エグゼイド&ゲンム in IS 作:Momochoco
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次こそは変身させたい
近くにあった五反田食堂なる店で昼食を取った永夢と黎斗は教えてもらった場所にある図書館を目指していた。
ちなみに通貨も一緒だったため永夢がしっかりと黎斗の分も払ったのだった。
「美味しかったですね、黎斗さん」
「ああ、私はずっとバグスターだったからな食事というのも久しぶりだ」
永夢はそういえばそうだったと思い出す。よく考えれば黎斗とこうして街中を歩くことになるなんて変な気分だったと永夢は思う。だが前に見た時よりも黎斗の顔は幾分かスッキリしており憑き物が落ちたようだった。それはバグスターから人間に戻った影響か、それとも黎斗自身の心境の変化かは分からないがどちらにしろ良いことだと永夢は感じていた。
黎斗はご満悦顔で腹をさすっているが、あることを思い出して永夢に問いかける。
「そういえば永夢、君は今どれくらいのガシャットを持っている?」
「一応、僕が持っていたマイティXとダブルマイティ、マキシマムにムテキは持ってきています。それと確認はしていないんですけど、貴利矢さんや大我さん、飛彩さんからもいくつか借りてきました。あ、ニコちゃんからはこの帽子を。ただゲーマドライバーは一つだけです」
「なるほど……、まぁ、バグスターウイルスが存在しない以上使えないと思うがな。あとで改修しなければならないか」
「……もう、あんな悪さはしないで下さいよ」
永夢の言葉に檀黎斗は小さな声で「善処しよう」と答えた。神を捨て、医療の未来をドクターに託した黎斗ならもう無茶なことはしないと思うが、一応心配な永夢だった。二人が歩いているところで図書館が見えてくるが、何やら多くの人が集まっているようだった。永夢が目を凝らしてみてると近くの看板に「全国IS一斉検査実施中」と書かれていた。
永夢と黎斗は目を合わせる。
「黎斗さん……、やっぱりこの世界って……」
「ああ、本当に仮面ライダーではなくISとかいう物が作られた世界らしい」
二人は先ほど寄った食堂の店員に大まかな歴史を教えてもらっていた。どうやら2000年問題におけるバグスターの発生や、パラドが永夢に教えてくれたスカイウォールの惨劇なども起きておらず、かわりにISが作られたらしい。最初は半信半疑だった永夢だったがこうして実際の検査場面を見ると一気に確信へと変わった。
永夢は考えていることを黎斗に相談する。
「検査どうします?嫌な予感がするんですけど……」
「私も君と同意見だ。だがこれだけ全国的に行われている検査を避け続けるのは難しいだろうな」
「そうですよね……、仕方ないか……一度受けてみましょう」
ISが女性しか使えないということと、男性で使えるものがつい最近出たということも二人は五反田食堂で聞いていた。二人には自分達がISを使えるという確信はなかったが、何となく使えてしまいそうという予感はあった。だが、使えることがばれたなら面倒くさいことになるのは目に見えていた。しかし適性検査は今や世界中で行われていること、二人が避け続けるには限度があるのだ。
仕方なく列に並ぶ二人だった。
◆
その日、IS学園の教師である織斑千冬は疲れ切っていた。
一ヶ月ほど前に自分の弟である織斑一夏が男でありながらISを起動したことで世界中から対応に追われていた。IS委員会や国家機関への対応、一夏の所属についてなど仕事は腐るほど多かった。それを一つずつ対処していきそれがひと段落着いたのが今日のことだったのだ。
机にうっつぷして溜息を量産する千冬に、同僚の教師である山田真耶は見てられず声を掛ける。
「織斑先生大丈夫ですか?死にかけてますけど……」
事実、織斑千冬の見た目は死にかけていた。目の下には寝不足が続いているのか隈が出来ており、肌はどこか青白く、髪ははボサボサだった。例えるならハイパームテキを開発していた黎斗のようだった。
「山田先生か……、さすがにこうも仕事が続くとさすがにな……、はぁ、酒が飲みたい」
「えっと、なら今日は一緒に食べに行きますか?一段落着いた打ち上げということで焼肉とかどうでしょう?」
「焼肉!?」
瞬間、千冬の頭の中に焼肉への思いが溢れる。カルビにタン、ロース、ハラミ、それらを食べながらビールを掻っ込む。千冬は思わず考えただけで涎が出そうになっていた。今日の勝利の法則は決まったと言わんばかりに顔に精気が戻ってくる。
「行こう山田先生!焼肉で決まりだ!夜は焼肉っしょ!フッフゥウウウウ!」
「……ま、まあ、織斑先生が元気になるならそれでいいですけど」
二人が騒いでいると千冬宛に電話が入ってくる。それに気づいた山田は千冬に電話がなっていることを促す。
「あっ、織斑先生電話が鳴っていますよ!」
「ん、ああ、すまない。テンションが上がりすぎて気付かなかった」
そう言ってコーヒー片手に電話対応をする千冬。もう完全に調子づいていることは山田の目を通しても明らかだった。ただ先ほどまでの死にかけよりはマシであるのは確かだった。
山田も自分の席へ戻ろうとした瞬間、千冬の声が職員実銃に響き渡った。
「何!男性操縦者が見つかっただと!しかも二人で戸籍もないだと!」
