エグゼイド&ゲンム in IS   作:Momochoco
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これで完結でも良い気がしました


5.Brunhildをぶっとばせ!

 戦いを告げるブザーがアリーナに響き渡る。

 その瞬間フィールド上に立っていた黎斗と千冬、両名は意外にも全く動こうとはしなかった。

 否、動こうとしない千冬に黎斗が合わせたというのが実情であった。

 

「黎斗、一つ聞き忘れていたがお前の乗っているプロトマイティとやらには武装は積まなかったのか?」

 

 千冬の動かなかった理由は黎斗の装備にあった。戦いにおいて武器を持っている者と素手の者では大きな差が出来る。山田が永夢の実力を図るためにあえて武装と素手という戦いを行ったのに対して、千冬は今回の黎斗との戦いをテストとは捉えておらず公平な試合にしたいと考えていた。だからこそブレードを使おうと思っていた千冬は、武器を展開しようとしない黎斗に疑問を持っていたのである。

 千冬の質問が思っていたよりも下らない事に黎斗は内心呆れる。

 

「……バススロットに関してはまだ調整が不十分でね。実戦で不具合を出すよりは最初から使わないことにしたのさ」

 

「なるほど……、だったらこれを使え」

 

 そう言うと千冬はブレードを展開し、黎斗の前に投げつける。その後、自身も自分用のブレード装備する。千冬はこの試合でブレード以外の武器を使う気はない。完全に平等な戦いを望んでいるからであった。

 そんな千冬の思惑を悟った黎斗は自分の目の前に刺さっているブレードを引き抜き品定めをするようにじっくりと見まわす。

 

「ガシャコンウェポンに比べたらゴミみたいな武器だが……、まあいい。私に塩を送ったことを後悔するといいィ!織斑千冬ゥ!」

 

 ―――武器を精察し終わった瞬間、黎斗はマイティのジャンプ能力を生かし地面を蹴り上げ千冬に一気に接近する。そしてそのままブレードによる一撃を与える……はずだった。

 

「……いきなり、奇襲をしかけるとは女性に対するマナーがなってないんじゃないか、黎斗?」

「!?」

 

 黎斗の攻撃は寸でのところで千冬のブレードに遮られる。これには黎斗も思わず驚きを隠せないでいた。事実、黎斗の不意打ちはタイミングにおいては完璧だったと言える。それをさも当たり前のように受ける千冬の反射神経と身体能力が異常なのである。

 そのまま千冬の力に押されて弾き飛ばされた黎斗は地面を転がっていく。

 片手だけで自分を押しのける千冬の馬鹿力に呆気にとられたのも確かだが、このままやられてばかりという訳にもいかない。黎斗は態勢を立て直しすぐに目標である千冬を見据えるが既に姿が消えていた。

 

「……どこを見ている。上だ」

「クソっ!」

 

 千冬は瞬間的にスラスターを限界まで飛ばし黎斗の頭上後方にまで飛んでいた。そのまま背後を切り付けられるが今度は先ほどのように地面を転がらず受け身を取る。

 しかし、目の前に表示されている機体情報には深刻な損傷状況が映し出されていた。

 たった一撃、その一撃で黎斗の予想よりも多くのエネルギーが削られている。体からは汗が止まらずに出てくる。決して舐めていたわけではないが、それでもISにおける実力の違いが今の数分で感じ取れた。

 これがブリュンヒルデの実力。普通に戦っていたらまず勝てない。必死に思考を巡らせる黎斗。

 

 それとは対照的に千冬は余裕をもって地面に着地する。決して黎斗という男を過大評価してたわけではない。永夢の話からもっと強い奴だと連想していたがどうやら自分の思い過ごしであったと失望する。 

 

「どうした黎斗、まさか今の一撃で実力差を悟って戦意喪失したわけではあるまい?天才ゲームマスターの実力というのはこの程度なのか?」

 

 千冬は黎斗に対して煽りを掛ける。単純にこのまま自分が勝つことになっても今回の戦いを通してISの基本を学んでほしいという思いからの挑発だった。

 顔を上げた黎斗を見て千冬は思まわず固まってしまう。

 

「……クク…ヴェハハダァーハハハハハアーハハハハハハ!!!」

「何だ?」

 

