ユグドラシル終焉を告げた後。
モモンガは代表者として100レベルNPCの大部分を伴い、全員で地上に向かった。
他のNPCらは各自持ち場へと戻らせ、待機を命じている。
途中、各階層のチェックも兼ねたが……幸い、ナザリック内部に異変は生じていないようだ。
第八階層の警備を強化させ、各領域守護者にも声をかけつつ、地上を目指す。
この間に、モモンガはNPCと積極的な交流をした。
NPCらもまた、モモンガに話しかけられれば喜んだ。
特に己の創造主の話題に、彼らは深く関心を抱くらしい。
モモンガは彼らの確かな忠誠……そして、奇妙な気遣いを知った。
痴態を晒した記憶がない以上、モモンガとしては、こういうものかと考えるほかない。
ただ、彼らそれぞれの中に製作者たるギルドメンバーの魂が宿るとは……確信できた。
それなりに打ち解け、距離感も、ある程度は掴めたと言えるだろう。
アルベドはずっと腕を絡めており、シャルティアは隙あらば身をすり寄せてきたが。
結婚相手と義理の娘なのだと思えば、愛情がわいた。
特にアルベドには、心の底から愛情があふれ、触れ合わずにいられない。
モモンガは、自ら身を寄せ、時折頬ずりするように顔を当てたり、間近でアルベドを見つめた。
その都度、アルベドは「くふーっ!」と特徴的な笑みを浮かべたが。
己に欲情しているのだなと思えば、奇妙な誇らしさを感じるのだった。
そんな考えが、
一方、シャルティアは娘として、子供扱いしてしまう。
第六階層に至っても、ずっとくっついたままの彼女に提案するように言ってみた。
「ふむ……そろそろアウラやマーレと代わってやってはどうだ?
シャルティアの方が、お姉さんだろう?」
ローブの裾をつまみ、立ち止まるごとに脚に身をすりつけるシャルティアの頭を撫でながら。
他の幼い二人に気遣ってみる。
「え……アウラ、代わりたいでありんすか?」
歪んだ笑みで、モモンガのへそを舐めほじっていたシャルティアが振り向く。
「い、いえっ、あたしたちは大丈夫ですよ!」
「う、うん……また、今度で…………」
アウラとマーレは、慌てた様子で遠慮した。
至高の御方には触れたいが、いろんな汁にまみれた様子を見ると、ドン退きしてしまう。
「アルベドとシャルティアは、あっさり受け入れてくれたが……この姿には違和感があるか?」
女の体になったことで、人見知りされているかなと首をかしげるモモンガ。
「い、いえっ、そーゆーわけではっ!」
「あ、ありま……せん」
二人としては、先刻の痴態がちらついて、顔を合わせづらいのだ。
このあたり、他の大人の面々も同様である。
「どうも距離感を感じるな……アルベドが遠慮せず接してくれるのは、夫婦になったからか?
シャルティアは、製作にも関係した直接の創造主の一人だからかな?」
((いやそれはない))
他の全員が心の声を同じくする。
「下品でしたか……?」
「馴れ馴れしすぎたでありんしょうか?」
けなげな上目遣いで尋ねる二人の髪を撫でて、モモンガが微笑んだ。
「いいや。己の望みをぶつけてくれた方がいい。お互い少し我儘になるべきだろう。
きちんと本音を知らなければ、いい夫婦にも親子にもなれないからな」
「くふーっ♪」
「きひっ……母娘プレイ……禁断の関係でありんすね……♡」
そんな二人のおぞましい表情に気づかず、モモンガは他の者たちを見る。
「だから、お前たちも家族のつもりで、私には遠慮なく接してくれ」
とはいえ、あっさりと受けいられるものではない。
「ソノヨウナ恐レオオイコトハ……」
「至高の御方の力を疑っては、ナザリックが立ちゆきません」
「執事として、主の家族など、あまりにも過分でございます」
そんな風に答える彼らに、モモンガは困ったような笑みを浮かべるのだった。
そうして。
第四階層、階層守護者ガルガンチュアの沈む地底湖のほとりにて。
ふと、モモンガが立ち止まった。
シャルティアが、すかさず脚に抱きつき、下腹部に頬ずりする。
「いかがなさいました、モモンガ様。ガルガンチュアに何か異常でも――」
すわ異常かと、デミウルゴスが問えば。
モモンガは、開いた手を向け、言葉を抑えた。
「いや。そうだったな。家族と言えば……私は謝らねばならぬ点があった」
湖に背を向け、全員に向き直る。
もっとも、シャルティアが呼吸荒く股間に頬ずりしているため、いろいろ台無しだった。
「我が子、パンドラズ・アクターよ。
お前にも甘える権利はあるのだぞ?