千冬の言葉は山田は勿論、職員室の中の教師が息をのんでしまう。仕方のない事であったこれまでISは女性にしか乗れないというのにその概念がたった一ヶ月ほどで崩れ去ろうとしているのだから。
通話を終わらせた千冬は呆然と座りつくすだけだった。
「どうやら私の地元で発見されたらしい、急いで新しく見つかった男性操縦者の元へ向かう。山田先生、今夜の焼き肉は行けそうにない。もちろん君もだ」
「……はぁ、がんばりましょう……織斑先生」
千冬と山田先生は急いで準備をする。どうやら千冬の眠れない夜はまだ続きそうなのだった。
◆
一方、検査を終えて無事に騒ぎとなってしまった永夢は後悔していた。というのも思ったよりも大事になっていたからだ。現在は適性検査が行われた図書館の一室で拘留を受けている。自分は黎斗のゲームに付き合うつもりでガシャットを起動したのだが現在の状況はそれとは程遠く、人生何が起こるかわからないなと心から思う永夢であった。
黎斗の方はそんなことは関係ないという風に職員に持ってこさせた本を読んでいた。その中の一つ、ISについて書かれた本の中の一文が気になったのか永夢を呼ぶ。
「宝条永夢ゥ!こっちに来てこれを読んでみろォ!」
「もう、黎斗さん騒がないでくださいよ。どうしたんですか……って、これISの誕生経緯についての本ですか?」
「そうだァ!この部分を読めェ!」
永夢は黎斗から受け取った本「漫画で読むISの歴史」のとあるページを読む。そこにはISにはコアというものがありそれを作れるのは篠ノ之束博士ただ一人であるということが書かれていた。そして、コアの数には限りがあるということらしい。
「なるほど、この世界では僕たちが思っていた以上にISの影響が大きいということですね……。作れる人や上限もあるんじゃ余計にISの取り合いになってしまうし……。僕達はもう少し慎重になるべきでしたね、黎斗さん」
「そういことではぬぁい!私が言いたいのは、この篠ノ之束という奴が傲慢にもこの世界でゲームマスター気取りでいるのが気に入らないということだ!天才などと言われているようだが、女性にしか扱えないようなゲームを作り出すなどゲームマスター失格!私ならもっと優れたものを作って販売するというのに!」
「…………ただの嫉妬じゃないですか」
「断じて違う!待っていろ篠ノ之束!今にISを超えたものを私がこの世界で作り出してみせる!」
そのまま黎斗はISの専門書の方を新しく手に取り猛烈な勢いで読み始める。どうやら本気で束をライバル視しているようだった。
いつもの悪い方の黎斗が出てしまったことに呆れる永夢は本を読み進めていく。そこにはIS誕生の経緯や現在における立ち位置などが子供でも分かるように書かれていた。永夢自身は小児科医をしているということもありこういった学習漫画は好きだったりする。その中で読めば読むほどあることに気付いてくる。
(束博士と黎斗さんはやってることが似てるなあ……)
どう考えてもマッチポンプな白騎士事件にISの製作、そして世界をかき回すだけかき回していなくなる辺り、やってることはだいぶ似通っていると永夢は感じた。
(黎斗さんがあってもいない束博士をライバル視しているのは何処か自分と似たものを感じ取ったからとか?……ありえるな…………)
本に写っている篠ノ之束の写真も、色合いとかが黎斗に割と近いように永夢は感じた。
とにかくISの基礎的な知識は知ることができた。後は自分達がどうなるのかが気になる永夢。
そんな不安で一杯な永夢と黎斗の部屋にノックもなしにスーツを着た女性が二人入ってくる。片方は緑の髪(?)に眼鏡を付けた女性で、もう片方は黒髪黒目のクールな感じの女性だった。
「遅れてすまない、私はIS学園の教員で「織斑千冬」。君たちのこれからの処遇の力添えをするためにここに来た」
「同じくIS学園の教員をやっている「山田真耶」です。永夢君、黎斗さん、私達が必ず身の安全を守りますから安心してください」
「僕は宝条永夢です。よろしくお願いします」
「私は檀黎斗。よろしくお願いします、山田先生に織斑先生」
挨拶もそこそこに備え付けの簡易テーブルをはさんで向かい合うようにして座る永夢と黎斗、それに千冬と山田。千冬はお茶を飲み一息ついた所で本題に入る。
「まず、単刀直入に聞こう。君たちについてのあらゆる情報が全く見つからなかった、君たちは何者だ?」
小声で会話する永夢と黎斗。真実を話すべきかどうかを決める。
「さっき読んだ新聞では、千冬さんは一人目の男性操縦者の姉らしいんです。そして千冬さん自体もISの世界大会で優勝した経緯を持っています。後ろ盾になってくれるなら心強いと思いますが、黎斗さんはどう思いますか?」
「私もそれで構わない」
覚悟を決めた永夢はこれまでの経緯について要点だけ説明した。前の世界で起きた事件やこの世界と永夢の世界の違いなどだ。
最初は半信半疑だった山田と千冬も永夢の必死の話にだんだんと信じるようになってきた。そして最後には別の異なる世界から来たことを認めたのだった。
「お前たちの話は分かった。一応、信じてみよう。それと永夢と黎斗を狙って研究機関や諜報員などが狙ってくる可能性がある、まずはIS学園に向かおう。そして永夢にはそのまま入学してもらうのが一番安全だと思う」
「わかりました、僕の立場はそれで構いません。黎斗さんの方は?」
「そこはおいおいだな。まずはIS学園についてから考えよう」
四人は図書館を出てIS学園に向かうのだった