 突如として奇声とも取れる笑い声を発する黎斗。その姿は正に狂人であった。

 

「……もう勝った気でいるとは本当におめでたい頭をしているなァ!織斑千冬ゥ!勝つのはこの私ィ、檀黎斗だぁぁあああ!!」

 

 

 

 

「ひぇ!黎斗君大丈夫何ですか!?もしかして織斑先生の一撃で頭でも打ったんじゃ……」

 

「あー、あれがあの人のデフォルトというか何というか……、まあ心配はいらないと思いますよ。それよりも織斑先生は強いですね。黎斗さんがISに乗るの初めてとはいえあそこまで実力に差があるなんて」

 

 永夢と山田は黎斗と千冬の試合を観戦していたのだが、そのあまりの一方的な試合運びに黎斗の心配をしていた。

 

「はい。織斑先生はIS、いえ人類レベルで強いですから。普通に戦ったのではまず黎斗君に勝ち目はありません。それでもあそこまで強気になれるということは何か秘策でもあるのでしょうか?」

 

「そうですね……。僕の経験から言えば黎斗さんはこのまま終わるわけがない。何か策があってのことだと思います」

 

 そう話す永夢の表情は複雑そうであった。これまで散々苦しめられてきたのも助けられたのも、何より黎斗の才能があったからこそ。だから黎斗自身のあきらめの悪さと執念は誰よりも永夢が知っていた。

 

「もし勝てるとしたアレを活用するはず。無理はしないでくださいよ……黎斗さん……」

 

 

 

 

 黎斗は勝利宣言をした瞬間、後方へとジャンプする。千冬はため息一つ吐くと後方へ下がる黎斗に正面から追撃を掛ける。千冬が黎斗に接触するよりも早く黎斗が背中で『あるもの』に触れる。

 そう!それは黎斗がこの試合が始まってすぐに最初の配置を記憶していた逆転の一手!

 

「織斑千冬ゥ!確かに君の戦闘能力は単純に私はおろか永夢でさえ凌駕する!だがァ!ゲーマーにはゲーマーの戦い方がある!」

 

『高速化!』

 

 黎斗の奥の手、それは自分達がこれまで活用してきた「エナジーアイテム」を使った戦術。状況によってはレベル差をひっくり返すことが出来る強力な力を持つエナジーアイテムの使い方はライダーである黎斗だからこそ知りえるのである。今回取った高速化は高速移動を可能にするエナジーアイテムであった。

 

 今度は千冬の方が思わず驚きの表情を浮かべる。先程まで目の前にいて追撃をかけていたはずの黎斗が消えたのだ

 千冬はあくまで冷静に頭を働かせる。先程、黎斗がエナジーアイテムを取った時に流れた音声は高速化。そのままの意味にとるなら高速移動の能力を手に入れたということ。だとすれば狙ってくる場所は……。

 

 ―――背後だ。最短の動きで後ろにブレードを向けると、背後に回って攻撃を仕掛けていた黎斗のブレードとぶつかる。

 

「ガギキイィィンン!!」

 

 ブレードとブレードがぶつかったことで甲高い金属音が鳴り響く。

 

「それがエナジーアイテムとやらの力か!凄まじいなその速さ、そして面白い戦い方をする!ふふ、久々に心が躍るなあ」

「そのセリフを私の前で吐くなァアア!」

 

 黎斗は高速化を生かし連続攻撃を仕掛けていく

 だがそれを千冬は持ち前の並外れた感と、反射神経で黎斗のブレードを裁いていく。

 もはや千冬のそれらは人外クラスであり、普通のIS乗りでは到達しえない武の領域に立っていた。

 

 黎斗の方も威勢良く吠えてはいるが、内心千冬の人間を超えた力に無自覚の内に畏怖して―――はいなかった。これが人類最強の力……おもしろい私が勝利し必ず戦闘データを有用なモノにしてみせる、そういう考えがあった

 

 何発か打ち込んだものののどれも寸でのところで対処される。高速化の効果が切れる寸前で周囲のエナジーアイテムを取りに行く。

 

『マッスル化!』『透明化!』『マッスル化!』

 

