エグゼイド&ゲンム in IS 作:Momochoco
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放課後になり黎斗の研究室で報告書をまとめる永夢と黎斗。
IS委員会は二人の籍をIS学園に置くことの条件として定期的なレポートや研究結果の報告を課してきたのである。
無言の中で作業する二人であったが、珍しく今回は黎斗の方から永夢の方に向けて話しかけてきた。
「永夢、君は良かったのか?今回の決闘を受けて……。あまり乗り気ではない様に見えるが」
黎斗の思わぬ質問に驚く永夢。タイピングしていた指も思わず止まってしまう。あの傍若無人な黎斗が永夢を気遣っているのだ。どこか頭でも打ったのか。変な物でも食べたのかと心配する。
「そうですね……、確かにあまり勝負にこだわりはないですけど……けど、何となくオルコットさんを見ていたら戦わないといけない気がして」
「何?どういうことだ?」
「はい……、今のオルコットさんは男性に対してコンプレックスというか敵対心の様なものを感じているように見えるんです。このままでは彼女はいつかストレスに押しつぶされてしまう可能性がある。そのためにも知ってほしいんです。男性も女性も関係なく力を合わせることの大切さを。だから僕が戦って男性の価値というか……そのあたりことを感じ受け取ってもらえればいいかなって……。そう思ったんです」
これは永夢自身の本心であった。永夢はこれまで多くの患者と向き合ってきて人の心の強さというものの重みを理解していた。だから今回のセシリアとの戦いでも上手く彼女の価値観を良い方向に持っていきたかった。悩んでいる人や孤立しそうになっている人を見捨てては置けない永夢の水晶のような心が絡んでいた。
永夢の話を聞いた黎斗は納得するわけでもなく、理解したわけでもなかった。ただどういう思惑があったのか知りたかっただけなのだ。
「なるほど。まあ、私には関係のない話だな。」
「黎斗さんの方こそ良かったんですか?あんな簡単に織斑先生の提案を受けてしまって」
「ああ、実はまた戦闘データが必要になってね。前の戦闘データは打鉄とラファール・リヴァイブで両方とも第二世代だった。だがそれだけでは限界がある。現行機種であるセシリア・オルコットの第三世代実験機のデータがあれば私のガシャットの修繕・改良も進むことだろう。それと千冬に流してもらった情報によると織斑一夏もコネで第三世代専用機を借り受けることになっていると聞いてたからな。一度で二機分のデータを手に入れるチャンスを逃すわけにはいかない」
黎斗の戦う理由がいつも通りであったことに少し残念がる永夢であったが気になることもある。
「情報を横流ししてもらったんですか?……まあいいですけど。それじゃあ僕達が一番世代性能的には劣っているってことですか?」
「そうだ。マイティアクションXとプロトマイティアクションXは世代性能的には第二世代後期の能力しかない。まあ、それでもこれまでの戦闘経験から言って織斑一夏とセシリア・オルコットに後れを取ることはないだろうがな……。だがまあ一応、レベル3のガシャットを実戦に投入するつもりでいる。そのため放課後は私の実験に付き合ってもらうぞ永夢!」
「分かりました。ずっと気になってたんですけどマキシマムとムテキはどうなっているんですか?」
マキシマムマイティXとハイパームテキは全ガシャットを凌駕する文字通り無敵の力を持つガシャットであった。そして永夢が懸念しているのはこの世界でもし無敵が起動できてしまい、それを第三者に奪われて悪用してしまわれる事であった。もし無敵を使えることができそれを悪意を持つものが使った場合いくら兵器であるISであっても止めることは不可能と言っていい。
ガシャットを黎斗に預けていた永夢は心配だったのである。
「マキシマムについては復旧の目途は立っていない。あれのプログラミングは九条貴理矢が書いたものだからな。修繕するには戦闘データとは別に時間がかかってしまう。ムテキも同じだ。私が文字通り命を削って作ったムテキはそう簡単に作り変えることはできない。もしムテキを復活させようとするなら命のストックがない今の私一人ではどうにもできないという訳だ。」
「なるほど、それを聞いて安心しました。……っと、もうこんな時間か。今日はもう結構遅いですし、そろそろ寮に帰りませんか黎斗さん?」
「そうだな。ここら辺で切り上げるとするか」
そう言って荷物を纏める黎斗と永夢。この時点では二人ともお互いに同室だと思っていたのだが黎斗が取り出したカードキーを見た瞬間、永夢が不思議に思う。
「黎斗さんの部屋番号の僕と違いますね……、別々の一人部屋を用意してくれたのかな?」
「たぶんそうだろう。さすがに女性と同室ということはないだろうしな。千冬にしては気が利いた真似をする……」
「そうですね、なんか今日は色々疲れちゃったしゆっくりと一人で休めるなんてラッキーです」
そう言って二人は研究室を後にする。
◆
今日の特訓が終わり、寮の自室に向った一夏はまさかのハプニングに遭遇していた。
