米国が二十五年ぶりに中国を為替操作国に認定した。これで関税をめぐる貿易対立は通貨戦争へと局面が拡大した。消費税増税を控える日本は暮らし変調に備え最大限の警戒体制を敷く必要がある。
米国は認定理由について「中国は長期にわたり通貨を安く誘導してきた」「貿易で優位に立つのがその目的だ」などとした声明を出した。今後、中国に人民元の切り上げを要求し、受け入れられない場合は制裁として関税引き上げに踏み切る可能性が高い。
対中制裁関税は第四弾が発表されたばかりだ。その直後の為替操作国認定は、六月の首脳会談後の貿易協議で妥協に応じなかった中国にいら立った米国が、ギアを数段上げたことを意味する。
米国が矢継ぎ早に圧力を高める背景にトランプ大統領の再選戦略があることは間違いない。大幅な譲歩を勝ち取り有権者にアピールして再選に弾みをつける狙いだ。
ただ米国の関税引き上げ対象の多くは暮らしに直結した消費財だ。このままだと中国からの輸入物価が急激に上がる恐れがある。
これに通貨問題が引き起こす金融市場混乱が加われば米国経済への打撃は避けられない。対中圧力が逆に米国内で支持者離れを引き起こすという展開である。
さらに通貨への圧力は相手の威信を傷つけ、国家同士の無意味な意地の張り合いを引き起こす。米中は早期に首脳同士が会い、事態の打開に向け知恵を絞るよう強く求めたい。
為替市場ではすでに円高が起き株価も大幅な下落傾向にある。日本では消費税増税が迫る中、個人消費低迷を意識して企業経営者の心理は間違いなく冷える。
雇用への飛び火は予想外に早いだろう。六月の完全失業率は2・3%と良い数字だった。だが来年度の新卒採用や非正規労働者への対応などへの悪影響は容易に想像できる。賃金抑制の動きも徐々に強まるはずだ。
為替操作国をめぐっては、大規模金融緩和により間接的な通貨安政策を続ける日本も対象となる恐れがある。中国が認定されたことで、日本は円安誘導に向けた為替介入が一層やりにくく、即効性のある円高対策は打てない環境だ。
米中対立が通貨にまで波及した中、秋に向け景気後退リスクは確実に高まる。日本政府には重ねて雇用や賃金動向、中小企業の経営実態を注視し、異変があれば即座に対応するよう要請したい。
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