 高速化の効果はキレたが代わりに手に入れたエナジーアイテムを使い千冬に強襲する。

 透明化により気づかれない状態で千冬に近づき全力でブレードを振りかざす。

 マッスル化×2による全力の一撃は千冬の胴にもろに入りそのままアリーナの壁にたたきつけられる。勝負は決していないがそれでも今の一撃でエネルギゲージは大きく減った

 

 その後も透明化した黎斗が千冬を一方的に追い詰めていく。

 

 しかし、千冬も黙ってやられる訳にはいかない。意識を集中し黎斗の気配を読んで強引にブレードで切り込みに行く。更に人間離れをしていく千冬に黎斗が思わず舌打ちをする。

 

「強引に突破してくるとは……、ならばこれをくらえェ!」

 

 黎斗は近くにあったエナジーアイテムを隙を見せた千冬に投げつける。千冬も油断していたのかそのままエナジーアイテムは直撃する。

 

『混乱』『睡眠』

 

 それをくらった瞬間、千冬の乗るラファール・リヴァイヴは制御取れなくなったのかまったく、でたらめな動きを取る。

 

「何をした黎斗!眠気と体が自分の思い通りに動かない!」

 

「エナジーアイテムには有用な効果を持つものばかりではなくてねェ!こうして相手に押し付けあうのも作戦の一つさ。さて、一気に決めるか」

 

 エネルギー残量的には黎斗の方が多く、あらかた周囲のエナジーアイテムは使いこんだ。残るは目の前の織斑千冬を倒すだけ。

 黎斗は『混乱』と『睡眠』によりデバフをくらっている千冬に容赦なく攻撃を浴びせていく。

 

 

 ―――だが、状況はあることを境に一変する。まともに動けないはずの千冬が黎斗の大振りの一撃に対してカウンターを入れたのだ。

 

「何故だァ!『睡眠』と『混乱』の効果で戦える状態ではないはずなのに!」

 

「眠気は気合で吹き飛ばした。混乱は要は動きが逆になる効果なのだろう?ならその逆を動かして元の動きに戻したまでだ」

 

「なるほど。だがかなり弱体化したと見える。一気に決めさせてもろうかぁああ!」

 

「来い、黎斗!」

 

 ブレードとブレードがぶつかり合いお互いのISにダメージを与えあう。前半では圧倒的に千冬のペースだったのが今では五分五分にまで持って来れている。檀黎斗という男の力を遂には千冬も認めたのだった。

 エネルギーが底をつきかけた時に遂に黎斗が勝負に出る。

 

「この一撃で全てを終わらせようォ!!」

 

『マイティクリティカルストライク!!』

 

「私の全力をもって止めてみせよう!!」

 

 剣を投げ捨てた黎斗は全力の蹴りを千冬に向けて放つ。千冬はそれを剣の腹で抑える。もしこの攻撃が決まれば黎斗が勝つことだろう、だが逆に千冬が耐え抜けばキメワザにエネルギーをつぎ込んだ黎斗の敗北が決まる。

 周囲が二人のぶつかり合いにより砂ぼこりが舞う。

 砂ぼこりが辺りを隠す中立っている影と地べたに這いつくばっている影の二つが見える。

 

 どうやら結果はついたようだ。

 

 ―――砂煙が晴れそこに立っていたのは『織斑千冬』だった。

 

 黎斗の最後の攻撃を何とか耐え切ったのだ。

 

「まだだァ!まだ、私は負けを認めたわけではない!次こそ必ず勝ってやるぞォ!」

 

「私自身も勝った気はしない。それだけギリギリの戦いだったということだ。必ずもう一度戦い、それを決着としよう」

 

 そう言って倒れている黎斗に手を差し伸べる。黎斗は戸惑いながらも手を借り立ち上がる。一見悔しがっている黎斗だったが本来の目的を達成したことで心の中で笑う

 

(負けたのは癪に触るが、今回の戦闘データはかなり有用だ。これであのガシャットたちの改修に大幅に役立つだろう。いずれ倒してやるぞ織斑千冬ゥ!)

 

 黎斗と千冬の戦いは、千冬の勝利で幕を閉じたのだった。

 

 

 そして、それから一ヶ月 IS学園の入学式が行われ新たな物語が始まる。

 

 



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