オーバーロード 骨の親子の旅路 作:エクレア・エクレール・エイクレアー
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決行はすぐ。移動される前に片を付ける。
モモンガはガチ装備。ギルド武器を除いたゲーム終了間近の装備だった。もしもがあってもいいように最高の武器が必要だった。敵対する敵はツアーを除いた最高峰の相手。気を抜くことはできない。
パンドラにはペロロンチーノの姿を取らせる。剣士と弓使いでは中身の一致などしないだろうし、今回アレだけのデカブツと戦うには近接タイプとタンクは必要ない。魔法職で被らせる意味もなく、なら遠距離ということでエロゲ鳥。
「パンドラ。今から作戦終了までは俺の名前はナインズだ。法国ならアインズ・ウール・ゴウンの名前を知っている可能性はあるが、その前身のナインズ・オウン・ゴールは知らないはずだ。お前の事もペロロンチーノと呼ぶ」
「はっ!畏まりました、ンッナインズ様!」
「よし。ではいくぞ」
モモンガは素顔も晒して、飛行で例の植物系モンスターへ向かう。その周りでは法国の特殊部隊と思われる数々の天使と数人の人間が爪楊枝で刺すように抵抗しているが、まるでダメージが通っていない。
「予想はしていたが……。まるで効いてないな。というか、眷属らしき小さな分身体の対応で精一杯か。ペロロンチーノ、やれ」
「はっ」
パンドラが矢を用意して穿つ。その一矢一矢に炎属性を込めて降り注がれた絨毯爆撃は近くにいた分身体も、数多くに枝分かれした大樹より太い触手のように使っている腕も焼いていった。
レイドボスというだけあって、やはり与えられるダメージには固定値かレベルキャップがあったらしい。さっきまでの攻撃には何も反応を示していなかったのに、パンドラの矢には断末魔のような雄たけびをあげていた。
炎が有効というのは見た目通りだったために、モモンガも追加で魔法を用いる。
「
ぽこじゃかと遠距離から隕石を落としたり矢で嫌がらせを続けること数分。逃げながらそういった攻撃ばかりしていたために、モンスターは怒って口らしきものをこちらに向けてきて、そこから巨大な種子を飛ばしてきた。
「なんだ、遠距離攻撃もあるのか。
種子ごと貫く特大の雷が横に走り、それが口の中に入り込んでいった。基本的に生き物の体内は全て弱点だ。あんな大きく開けられたら狙うのも当然。表面から、内側から燃えた痕のようにプスプスと白い煙が出ていた。あれだけ高火力で焼けばそうなるのも自明の理。
そこからもダメージを受けないように距離を保ちつつ、詰将棋のようにモンスターのHPを削っていった。
「何者じゃあいつらは!?」
漆黒聖典と一緒に来ていた白いチャイナ服を着ていた老婆、カイレは叫ぶ。唐突に現れたアンデッドと鳥人は魔法と矢で、自分たちが犠牲を出しながら倒そうとして全く止まらなかった相手の足を止めていた。
それどころか、ダメージも明確に与えているのだ。このまま進路を人類国家に向けられたら、最終手段である漆黒聖典隊長である神人の聖典、ロンヌギスを用いようとしたほどだ。それ以外の方法で目の前の破滅の竜王を倒す手段が思いつかなかった。人類の守護者たる漆黒聖典が、だ。
もちろん貴重な神人を失うわけにはいかないので、陽光聖典も火滅聖典も「俺がやるしかない!後は任せた!」と喚き散らす隊長を抑えるのに苦労していたのだ。
先程までの状況は、陽光聖典の天使や火滅聖典の属性が付与されたマジックアイテムによる武具での斬り込み、漆黒聖典の連携の取れた攻めなどを絡めても、全くどうしようもなかった。
