、嫌いじゃないけど……少し急ぎすぎじゃないかな?その、もしもう一度付き合う?にしてももう少し時間をかけて、もっと鈴を知ってから答えを出したいんだ】

 

 先延ばし作戦にすることにした。正直、今の鈴ちゃんを言い負けせる自信はない。ここは答えを先延ばしにしよう。

 鈴は何かを思案したのちにいつもの表情に戻る。そして真面目な顔で話し始める。

 

「……そっか。わかったわ。お互いのことをもっとよく知ったら良いのよね?」

 

【う、うん】

 

「私も少し焦り過ぎちゃったみたい。ゆっくり行きましょう…………そうよね、私が一番に見つけたんだもの、私の物に……」

 

 後半何かブツブツと呟いていたが上手く聞こえなかった。

 だが何とか折れてくれて良かった。とりあえずは切り抜けたか。

 

 鈴も部屋に戻る支度を整えていく。今日は色々あり過ぎて少し疲れた。

 

「それじゃあ私も戻るけど、明日は無理をせずなるべく部屋にいること分かった?」

 

【……そうだね。そうするよ】

 

「それとこっち来て?」

 

【?】

 

 ドアの前で立つ鈴ちゃんの近くに寄ると、頭を下げろというジェスチャーをされる。僕は鈴の背丈に合わせ少しだけ屈む、すると耳元に口を近づけそっと呟く。

 

『他の子と絶対に仲良くしないでね。私はアナタの物なんだから……』

 

【!?】

 

「それじゃあまた明日ね。しっかりと寝るのよ!」

 

 そう言って部屋を出ていく鈴。あの呟かれた一瞬が本当に怖かった。

 鈴には悪いけど後で断る方法を考えとかないとな。

 

 

 今日一日でかなり疲れた気がする。主に鈴についてだが……。

 さっさとシャワーでも浴びて寝よう。

 そう思い入浴の準備を進める。

 

 裸になってバスタオルをもって浴室に入る。浴室は部屋と違って清潔になっている。

 よく見たら『ボディソープやシャンプー、リンスが複数種類ある』

 日ごとに変えていたりしたのだろうか?

 

 まあ気にするほどのことでもないか。僕は蛇口をひねり暖かいお湯を頭から浴びる。

 

 だが気味の悪い異変を突如感じる。

 『誰かに見られているような視線を感じるのだ』

 すぐに後ろを振り向くが誰もいないし何もない。いや、思い返せばこの部屋に入った時から誰かに見られているような感じがする。思い過ごしだと良いが……。

 

 視線のような物を感じたが現状なにも起きていないため気にしないように入浴をササっと済ませる。着替えを終えて、ドライヤーを使い少し長めの髪を乾かすと後は寝るだけだ。

 

 僕が寝ようとした瞬間に部屋のチャイムの音が鳴る。

 誰か部屋に用事があって来たのか?いや、待て。ここは出るべきなのだろうか?

 どうするべきか思い悩んでいるうちに鍵をかけたはずの扉が開く。

 

 入ってきたのは水色の髪に赤い目をした女性であった。

 

「いるのならもっと早く開けてくれればよかったのに!」

 

【えっ……あの、誰ですか?】

 

「……私の顔を見ても思い出さない?」

 

【申し訳ないですけど……はい】

 

「そっか。記憶喪失っていうのはどうやら本当らしいわね……。私はこのIS学園の生徒会長、更識楯無よ。よろしくね!」

 

【生徒会長ですか!?】

 

 生徒会長だったのか。というか勝手に鍵開けて部屋に入ってくるのはどうなのだろうか?居留守を使おうとした僕が言えた義理ではないが。

 

「そう。それで今日復帰したばかりのかわいい後輩の様子を見に部屋に来たんだけど、いくら鳴らしても出てこないから、もしかして倒れてるんじゃないかと思ってこのマスターキーで開けたってわけ」

 

【なるほど、今日一度、発作を起こしましたから。すいません、いらない心配をかけてしまって。あ、どうぞ座ってください。今、お茶か何か……】

 

「ふふ、大丈夫!私とキミの仲なんだから余計な気遣いは無しよ!私が代わりにいれてあげるから座って待っていなさい」

 

【す、すいません】

 

『会長は慣れた手つきで準備を進めていく』

 正直、茶葉の場所とか分からなかったので助かる。

 記憶のなくなる前の僕と楯無生徒会長は仲が良かったのだろうか?

