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過熱する皇位継承議論
皆様、先月末発売の『月刊Hanada』は読んでいただけましたでしょうか? 私、宮本タケロウが「従軍慰安婦問題」に関する駄文を署名記事で寄稿しておりますので、まだの方はぜひお手に取りくださいね。
さて、『Hanada』に限らず、様々な言論誌が本年の11月からの皇位継承議論を先取りし、様々に議論がなされているのはご存知の通りかと思います。皇位が連綿と男系で繋がれてきたことから、伝統に則ると皇統=男系であることは明らかでありますが、「男系論者」の中にも論理性が全くない方がいます。
今回はお一人紹介して、その方の議論の非論理性を見ていきたいと思います。
保守思想が専門の谷田川惣氏に物申す
紹介するのは『皇統は万世一系である』や『皇統断絶計画』の著者、思想家の谷田川惣氏です。8年前に出版された『皇統は万世一系である』は小林よしのり氏のトンデモ女系天皇論を理知的に論破した名著でしたが、近年の谷田川氏の主張は「自分は絶対に正しい」というナゾ前提をベースに構築されている趣があり、少々論理性に欠けると私は思っています。
さて、具体的に見ましょう。
吉重丈夫著『皇位継承事典』で、谷田川氏はこう述べます。
皇位継承の大原則は血統原理となるのだが、それは何に基づくのかというと〃天壌無窮 の神勅″にある。天壌無窮の神勅とは『日本書紀』の天孫降臨の段で天照大神が孫の瓊瓊杵尊らに下した次の言葉である。
「葦原千五百秋瑞穂の国は、是、吾が子孫の王たるべき地なり。爾皇孫、就でまして治らせ。行突。 宝祚の隆えまさむこと、当に天壌と窮り無けむ」
(葦原千五百秋之瑞穂国は、これ我が子孫の王となる地である。皇孫の汝が行って治めよ。さあ行かれよ。宝祚の隆んなることまさに永続するだろう)
吉重丈夫『皇位継承事典』16頁
ここまでは正しいです。はい、正しい。天皇の世襲や存在理由を神話に基づいて肯定すると、天照大神が「我が子孫が王となる地である」と述べたことに行きつきます。谷田川氏の言う通り、「天照大神が「日本は我が子孫が治める国だ」と言ったから天皇は世襲だ」は神話的に正しい主張です。そうでなければ選挙で天皇を選ぶのもオッケーになってしまいます。
ここまでは正しいのですが、問題は「我が子孫」の解釈です。「我が子孫」がなにを指すのかにおいて、谷田川氏は論理性を失います。
谷田川惣氏の強引で勝手な解釈
天照大神の述べる「我が子孫」を文字通りに捉えれば、男系も女系も関係ないのは明白でしょう。にもかかわらず谷田川氏はこう述べます。
血統の種別には男系か非男系のいずれかしか存在しないことから考えても、「吾が子孫」とは男系子孫を意味し、二千年にも及ぶ天皇の歴史で、一度の例外もなく、瓊瓊杵尊にさかのぼる男系により皇位を継承してきた事実は極めて重い。
同上、17頁
どうでしょう?天照大神は「我が子孫」としか述べていないのに、谷田川氏は勝手にそれを「男系」と解釈しています。しかも、強引に「血統の種別には男系か非男系のいずれかしか存在しない」と決めつけます。
決めつけるからには「血統が男系か非男系しかない」という根拠を述べなければいけませんが、谷田川氏は根拠を述べないどころか、こんなことも言い放ちます。
血統の形態には「男系」か「非男系」かのいずれかしか存在しない。母方だけでつながっている血筋があるなら女系となるが、そのような血統はどこにも存在しない。
同上、14頁
「女系」という血統は存在しないのか?
女系という血統はどこにも存在しない・・・ って、本当でしょうか?
政治哲学や保守思想が専門の谷田川氏が、あまり構造主義的な文化人類学に詳しくないのも仕方ないかもしれませんが、「母系制社会」は主にアジアやアフリカの熱帯の農耕民社会に多く存在することは学問の常識です。
全世界の 563 民族集団の中で、母系制社会と呼ばれる社会は 84 民族であり、(世界の全民族)全体の約 15%を占めている。
伊澤花菜「インドネシア・ミナンカバウ族の母系制社会」桜美林大学
母系制社会とは、もちろん、女系の血統で家産や集団(血族)が継がれていく社会を指します。
母系制社会では、原則として母系出自の原理に基づいて社会集団が形成される。子どもは、母方の血縁集団に帰属し、父親は別の集団成員で「よそ者」とされる。(中略)集団は土地や家屋などの共同財産を所有し、それは代々母から娘へと相続される。男性成員の獲得した個人所有財は自分の子どもではなく、姉妹の子どもであるオイ・メイに相続され、世襲財化される。
同上及び前田俊子(2006)『母系社会のジェンダー』ドメス出版
いかがでしょう?女系という血統を持つ文化・社会が地球上に存在することがお分かりでしょうか?
ユダヤ人も女系
このほかにも、有名なところではユダヤ人も女系ですね。母親がユダヤ人(ユダヤ教徒)であれば娘でも息子でもユダヤ人になります。ユダヤ法では父親がユダヤ人でも母親が非ユダヤ人なら、子供はユダヤ人ではありません(イスラエル国籍は持てますが)。
また、これは単なる推測ですが、母系制は熱帯の農耕社会に多い社会制度ですから、弥生時代の日本列島に母系制社会があっても不思議ではありません。
谷田川惣氏に責任ある回答を求める
「血統の形態には「男系」か「非男系」かのいずれかしか存在しない。母方だけでつながっている血筋があるなら女系となるが、そのような血統はどこにも存在しない。」
という谷田川氏の発言がいかに誤りであるか、ご理解いただけましたでしょうか。
皇統の男系主義が歴史上明らかであるのは事実ですが、デマはいけませんね、デマは。
男系派のリテラシー向上のためにも、トンデモ言説の誤りは毅然として正さねばなりません。
谷田川先生、ご発言の「血統には男系か非男系しかない」や「女系という血統は存在しない」に関して、事実誤認だと認めていただけますか? 反論がある場合は令和元年8月10日までに、何らかの方法で回答を明示いただきたい。もし開示方法が思いつかなければ本サイト「お問い合わせ」か、管理人Twitter(@ichijoayaka)までご回答ください。
反論がない場合、勝利宣言を本サイトに掲載させていただきます。