何と同室は幼馴染みの箒だったのである。そうとは知らずシャワー上がりの箒がいる部屋に入ってしまった一夏。一夏に半裸を見られた箒は木刀を使って一夏を成敗しようとしていた。
そしてそれとは関係なくここにも驚きの声をあげる者がいた。
「……織斑千冬、何故君が私の部屋にいる。それとなぜこんなに散らかっているんだ……」
「それはここが私の部屋で、これからここで生活してもらうからだ黎斗」
「ふざけるなァア!」
千冬がいた時点で嫌な予感があった黎斗だったがその予想が的中し吠える。黎斗は完全に一人部屋だと思っていた。それなのになぜこんな小汚い……いや、普通に汚ない上に千冬までいる部屋で生活しなければならないのか?黎斗はあまりの自分の待遇の悪さにキレる。
「そう怒るな黎斗、これには理由があるんだ」
「言い訳か!どんな理由があろうと私のプライベートな時間を侵すことは許されないぞ織斑千冬ゥ!」
「まあ聞け。これは黎斗お前の安全を守るために必要なことなんだ。男性操縦者のお前の身を狙う輩は決して少なくない。もしもの襲撃や密偵への対策のために私と同じ部屋になったという訳だ。それに永夢の方にはイギリス代表候補生のセシリア・オルコットを付けている、お前だけ一人部屋という訳ではない。まあ大人しく私と一緒に住もう!な!」
「な!ッではなぬぁあい!百歩譲って同室になることは目を瞑ったとしよう!だが!何だこの部屋の汚さはァ!」
たまったゴミ袋に積まれた空き缶。流しには何とか片付けようとしたが挫折した後が残る食器やゴミなどがあり一言でいえば汚部屋であった。
千冬はそんな部屋の惨状が恥ずかしいのか照れ臭そうにしているがそれが逆に黎斗を腹立たせた。
「一応、助っ人を用意している。そろそろ来る頃だと思うんだが『ピンポーン』お!来たみたいだな」
そういって部屋の入り口を開ける千冬。そこにいたのは山田真耶であった。
「さあ、入ってくれ山田君」
「失礼します……ってまただいぶ散らかしましたね。あ、黎斗君も来ていたんですか」
「真耶か……。ん、彼女が助っ人?まさか……今からこの三人で掃除をするとは言わないよなぁ千冬?」
「まさにその通りだ!」
どや顔でそんなことを言う千冬に黎斗は絶句する。山田も何故か千冬のことなのに申し訳なさそうにしている。さっきまで怒っていた黎斗は急に頭が冷めていくのを感じる。このままでは埒が明かないと仕方なく妥協案を出す。
「……良いだろう。だが、タダでとは言わせないぞ。今度、私のガシャットの試運転に真耶と一緒に付き合ってもらう。これでどうだ?」
「いいだろう!のった!」
「私もですか!?……たまには休みが欲しいです……」
渋々といった具合に三人は片づけを始める。この後、歓迎会という名目で千冬が泥酔してまた黎斗の頭を悩ませる。
◆
「な、何でオルコットさんが!」
「それはこちらのセリフです!とりあえず出て行ってください!」
一方、永夢の方ももそれなりに緊迫した状況になっていた。自分一人の部屋だと完全に思い込みノックなどをせず入ったところセシリアが制服から着替える途中で会った場面に遭遇したのである。
現在は部屋の前で途方に暮れていた。
「まずいことになっちゃたなぁ……、僕は良いけどさすがにオルコットさんは相部屋嫌がるだろうし……。はぁ……最悪、今日は研究室にでも泊まるか」
そう思っていた矢先にセシリアが部屋の中から永夢を呼ぶ。声色から少し怒りが感じられる。
「宝条さん、もう入っても大丈夫です」
「あ、はい」
永夢が部屋に入ると先ほどの下着姿と違い部屋着に着替えたセシリアがいた。
とりあえず謝る永夢。
「さっきはごめん。まさか相部屋の相手がいるとは思ってなくて。それで、もし、オルコットさんが嫌なら僕は研究室もあるからそこに泊まるけど」
「……」
「あの、オルコットさん?」
「……はぁ、もういいですわ。どうやら下心もなさそうですし」
下心どころか全く顔色すら変えていなかった。見た目は高校生の永夢出会ったが中身は大人であるため節度ある対応をすることが出来るのだ。
「とりあえず非常に不本意ですがあなたと同室になることを黙認します。たぶん何か思惑があって代表候補生の私と宝条さんを同室にしたんでしょうし……。それに私のわがままであなたを追い出したのではオルコット家の名前に傷がつきますわ!」
「そっか、ありがとう、オルコットさん」
「……私が不本意であるということ忘れないでください」
「うん、感謝してるよ!そうだ晩御飯はもう食べた?」
「ああ、そのことでしたら実は同室の方が来たら夕食を振舞おうと思って私が準備をしていたんです。もてなしも貴族のたしなみの一つですわ!ぜひ召し上がっていってください!」
「それじゃあありがたくいただこうかな。楽しみだなオルコットさんの料理!」
永夢が後悔するまで残り30分。
◆
「黎斗!ほらもっと飲め!私の酒だぞ!」
「やかましいぞ織斑千冬ゥ!クソっ、ここはバグルドライバーよりも居心地が悪い!真耶も泣きつくな鼻水がつくだろォ!もう三時だぞ!」
「うぅうう……そんなこと言わないでください……私だって頑張ってるんですぅう……」