 

【あの、僕と会長はどういった関係だったのでしょうか?】

 

 正直な所、鈴との一件があってから前の自分に対して信用ができなくなっている。変なこと言われる前にこの会長と自分がどういう関係だったのかはっきりさせたい。

 会長は僕の前にそっとココアを置く。

 視線をマグカップから会長の顔に向けると目が合う。するとニッコリと可愛らしく笑いかけてくる。可愛いけど早く答えてくれよ……

 

 そして散々じらしてやっとその口を開いてくれる

 

「……私達の関係よね?例えば記憶のないあなたに対して私は恋人だったと言えば、本当にそうなるのかしら?」

 

【えっと……そういうことにはならないと思います】

 

「つまりは私が何を言ってもそれを裏付ける証拠がないのだから無駄ということよ」

 

【はあ、そうですね】

 

「だからキミは誰かに何かを吹き込まれたとしてもそれを簡単には信じてはいけないこと!良いわね?真っ白で無垢になったキミを狙う輩は少なくないんだから。例えばさっき話していた中国代表候補生の鈴ちゃんとかね」

 

【どういうことですか?】

 

 鈴が僕を狙っている?どういう事だ?

 

『キミは鈴ちゃんと付き合ってなんかないなかったわ』

 

 やっぱりそうだったのかあまりにぐいぐい押してくるから、鈴のことはあまり信用できなかった。それにどうして僕なんかと付き合いたがっていたのだろうか?分からない。

 

【……それじゃあ、会長と僕の関係はどういったものなんですか?】

 

「私はキミのお姉ちゃん。キミが困っているときに助けて、キミが悩んでいるときに解決して、キミの側にずっと寄り添うって約束したお姉ちゃん。それが私の役目。そして私がお姉ちゃんであることを君は受けいれてくれた。誰にも渡さない。私だけの可愛い可愛い弟、それがあなた。本当のことよ?」

 

 僕の姉になったつもりでいる彼女は恍惚な笑みを浮かべながら話した。

 会長は少し頭がおかしいのも知れない。急にお姉ちゃんだなんて……

 

【あの、前の僕がどうだったか知りませんが、冗談ですよね?】

 

 それまで笑顔で話していた会長の顔が一瞬固まる。

 鈴の時には先延ばしにしたが今回はハッキリと断ろう。

 

「照れないの。寂しいならお姉ちゃんに甘えても――」

 

 急にお姉ちゃんがどうとか言ってきて気持ち悪い。ここはしっかり断らないと。

 

【昔はどうあれ今の僕はあなたの弟じゃないですから……】

 

『ふーん、私をあんなに散々働かせて、ちょっと虫が良すぎるじゃないかしら?』

 

 働かせる?一体どういうことだ?過去の僕が会長に何かを頼んだりしたのか?

 うろたえる僕をしり目に会長はどんどんと話していく。

 

「まあいいわ、今日の所はこれくらいにしましょう。貴方が否定しようとも私はあなたのお姉ちゃん何だからね?いつでも頼っても良いのよ、前みたいに……。それと、あまり人に会うのは避けた方が良いわよ。面倒くさいことになるから」

 

【わ、わかりました】

 

「それじゃあ、またね、弟くん!」

 

 そう言って自分で入れたココアを飲み干すと部屋を出ていく。

 『鈴の恋人発言を何故か会長が知っていた』

 やっぱり鈴の言っていたことは嘘だと僕も思う。会長は僕を弟としてみているらしい。だけど、鈴ちゃんも会長もどこか狂気的な雰囲気を漂わせていた。

 何が真実で何が嘘なのかを見極める必要があるのかもしれない。

 

 僕も入れてくれたココアを飲み歯を磨く。さっきまであまり眠気はなったが、何故か一気に強い眠気が襲ってくる。僕はベッドに潜り込み眠るのであった。

 

 




『他の子と絶対に仲良くしないでね。私はアナタの物なんだから……』
『ボディソープやシャンプー、リンスが複数種類ある』
『誰かに見られているような視線を感じるのだ』
『会長は慣れた手つきで準備を進めていく』
『キミは彼女と付き合ってなんかいなかったわ』
『私を散々働かせて、ちょっと虫が良すぎるじゃないかしら?』
『鈴の恋人発言を何故か会長が知っていた』


※この小説はログインせずに感想を書き込むことが可能です。ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に
感想を投稿する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。