第十八話:おっさんはVIPルームを楽しむ
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狙い通り、VIPルームへ招待された。
ただ、VIPルームに入るには相応の格好が必要なので、カジノに備え付けられているブティックに来ている。
俺はそうそうスーツを選び、女性陣を待っていた。
「ユーヤ見て、これでルーナもレディ」
「ふふふっ、私の大人の魅力でユーヤを骨抜きにするよ」
「黒い服って、初めてですが新鮮でいいですね」
「どうかしら?」
全員シックな黒で統一している。
ブティックには黒以外の服も売っているのだが、カジノと言えばはやり黒だ。
同じ黒のドレスでも好みが出て面白い。ルーナは一般的なワンピース型で動きやすそう、ティルは胸元が大きく空いた大胆なドレスで、フィルは露出は少ないが大人の魅力で勝負するタイプ。そして、セレネはパンツスタイルだ。
何気にエルリクまで黒いリボンを巻いている。
「セレネはスカートにしなかったのか」
「こっちのほうが似合う気がしたのよ」
「たしかにな、凛としたセレネにはよく似合っているよ」
お世辞ではなく、本当によく似合っている。
「むぅ~、セレネだけずるい。ルーナは?」
「私たちだって可愛いでしょ!」
「きゅいっ!」
お子様二人組が詰め寄ってきたので適当に褒める。
この子たちもたしかに可愛い。ただ、ティルは年相応のドレスにしてほしいとは思う。……似合ってはいるのだが。
「フィルに黒のイメージはなかったが、ギャップがあっていいな」
「そう言ってもらえて嬉しいです。ユーヤは……怖いぐらい似合ってますね」
「そうね、しぶくてできる男って感じのユーヤおじ様にはタキシードがぴったりよ」
「それは良かった……どうせすぐ脱ぐことになるんだがな。フィル、俺の手持ち全てを預けておく。金もアイテムも【収納袋】もだ。あとは手はず通りに」
「任されました」
一度は破滅しないといけない。
だから、装備すらすべて預けて手元に残したのは今着ている服と五百枚ほどのチップだけ。
準備を整えた俺たちは、支配人に声をかけ、いよいよVIPルームに足を踏み入れた。
◇
VIPルームに入るなり、異様な熱気に当てられる。
そこは室内型コロシアムだった。
中央の巨大リングは透明な檻で、中のものが外に出ないように工夫されている。
その中で凶悪な魔物たちが戦っていた。
「ねえ、あの魔物、相当強いわよね?」
「ああ、最上級ダンジョンに出てくるような連中だ」
そんな最強クラスの魔物を見世物にするなど人間には不可能。
神々の遊びだ。
客席は、ゲーム時代と比べるとかなり少ないが客は入っている。みんな身なりがよく、魔物同士に戦いに熱中していた。
金持ちばかりなのも当然だ。
なにせ、数千万円分負けてもギャンブルを続けられるものしかここにはいない。
「お客様、ごらんください。VIPルーム、唯一にして至高のゲーム。それこそがモンスターバトルロイヤル!」
支配人が説明を始める。
座席に用意されている分厚い本、それを開くと次に戦う魔物の情報が描かれている。
賭けのルールは簡単、好きな魔物に賭けて、賭けた魔物が最後まで残れば勝ちだ。
一度に戦う魔物は四体。
バトルロイヤルという性質上、かならず強い魔物が勝つわけじゃない。相性があるし、どれだけ強くても他の魔物に徹底的に狙われてしまえば、最初に脱落する。
とはいえ、魔物の習性まで含めて理解していれば、相性はもちろん、試合展開、つまりどの魔物が積極的に動き、どの魔物から狙われるかなんてところまで想像が着く。
「ありがとう。存分に賭けさせてもらう」
「はい、ごゆるりとお楽しみください」
支配人が立ち去っていくのを見届け席に着き、本を開いて次のカードを確認する。
「これがユーヤの必勝法?」
「あっ、そうか。ユーヤ兄さんの魔物知識は世界一だもんね。どの子が勝つかわかっちゃうかも」
俺は首を振る。
「たしかに知識はあるし、ある程度は予測がつくんだが、必勝とはとても呼べるものじゃない」
「……でも、ここで行われているゲームはこれしかないわよ?」
「このゲームに普通は必勝なんて存在しない。だがな、一つだけあるんだ。必勝と呼べる組み合わせが。その組み合わせを引き出すことこそが必勝法。ルーナ、ティル、おまえたちはだいぶチップを増やしていたから、好きに賭けていい。存分に遊べ」