それとも……シャルティアのように子供ではないと思うか?」
手を伸ばし、己の生み出したNPC……宝物殿の守護者たる
「とォーンでもございません、我が創造主たるモォモンガ様ッ!
このような緊急時、私などに気遣いいただけるなど、身に余る光栄ッ!」
軍服をはためかせ、最後にカッと音を立てて軍靴を打ち揃え敬礼する。
激しいポーズをとる我が子を、モモンガは苦笑と共に抱擁した。
さすがのシャルティアも、空気を読んで離れる。
「も、モモンガ様ッ!?」
突然の創造主からの抱擁に、パンドラズ・アクターが歓喜のあまり硬直する。
他のNPCから、強い嫉妬の視線。
特に約二名からは、憎悪で殺さんばかりの視線。
「正直、私はお前と顔を合わせるのがいつも恥ずかしかった。
お前は、かつての私そのものだからな。だが、今は微笑ましく愛らしく思えるよ」
今のモモンガの体は柔らかく、甘い香りを放つ。
「ああ……なんと、勿体なきお言葉ッ!」
創造主に触れ、愛情を注がれ、歓喜に震えるパンドラズ・アクター。
だが。
「ふふ、こんな風に腹を割って話せるのも、アルベドという素晴らしい伴侶を得たおかげだな」
「「えっ」」
約二名を除く全員が硬直した。
そんな反応も気にせず、モモンガは微笑み、アルベドに視線を向ける。
「まあ、モモンガ様こそ、私などには過ぎた御方です♪」
悪鬼じみた顔から、一瞬で淑女の仮面をつけて。
守護者統括は微笑み、返す。
「「は、はは……」」
他の者たちからは、渇いた笑いしか出ない。
デミウルゴスは、主が羞恥を感じずいるのは痴態を晒したせいでは……と思ったが。
口には出さなかった。
彼はできる悪魔なのだ。
実際のところ、
全てはペストーニャから受けた〈
ついでに、(無自覚とはいえ)己の貞操を失ったゆえの奇妙なテンションでもあった。
先刻からアルベドとシャルティアの不埒な指は、しきりにモモンガの体を愛撫していたが。
ただじゃれつきくすぐっていると考え、余裕ある態度を保っていた。
効果が切れれば、過敏な体は二人によって即座に蕩かされていただろう。
この道程は、たいへんな綱渡りだったのだ。
幸いにも……効果が切れる前に、一行は目的地に至る。
ナザリック地下大墳墓、第一層。
地上とつながる入り口である
そして、彼らは“外”を見た。
「こ、これは……」
どこまでも広がる草原。
リアルとまるで違う自然の空気。
そして何より、空にまたたく、満天の星空。
「「も、モモンガ様、不用意に出られては!」」」
ふらふらと外に歩き出した彼女を、全員が囲む。
主にアルベドが背後から抱きすくめ、シャルティアが脚へとしがみつく。
「す、すまない……しかし、ここは……いったいどこなんだ」
不安げに見つめて来るモモンガに、答えられるものはいなかった。
己のいたらなさに、それぞれが目を伏せる。
(やっべー、モモンガ様の体めっちゃ柔らかー、いい匂いしすぎぃ♡
胸揉みまくってもぜんせん怒らないし、モモンガ様マジ神すぎじゃね)
(はぁはぁ、ローブの中に潜り込めたでありんす。
おみ足にまだまだ汁跡がっ……な、舐めとっておきんせんとっ♡)
約二名も、それどころではなかった。
今回は展開消化回っぽいお話でした。
全員でお外を見るので、世界征服フラグは起きません。
ただし、全員全力のガチな情報収集が開始されます。
なお、今回のお話で気づかれた方も多いかと思いますが。
性的な意味では、アルベド、シャルティア、クレマンティーヌ、レイナースが好きです。
性的でない意味では、パンドラズ・アクターが大好きです。
このお話は自分得を念頭に置いてるので、精神状態がアレなモモンガさんに、パンドラズ・アクターと早々に仲良くなってもらいました。
地上活動において、彼にはフルスペックで無双してほしいので……。
とはいえ、この話で地上描写をどれだけやるか、謎ですが。
次はまた元の空気に戻ります。
次回「カリスマ死す」デュエルスタンバイ!