<社説>原爆投下74年 核軍縮に英知を絞る時だ

 核兵器の恐ろしさを再認識し、核廃絶への誓いを新たにする日が巡ってきた。世界で今、その重要性が増している。

 広島はきょう、長崎は9日に原爆投下から74年となる。2発の原子爆弾で21万人以上が犠牲になった。生き延びた被爆者も、健康被害や就職・結婚差別などで苦しんだ。
 世界各国の指導者は二度とこの惨禍を繰り返さないよう努めなければならない。しかし残念ながら世界では今、核軍縮の取り組みが停滞しているばかりか、むしろ逆行する動きが広がりつつある。
 2017年7月に国連で採択された核兵器を非合法化する史上初の国際法「核兵器禁止条約」は批准に必要な50カ国・地域の参加数に至っていない。
 今年6月には米軍が戦闘中の限定的な核兵器使用を想定した新指針が判明した。オバマ政権は核の先制不使用も一時検討するなど「核の役割低減」を目指したが、トランプ政権は、小型核を潜水艦に搭載する政策を打ち出すなど、通常戦力の延長線上に核戦力を位置付けている。
 そんな中、冷戦後の核軍縮の支柱となった米ロの中距離核戦略(INF)廃棄条約が2日に失効した。
 条約は東西冷戦下の1988年に発効し、射程500~5500キロの地上配備の中・短距離ミサイルの全廃を規定している。条約を巡り米ロがお互いに条約違反を指摘し合い、延長されることなく失効日を迎えた。
 背景には、条約で規制された水準のミサイルを戦略の柱とする中国の軍事的台頭がある。米ロに中国を加えた3カ国は条約の制約がなくなることで、軍縮とは逆行した核・ミサイル開発競争を激化させる恐れがある。
 条約失効の影響は欧州よりもアジアの方が大きいと指摘されている。米国がアジアで地上発射型の中距離弾道ミサイルを配備する可能性があるからだ。
 その場合、米軍が中国に対抗し、沖縄の米軍基地に中距離弾道ミサイルを配備する恐れがある。日本には非核三原則があり、核兵器は持ち込まれないことになっている一方、沖縄への核再持ち込みを認めた日米の核密約も存在する。沖縄が核戦争に巻き込まれるリスクは拭えない。沖縄からも強く核廃絶への声を上げる必要がある。
 INF廃棄条約を締結した当時のゴルバチョフ・ソ連共産党書記長とレーガン米大統領は「核戦争に勝利はなく、決して戦ってはならない」との認識の下で調印した。世界の指導者たちはその認識に立ち返り、新たな核軍縮の枠組みを早急に築いて着実に核兵器を減らすべきだ。今はその英知を絞る正念場といえる。
 日本の役割は、米国の「核の傘」に依存し、それを守ることではなく、唯一の被爆国として惨禍を訴え、非核化実現に向けて各国の努力を促すことだ。