「面白そう! んっ? ……この図鑑ほしい。魔物の情報かなり細かい。見てるだけで面白い」
「うわぁ、ほんとだ。いいなこれ。絶対に役立つじゃん」
二人がベタ褒めする通り、この図鑑は本当に事細かく書いている。
逆に言えば、賭ける側にこれだけの情報を与えても胴元は儲かるという自信があるということだ。
……ちなみに、この魔物図鑑もチップと交換できたりする。二人の勉強用にチップが余れば交換しよう。
「すごい、一回に賭けられる上限が千チップ!」
「これは燃えるね!」
そして、VIPルームだけあって頭がおかしい賭けができる。
最低が十枚でマックスが千枚。
一回、一千万円の賭け、まともな神経じゃできない。
図鑑を見ているうちに前の戦いが終わった。
次の戦いが始まる十分以内にベットをしないといけない。
「ルーナは、熊さんにかける」
「じゃあ、私は蛇に!」
お子様たちが、わいわい騒ぎながら賭け始めた。
それぞれ百枚ずつ……なかなかの怖いもの知らずだ。
次に出てくる魔物は四体。
ミスリルベア。体毛と爪、牙がミスリルで出来ているハリネズミのような巨大熊。魔法に対する非常に耐性、高い身体能力、固い上に攻撃力も高いという、今回の大本命。
ウイングウインドスネーク。翼が生えた蛇。檻の中とはいえ飛行能力は圧倒的なアドバンテージな上、強力な毒を持つ。基本スペックは低いが、噛みつき毒を流し込んで空に逃げる一撃離脱戦法であれば勝ち目がある。
フレイムレックス。赤いティラノザウルス、圧倒的な筋力と炎を操る強大な魔物。
クリスタル・タートル。絶対的な防御力を持つ亀の魔物、クリスタルの甲羅は硬度においてミスリルをも上回る。また、防御一辺倒に見えて、クリスタル内で光を増幅させてから放つ、レーザーは一撃必殺の威力を持つ。
どれも非常に強力な魔物であり、どの魔物が勝ってもおかしくない。
となれば相性が重要になる。
ミスリルベアは、フレイムレックス以外に負けることはない、ミスリルは光抵抗が高く、聖なる銀は毒を無効化するから蛇と亀は熊に対する有効打をもたない。
ただし、超高熱には耐えられずフレイムレックスには筋力でも負けているため極めて不利。
ウインドウイングスネークの毒は、ミスリルベア以外には極めて有効だ。また、このメンツには対空攻撃を得意とするものがいない。ミスリルベアがフレイムレックスに倒されるまで空に逃げていれば十分勝機はある。
フレイムレックスは純粋な戦闘力であれば最強だが、防御力がさほど高くない。ミスリルベアに貫かれたり、ウインドウイングスネークの毒、クリスタル・タートルのレーザー、どれを食らっても致命傷になり得る。
クリスタル・タートル。絶対的な防御力を持つが、状態異常には弱い、ウインドウイングスネークの毒ブレスなどは最悪で、甲羅にこもっても毒が流れこんでくる。また、自力ではどうあってもミスリルベアを倒すのは不可能。
一番勝率が高いのはミスリルベアだ。
なにせ、フレイムレックス以外はミスリルベアを倒せないのだから。
だが、フレイムレックスは縄張り意識の塊みたいな連中で、デカイやつから潰すという習性があり、真っ先に狙われるのは間違いない。
……っとなれば。
「俺はフレイムレックスに賭けてみるか……五百枚全部」
事前に必勝法を知らせているフィル以外が目を見開く。
「それ、無謀じゃないかしら?」
「負けたら、それで終わり。すごい」
「勝つ自信あるんだよね? それ。ううう、やっぱり蛇はやめとこうかな」
「そうなる可能性が高いとは思うが、確実じゃない。好きに賭ければいいさ。ほら、あと一分だ」
「じゃあ、ルーナはルーナの考えを信じてやってみる」
「私も蛇に託すよ!」
そうして賭けが締め切られた。
さてと、賭けの第一戦だ。
勝っても負けても美味しいギャンブルだが、本気で当てにいかないと面白くない。
……勝っても負けてもいい理由。
それは、勝てれば単純に五百枚のチップが何倍にもなる。そしして、負け続けて破滅することこそが必勝法の第二段階だからだ。
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