連れて来たカイレによるケイ・ケセ・コゥクで洗脳支配しようともしたが、神の御業は弾かれてしまった。モンスターであり破滅の竜王と呼んでいるがまともに精神などないだろうと考えていたために精神支配は効かないだろうと思っていた者と、神の御業が弾かれて混乱する者と反応は極二つに別れたことも状況が遅々と進まなかった要因だ。
その混沌とした場に現れたのがあのアンデッドと鳥人間だ。その二人の圧倒的な火力は全く見たことがなかった。
陽光聖典の四半壊で生き残った面々以外は。
「あ、あの火力は……!?カルネ村のバケモノ騎士クラス!?」
「なんだって?ニグン隊長、アレほどの攻撃を最高位天使が受けたのか?……それなら倒されるのも納得がいく」
ニグンの呟きにそう言ったのは先程まで単騎突進をかまそうとしていた漆黒聖典の隊長だった。ニグンからは空を割ったという有り得ない報告を聞いていたが、大地を割りかねない一筋の流れ星のような矢による攻撃や見たことのない魔法の数々を見て納得する。あれではたとえ最高位天使と言えども負けると。
もっともその最高位天使も、番外席次にとっては容易く屠れる相手なのだが。
「だが、カルネ村にいたのは人間の魔法詠唱者と白銀の騎士だったのでしょう?実際に冒険者をやっている。アンデッドでも、鳥頭の亜人でもない」
「百年の揺り戻しは、今回は複数だった……?それとも同じ勢力?」
「そもそも、どうして破滅の竜王を攻撃している……?我々のように人類の守護を……?」
唐突に現れた目的も謎の二人組に疑問は尽きない。それでもやってくる分身体の相手をするために手を止めないのは優秀なことなのだが。いかんせん先程から混乱が広がりすぎている。
破滅の竜王の片手間であの二人組が分身体も倒してくれているので、混乱しつつも倒せてはいる。
そんな中、分身体の足止めで一番活躍していた男。漆黒聖典の第五席次、クアイエッセ・ハゼイア・クインティアは空を浮かんで攻撃しているアンデッドの姿を見上げながら手を止めて高笑いを上げていた。
「ハハッ……。アハハハハハハハハハっ!神だ!我らがスルシャーナ様が復活されたのだ!」
「あー、クアイエッセ?お前がスルシャーナ教なのは知っていたが、アンデッドだということ以外に共通点がないだろう?」
「あの方は人類のために破滅の竜王に立ち向かい!我らの遥か上を行く魔法を用いる!あれが神でなくてなんだというのだっ!?」
「いや、“ぷれいやー”様という可能性も……」
「我らが神よ!今助太刀に向かいます!」
そう言って召喚できる限りの魔獣を呼び出して、特攻するクアイエッセ。肉体能力は人類国家最強とまで言われるガゼフすら超越するほど。そんな本職ビーストテイマーは一体のギガント・バジリスクの背に乗って分身体を倒しつつ植物系モンスターへ向かって行った。
「漆黒聖典には特攻するしか能がない阿呆しかおらんのか!たとえ神であったとしても、あの争いが終わってからでもよかろう!」
「カイレ様、まだあの眷属がこっちに向かって来ています!あなたに死なれることは国としての損失ですぜ!オレの後ろから身体を出さないでください!」
そんなやり取りがあって数分後。最悪中の最悪ではあるがロンヌギスの使用か番外席次を呼び出すことさえ考えていたが、そうはならなかった。
なにせ、たった二人の桁違いが完全に植物系モンスターの動きを止めてしまったからだ。しかも頭頂部に当たる緑の生い茂った部分へ近寄り、そこに生えていた葉っぱを根こそぎ回収して、更に身体の表層も剥ぎ取り、地面に落ちて残っていた種子も回収していた。
呑気に素材回収を楽し気にしている二人組を見て、唖然とするしかなかった法国の面々。その素材回収に歓喜の涙を流しているクアイエッセが加わっていることには何も突っ込まなかった。